【仏教とIT】第30回 史上初!お坊さんのプロモーションビデオ! | RBB TODAY

【仏教とIT】第30回 史上初!お坊さんのプロモーションビデオ!

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【仏教とIT】第30回 史上初!お坊さんのプロモーションビデオ!
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コロナ禍の全国ロケ



8月1日、音楽アーティストSALLiAさんの楽曲「Face to」のミュージックビデオが公開された。この「Face to」、歌詞は仏教からインスピレーションを得て書かれ、そして、映像は全編がお坊さんのプロモーションビデオの体裁をとるという、異例の作品になっている。



出演しているお坊さんは4人。湯川寺の筒井章順さん、蟠龍寺の吉田龍雄さん、光源寺の山崎聡志さん、そして私である。いずれも浄土宗の僧侶だが、地域はバラバラ。湯川寺は北海道。蟠龍寺と光源寺は東京。私のお寺は京都である。

平時なら、移動のコストと時間を惜しまなければ、撮影班がお寺をめぐって映像を撮ることも可能だが、ロケを行ったのは緊急事態宣言が解除されて早々の6月中旬。首都圏や北海道への県をまたぐ移動は慎重を期すべき時期だったし、仮に県をまたがなくても、何名もの撮影クルーがお寺に押し掛けるのは心理的にはばかられた。したがって、カメラマンをお願いしたのは、お寺によく出入りしているごく普通の女性たちが中心。湯川寺の場合は、お寺の向かいにある雑貨屋の女性。私を撮影したのは、お寺に日々出入りしているスタッフ。そして、SALLiAさん自身も蟠龍寺ロケのカメラマンを担当した。

そのような制限下のロケ。撮影者の技量は一流のプロと比べればもちろん劣る。使用できる機材も限られていた。しかし、iPhoneしか手持ちのカメラがなくても、“お坊さん萌え”を知る女性しか撮れないような素材が揃えられたら、良いプロモーションビデオができるはず。そう信じて、各地でロケを重ねていった。

掃除中に笑顔を見せる筒井章順さん。梅雨時期の撮影にも関わらず、ロケ日はすべて快晴


撮影された映像は、ネット経由ですぐに一か所に集められ、その後、編集作業。打合せや情報共有などもすべてオンラインで行い、ロケの時間を除けば関わった人どうしも基本的に会うことはないという、ウィズコロナ時代らしい制作作業を続け、7月末、映像が無事に完成した。


仏像に救われて



この企画を発案したのは、私たちお坊さんではなく、他ならぬSALLiAさん本人である。

SALLiAさんは、幼少期からいじめ、不登校、家庭内の不和のなかで育ち、強姦未遂にも遭うなど、精神的に追い詰められた厳しい日々を生きてきた。「死にたい」という気持ちは常にそばにあったという。しかし、20歳のある日、ふと仏像の本をめくったとき、衝撃が走った。「昔から多くの人々の苦しみを受け止めてきた仏さまなら、私の苦しみのすべても受け止めてくれるかもしれない」と思った。

音楽アーティストSALLiAさん


その後、シンガーソングライターの道へと進んだSALLiAさん。USENで1位になるなど活動が軌道に乗り始めた矢先に、ミュージシャン生命の危機に見舞われる。エステに行った翌日に足が動かなくなったのである。3ヵ月が経ち、なんとか歩けるようになったとき、京都の東寺を訪ね、講堂の大日如来の前で自分の不幸な人生を心から呪った。しかし、大日如来の厳しい眼差しは、その呪いすらも打ち砕いて包み込んでくれた。

「幼いころから『なんで自分だけ辛い目に』と憎しみを抱いて生きてきましたが、憎しみに燃えてもなにも生み出しません。負のスパイラルに陥るだけです。逆に、辛かった経験を糧にして幸せに生きようと心がければ、人生は180度変わります。すべては心ひとつ。仏教が昔からずっと教えてきたことが、心の底から理解できました


仏像との出会いから救われたSALLiAさんは、仏教の教えによって幸せに生きるすべを伝えたいと願うようになった。仏像オタクニストを名乗って講演や著述活動を行うほか、最近は「仏の教えを日常に使おう!講座」「人生が変わる!マインドフルネス入門講座」を実施するなど、ミュージシャンの枠にとどまらない多彩な活躍を見せている。

経典の言葉をたくみに引用し、人生に仏教を生かすすべを語る



神聖なものは日常のなかに



さて、「Face to」の話に戻る。歌詞は、仏教の教えそのものである。

「諸行無常の揺れ動く世の中を生きるのは、誰だって苦しい」
「それでも苦しみに呑まれずに生きるには、覚悟という名のともしびを頼るしかない」
「そのともしびを、私たちは今ともそう」

私は、昨年の末ぐらいに、この「Face to」の音源を聞かせてもらった。そして、「この曲に合わせて多くのお坊さんが踊る映像を撮りたいです」「映像の力によって日本の仏教文化を世界に届けるために協力してもらえませんか」と相談を受けた。極めてユニークな試みだと思った。「やりましょう」と約束したが、日に日に新型コロナウィルスの感染が拡大し、お坊さんが集まって踊るロケは実現不可能になった。やむをえず私は「しばらく待ちましょうか」と申し入れた。しかし、SALLiAさんは諦めなかった。「こういう時期だからこそ、人々の命に寄り添ってお坊さんが祈る姿を映像で届けたいです」と真摯な言葉が返ってきた。私は再びその熱意に動かされ、知人たちに声をかけた。皆が喜んでボランティアで協力してくれた。

キャスティングも決まり、映像のコンセプトについて打合せをしていたとき、SALLiAさんは「お坊さんの日常を撮りたい」と言いつつ、しかも「お坊さんの神聖さを伝えたい」とも語った。私は当惑した。“日常”と“神聖さ”は相容れないからである。趣味に興じてる風景や家族と団らんしている俗っぽい生活感などが映れば、その後に本堂で神聖さを演じてもどこか虚しいだろうと思った。

DJとしての吉田龍雄さんの姿も撮影



私の危惧を伝えたら、SALLiAさんは「でも日常のなかに神聖なものがあるからいいんです」と引かなかった。そして、「お坊さんも苦しみながら日常を送っている姿を見たときに、仏教の祈りがはるか遠いものではなくて、私自身のものでもあるように思えたんです」と言葉を重ねた。
――腑に落ちた。

日常のなかにない、無限遠の神聖さなど、生きていく役に立たない。お坊さんだって、泥臭い日常を生きている。そのなかの精いっぱいの背伸びが祈りである。だからこそ、祈りは身近なものでありうるし、お坊さんに“萌え”を感じる人がいる。

そのようなSALLiAさんの願いを受けて完成した、類例のないお坊さんプロモーションムービー「Face to」。
まずは浄土宗の祈りを届けたが、SALLiAさんは他宗派バージョンも制作して、祈りの持つ力を広く根付かせていきたいという。私はその思いにささやかながら力を尽くしていく。読者の皆様も、お坊さんの祈りを、自分事として日常のなかに感じてほしい。そうすれば、コロナ禍の日常を生きていくよるべになると信じている。

池口 龍法氏
池口 龍法氏

【著者】池口 龍法
1980年兵庫県生まれ。兵庫教区伊丹組西明寺に生まれ育ち、京都大学、同大学院ではインドおよびチベットの仏教学を研究。大学院中退後、2005年4月より知恩院に奉職し、現在は編集主幹をつとめる。2009年8月に超宗派の若手僧侶を中心に「フリースタイルな僧侶たち」を発足させて代表に就任し、フリーマガジンの発行など仏教と出合う縁の創出に取り組む(~2015年3月)。2014年6月より京都教区大宮組龍岸寺住職。著書に『お寺に行こう! 坊主が選んだ「寺」の処方箋』(講談社)、寄稿には京都新聞への連載(全50回)、キリスト新聞への連載(2017年7月~)など。

■龍岸寺ホームページ http://ryuganji.jp
■Twitter https://twitter.com/senrenja
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《池口 龍法》

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