【仏教とIT】第24回 お坊さんロボット、東急ハンズ渋谷店に降臨!! | RBB TODAY
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【仏教とIT】第24回 お坊さんロボット、東急ハンズ渋谷店に降臨!!

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【仏教とIT】第24回 お坊さんロボット、東急ハンズ渋谷店に降臨!!
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東急ハンズにお寺が顕現



 「東急ハンズ渋谷店にお寺を作りたい!」という奇想天外な企画がスタートしたのはおよそ半年前。ジュエドル・まりスティーヌ。さんプロデュースのもと、エッジの効いたコンテンツをそろえまくり、1月23日(木)から2月2日(日)まで「渋谷ハンズお寺サークル」が開催される運びとなった。同店のB2Cフロアには萌え御朱印やお寺ボードゲームなど、最新の仏教サブカルアイテムが所狭しと並ぶ。リアルなお坊さんによる修行体験もあり、雅楽や声明が館内に響き渡って何も知らずに来たお客さんをざわつかせる。シュールさ満載である。



 そんななかでもとりわけ異彩を放つひとつが、お坊さんロボット「ロボウさん」である。「お坊さんと話してみよう!」「相談してもよし」「何気ない話をしてもよし」と掲げられてる言葉の通り、気軽にお坊さんとの会話を楽しんでもらうロボットとして、この企画展に合わせて誕生した。しかし残念なことに、このロボウさん、会期中の大半の時間が「瞑想中」。つまり動かない。ソフトバンクのロボット「Pepper」はじめ、およそ世間のロボットがバッテリーの持続するかぎり稼働するのとは、まるで対照的である。

ロボットらしからぬ注意書き


 なぜ、ロボットなのに動かないのか。それは、ロボウさんは、人力で操縦することを前提にしたロボットだからである。つまり、お坊さんが居なければ、瞑想から覚めて動き始めることができない。今回に関しては、以前このコラムで紹介した、僧侶マッチングサービス「Hey!Bouz」に登録中のお坊さんたちがシフトを組み、代わる代わる京都から悩み相談や会話に応じている。



ちなみに、私のシフトは1月31日(金)午後1時から3時である。この時間帯に東急ハンズ渋谷店に来てもらえると、ロボウさん越しに京都に居る私と語り合える。

ロボットなのにアナログ!

 それにしても、なぜ、いまの時代にあえて人力で動くロボットを開発したのか。AIの力によって人件費を削減することこそ、ロボットに課せられた使命ではないのか。ロボウさんの生みの親であるTHK株式会社の小林久朗さん(57)に聞くと、答えはむしろ逆だった。「雇用を創出するロボットを作りたかったんです」と、その意外な狙いを教えてくれた。小林さんと石原さんが、ロボット開発をスタートさせたのは2018年の年末。きっかけは「イベントのMCを任せられるロボットを作りたい」と考えたことだった。

 企業が東京ビッグサイトなどで自社ブースを出展するとき、女性MCに依頼して商品をプレゼンするというのがよくある光景である。機械部品メーカーのTHKも例にもれずそうだった。小林さんは、営業マーケティング支援を専門とする株式会社リードジェンの石原進さん(36)にMCを手配してもらうなどしてプロモーションに努めてきた。しかし、女性MCを雇ったときに、どうしても立ちはだかる壁があった。すなわち、休憩時間である。生身の人間がMCを行うなら、休憩なしにセールストークを続けることはできない。それはやむをえないことかもしれないが、プロモーションとしては大きな機会損失に他ならない。

 悩み抜いた末に、小林さんと石原さんがたどりついた答えが、「ロボット」だった。幸いなことに、もともとTHKはサービスロボットが得意分野だったが、それはあくまで筐体の製造に関しての話。MCロボットにいちばん肝心な部分の「顔」は専門外。だが、ロボットもやはり人を魅了するほどの「顔」であってこそ、目に留めてもらえる。アニメ面・ドール面作成サークル「ぬこ☆パン」にコンタクトを取って「ぬこ面」の制作を依頼し、2019年2月27日に、アバターアナウンスロボット「しおりん」が誕生した。

しおりんを開発した小林さん(右)と石原さん(左)



 早速イベントエキスポで展示し、MCをさせてみたところ、ブースの前で立ち止まる人が続出。AIではなく、人間が話しているアナログな空気感が絶妙にウケたという。

「偏見なんですけれど、美人で、若くて、トークが巧くてはじめてMCがつとまるという世間の風潮があります。でも、しおりんの中の人をやるなら、問われるのはただトーク力です。多くの人にMCとして働くチャンスが生まれると思います」と、しおりんが開く可能性について、石原さんと小林さんは声をそろえる。




分身ロボットとともに生きる



 それにしても、しおりん、ナマで見ると本当に可愛い。視線をこちらに向けて見つめられると、ドキドキしてしまう。

しおりんはお上品でおっとりした長女キャラ


 しおりんが単なるロボット以上のものに思えてしまうのは、声だけでなく、動きもアナログだからだろう。操縦の仕方は簡単で、コントローラーを持ち右手を挙げれば、しおりんも右手を挙げる。つまり、操縦者の動きにシンクロして動く。前後への移動も可能だ。人間らしい動きをするから、そこに温もりが生まれる。

 そして、先ほどアバターアナウンスロボットと書いたが、その名の通り、マスクを代えられるのもこのロボットの魅力。東急ハンズ渋谷店でのお寺企画展に合わせて、小林さんと石原さんは「忙しくてお寺に行く余裕のない社会人にロボットを介してお坊さんと出会ってもらおう」と試み、ロボウさんへの変身を遂げた。

 中の人を担当した主に京都のお坊さんたちは、初めて体験する遠隔での会話に戸惑いながらも、「こんにちは」と声をかけたり、自己紹介してみたり、悩み相談を受けてみたりと一生懸命に試行錯誤。でもその戸惑いっぷりも含めて生々しく伝わってくるから味わい深く、店頭のお客さんたちは、お坊さんとのトークつい引き込まれた様子。「京都でおススメのスイーツはありますか?」などと他愛ないトークに興じる人もあれば、悩み相談をしてスッキリし、手を合わせて帰られる人もあった。

東急ハンズ渋谷店にてロボウさんとの会話を楽しむお客さん


 私はそんな風景を店頭で眺めながら、いよいよ分身の術が可能な時代になったのかと感じた。私は日頃京都に暮らしているが、この分身ロボットさえあれば、京都に居ながらにして渋谷どころか世界中どこにでも降り立つことができる。お釈迦さまは晩年まで遊行の旅を続けたが、せいぜいインドの一地域を出なかったことを考えれば、まったく夢物語である。しかも、ロボット越しに私と出会って気に入ってくれた人が、もし直接会いたいと思ったら、マッチングサービス「Hey!Bouz」を利用して会いに行くこともできる(条件を入力して合致しなければ指名はできないけれど)。仏教との出会い方のバリエーションが豊かになりつつあることを嬉しく思う。

ロボウさんの横に貼られているお坊さんカード。すべて「Hey!Bouz」に登録中のお坊さんだ


 ロボットが普及すると、人間がこれまでやってきた仕事がなくなり居場所が失われる――ネガティブな風潮に一石を投じる分身ロボット。そのインパクトは評価されるべきだと思うし、とりわけ僧侶である私としては、分身ロボットの力を借りることで新しい仏縁が結ばれていく予感に、胸が高鳴っている。

池口 龍法氏
池口 龍法氏

【著者】池口 龍法
1980年兵庫県生まれ。兵庫教区伊丹組西明寺に生まれ育ち、京都大学、同大学院ではインドおよびチベットの仏教学を研究。大学院中退後、2005年4月より知恩院に奉職し、現在は編集主幹をつとめる。2009年8月に超宗派の若手僧侶を中心に「フリースタイルな僧侶たち」を発足させて代表に就任し、フリーマガジンの発行など仏教と出合う縁の創出に取り組む(~2015年3月)。2014年6月より京都教区大宮組龍岸寺住職。著書に『お寺に行こう! 坊主が選んだ「寺」の処方箋』(講談社)、寄稿には京都新聞への連載(全50回)、キリスト新聞への連載(2017年7月~)など。

■龍岸寺ホームページ http://ryuganji.jp
■Twitter https://twitter.com/senrenja
《池口 龍法》
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