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話す側から歩み寄る!対話支援スピーカー「comuoon」とは

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comuoonの生みの親で、ユニバーサル・サウンドデザイン代表の中石真一路氏
  • comuoonの生みの親で、ユニバーサル・サウンドデザイン代表の中石真一路氏
  • 手のひらサイズの難聴者支援スピーカー「comuoon」(コミューン)
  • 聴き取りづらい高周波の音をカバーする。(c)2018 UNIVERSAL SOUND DESIGN Inc.
  • 不明瞭なものをいくら拡大しても不明瞭なまま。これは音に関しても言える。(c)2018 UNIVERSAL SOUND DESIGN Inc.
  • 写真は開発中のもの。実際の商品とは異なる
  • 軽度の認知症が疑われる患者にcomuoonを介して話しかけると、医者の問いかけに即座に返答。それ以来、最適な診療が可能になった。(c)2018 UNIVERSAL SOUND DESIGN Inc.
  • 家庭では、テレビの音声出力につなげてテレビスピーカーとして使用している人も多いようだ。(c)2018 UNIVERSAL SOUND DESIGN Inc.
  • ”脳が認識しやすい音質”に改善できる技術「Sonic Brain」を開発した。行政や民間団体などとも連携して、音のバリアフリーを進めている。(c)2018 UNIVERSAL SOUND DESIGN Inc.
 聴く側ではなく、話す側から難聴などの聴こえに悩む人に歩み寄る、そんな対話支援の形として注目されているのが、難聴者支援スピーカー「comuoon」(コミューン)。comuoonとは、一体どんなスピーカーなのだろうか。発明者で、ユニバーサル・サウンドデザイン代表の中石真一路氏に話を聞いた。

手のひらサイズの難聴者支援スピーカー「comuoon」(コミューン)
手のひらサイズの難聴者支援スピーカー「comuoon」(コミューン)


「難聴」がひとくくりにされている現状


 中石氏は、広島大学宇宙再生医療センターでも研究を続けている、いわば音響のスペシャリスト。脳が認識しやすい音を熟知しており、その知識やノウハウを活かした「音質改善技術による音のバリアフリー」に取り組んでいる。同氏は、はじめに「聴覚障害」に関する世間一般の理解不足を嘆いた。

comuoonの生みの親で、ユニバーサル・サウンドデザイン代表の中石真一路氏
comuoonの生みの親で、ユニバーサル・サウンドデザイン代表の中石真一路氏


 「メガネをかけている人を難視者とは呼びません。でも耳の聴こえが良くない人には『難聴者』という特別な言葉が用意されている。視力の良し悪しに個人差があるのと同様に、聴覚障害にも様々なレベルがあり、軽度・中度の人ならサポートを必要としない場合も多い。けれど、難聴者ということで、世間では手話や筆談が必要だと思われる。それがときに彼ら彼女らの気持ちを重くさせ、悲しくさせている」(中石氏)。

 できる限り自分の耳で聴きたい、と思うのは誰しも同じこと。手話や筆談の用意も大事だが、まずはもう一度ゆっくり話すなどして、相手の気持ちに寄り添ってもらえたら。中石氏にそう指摘され、筆者もはじめて自分の理解不足に気が付いた。

”脳が認識しやすい音質”に改善できる技術「Sonic Brain」を開発した。行政や民間団体などとも連携して、音のバリアフリーを進めている。(c)2018 UNIVERSAL SOUND DESIGN Inc.
”脳が認識しやすい音質”に改善できる技術「Sonic Brain」を開発した。行政や民間団体などとも連携して、音のバリアフリーを進めている。(c)2018 UNIVERSAL SOUND DESIGN Inc.


聴き取りづらい高周波の音をクリアに


 語音の聴取には、子音がしっかり聴こえるかどうかの影響が大きい。comuoonは音を分解し、子音が持つ高い周波数帯域の音をクリアに聴こえるように調整する。さらに、その形状によって音に指向性を持たせており、スピーカーを向けた人にクリアな音がまっすぐ届くように工夫されている。独自のハードウェア設計とデジタルボリュームの採用によって、音の歪みも極限まで抑制。これらにより、高齢難聴者や、また(一般的に補聴器の装用が厳しいとされている)感音性難聴者にさえも「聴き取りやすい」音を届けられるという。

聴き取りづらい高周波の音をカバーする。(c)2018 UNIVERSAL SOUND DESIGN Inc.
聴き取りづらい高周波の音をカバーする。(c)2018 UNIVERSAL SOUND DESIGN Inc.


不明瞭なものをいくら拡大しても不明瞭なまま。これは音に関しても言える。(c)2018 UNIVERSAL SOUND DESIGN Inc.
不明瞭なものをいくら拡大しても不明瞭なまま。これは音に関しても言える。(c)2018 UNIVERSAL SOUND DESIGN Inc.


 全国の医療機関や自治体、金融機関といった企業を中心に、いま約4000箇所で約7500台が稼働中。今後も利用の拡大が予想されている。もちろん個人でも利用できる。価格はオープンで、市場想定価格は20万円前後となっている。

家庭では、テレビの音声出力につなげてテレビスピーカーとして使用している人も多いようだ。(c)2018 UNIVERSAL SOUND DESIGN Inc.
家庭では、テレビの音声出力につなげてテレビスピーカーとして使用している人も多いようだ。(c)2018 UNIVERSAL SOUND DESIGN Inc.


65歳以上の過半数が難聴


 中石氏は、国内で難聴者が増加している現状を紹介するとともに、認知症との兼ね合いについても説明した。

 調査機関の報告では、日本の難聴者数は2017年現在、総人口の12%に当たる約1500万人に到達した。「老人性難聴者」の増加が要因で、65歳以上の実に約半数が難聴だという。超高齢化社会を迎える日本において、難聴は今後、さらに大きな社会問題になることが予想される。また上記の「老人性」以外では、「騒音性」を要因とする難聴者が増えている。大音量で音楽を聴き続け、聴覚を傷つけてしまう若年層も増えているという。若い人も、決して他人事ではないのだ。

 そして難聴は、認知症とも深い関係があった。とある寝たきりの老人は、話しかけたときの反応が薄いため、認知症が進んでいると思われていた。しかしcomuoonを介すことで会話が成立し、そればかりか「いつ頃まで何の薬をよく飲んでいた」など(認知症の患者が苦手とする)最近の記憶もしっかりしていることが分かったのだ。このことから、次の2つの興味深い事実が浮かび上がる。

 ひとつは、認知症ではない(あるいは軽度の認知症)にも関わらず、認知症が進んでいると診断されるケースがあるということ。国内では、認知症診断は対話形式でおこなわれる。このため、加齢により「聴き取り」「聴き分け」能力が低下すると、MMSE(認知症の診断テスト)の点数が低下してしまうのだ。精度の高い認知症検査のために、聴力のサポートは重要になる。

 もうひとつは、難聴のために会話が成立しなくなることで口数が減り、結果として認知症が進行してしまうケースがあるということ。冒頭の老人も、この一歩手前だった。中石氏によれば、難聴の放置が認知症のリスクを高めることは、世界的な論文からも明らかだという。逆を言えば、耳が聴こえれば会話の頻度は保たれ、(運動野や前言語野といった大脳皮質の言語中枢が維持されるため)結果として認知能力の低下のスピードを抑えられるとのこと。

軽度の認知症が疑われる患者にcomuoonを介して話しかけると、医者の問いかけに即座に返答。それ以来、最適な診療が可能になった。(c)2018 UNIVERSAL SOUND DESIGN Inc.
軽度の認知症が疑われる患者にcomuoonを介して話しかけると、医者の問いかけに即座に返答。それ以来、最適な診療が可能になった。(c)2018 UNIVERSAL SOUND DESIGN Inc.


 人は会話をするとき、脳にかなりの負荷をかけている。相手の言葉を理解して、その会話を保存して、自分の過去の記憶を参照して、話す内容を考えて、言葉を選んで喋っているからだ。ところが聴き取りが困難になると、言葉を理解するという最初の段階で労力を費やすため、会話が成り立たなくなる。

 ちなみに話の本筋からは外れるが、中石氏が繰り返し指摘していたのは、耳元で大きな声を出してコミュニケーションをはかることは間違いだということ。不明瞭な声を大きくしたところで、音としては伝わるが、何を言っているのかは依然として理解できない。それどころか患者は「怒られている」と思い込み、気持ちが萎縮したり、はじめから聴くことを嫌がったりしてしまう。

 「看護師さんには、できればマスクを外し、顔を見ながらゆっくりと、普通の大きさで患者さんに話しかけて欲しい。世間では、聴こえにくい人に障害が存在すると思われていますが、現実は、聴こえについての理解不足が、聴こえにくい人の周りに障壁を生み出してしまっているんです」(中石氏)。

 中石氏の研究に、国内外の研究者から注目が集まっている。「まだ聴覚については研究されていない分野が多く残されている」と同氏。そこで気になるのが今後の展開だ。インタビューの最後に、開発中のプロトタイプを少しだけ紹介してもらえた。

写真は開発中のもの。実際の商品とは異なる
写真は開発中のもの。実際の商品とは異なる


 ひとつは外界の音を聴きやすい音質に改善して、イヤホンを通じて聴くことができる製品。気軽に外に持ち出せるのが特徴で、サイズ感とデザインは小型のミュージックプレイヤーのようだった。中石氏は「秋口には発表できるのではないか。実売価格は10万円を切りたい」と話していた。このほか福祉機器ではないが、カナル型のイヤホンの新製品も開発中。聴きやすい、良質な音を追求するユニバーサル・サウンドデザインならではのこだわりが盛り込まれた製品になりそうだ。
《近藤謙太郎》
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