平凡だった一人の人間がステージ上でスポットライトを浴びた瞬間、世界の視線は一変する。
カメラの前で震える声で歌っていた無名の練習生が、いつの間にか“国民的センター”となり、SNSには彼の名前を叫ぶファンが現れる。オーディション番組は、そんなふうに一般人がスターになる奇跡を見せながら、K-POP産業の一翼を担ってきた。
『スーパースターK』『K-POPスター』『PRODUCE 101』など、数多くのオーディション番組がその代表例だ。これらの番組は単なる競争を超えて、“発掘”と“成長”、そして“縁”のドラマを生み出してきた。
しかし、あまりに似通った形式と速すぎる消費の繰り返しは、このフォーマットに対する“視聴者疲れ”を引き起こした。その結果、しばらくの間、オーディション番組は大衆の関心から遠ざかっていた。
そんななか、いま放送業界は再びオーディション番組を前面に押し出している。ファンダムとコンテンツIP、そしてグローバル市場を同時に狙う複合的な戦略の中で、K-POPオーディション番組は再び“勝負の一手”として注目を集めている。
新たなオーディション番組が続々と準備
韓国SBSの『B:MY BOYZ』は6月21日の初放送を控えており、Mnetの『BOYS II PLANET』も7月に公開予定だ。

この『B:MY BOYZ』と『BOYS II PLANET』は、それぞれ異なる構成でオーディションの物語を描こうとしている。
『B:MY BOYZ』は、顔を初めて世に出す練習生たちを中心に、人間関係や感情の流れを少しずつ積み重ねるドラマに重きを置く。一方の『BOYS II PLANET』は、すでに一定の認知度を持つ参加者が多く出演しており、初期段階からファンの流入や話題性を獲得しやすいという利点がある。
視聴者がどちらの物語により深く没入するかによって、番組の成功の方向性も左右されるだろう。
ある放送関係者は「結局は、どれだけ真摯な物語を設計できるかが勝負の分かれ目になる。再びオーディションブームへの期待が高まっている」と語った。
オーディション番組成功のための“3つ”の条件
成功に向けた最初の課題は「差別化」だ。

今の視聴者は、もはや名前も知らない練習生たちの競争だけでは惹きつけられない。同じような歌を歌い、同じようなダンスを見せるフォーマットは、すぐにチャンネルを変えられてしまう。
オーディションを“競争”としてではなく、“成長”や“物語”として見せていく必要がある。ファンは歌そのものよりも“人”に興味を持ち、結果よりもその過程を応援したくなる。そうした物語性こそが、番組に温かみをもたらす。
2つ目は、「実力を中心にした評価システム」だ。
人気投票だけに依存した構造では、実力よりもファンの規模が結果を左右しがちで、そうした状態が続けば“真実味”はすぐに疑われてしまう。
審査基準を細分化し、専門家の評価と大衆の選択がバランスよく反映される構造が求められている。特に、パフォーマンス力、ボーカル、創作能力などを多角的に評価するシステムが必要だ。
3つ目は、オーディション終了後の「持続可能性」だ。
デビューさせるだけで終わってしまう構造では、ファンを見捨てることと変わらない。デビューチームのリアリティ番組、ショーケース、YouTubeチャンネル、グローバル活動など、オーディション後のすべての道筋を計画してこそ、初めて1つの完成されたIP(知的財産)として位置づけられる。
プロジェクト型グループという名のもとに忘れられていくチームが増えれば増えるほど、オーディションへの信頼も薄れていく。

ファンが制作に参加し、参加者の本音が伝わり、デビュー後まで綿密に設計された強固な構造が整えば、オーディションは再びKコンテンツを世界に広げる原動力となるだろう。
文化評論家のハ・ジェグン氏は、「過去の一部オーディション番組は、順位操作や不正編集などで公平性を疑われ、信頼を失った。今や、番組の“誠実さ”と“透明性”に対する視聴者の基準は格段に高まっている。ただ“誰を選ぶか”よりも、“どのように選ぶか”がより重要な時代だ。すべての過程を透明に運営してこそ、視聴者の信頼を得て、番組が長く生き残ることができる」と指摘した。
続けて、「オーディション番組は、前シーズンが残した認知度と期待値が、次のシーズンの話題性を生む構造になっている。今回のシーズンの成果は、単にデビューチームの成功・失敗にとどまらず、シリーズ全体の存続に関わる重要な分岐点になるだろう」と付け加えた。
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