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音楽を“身体”で聴いて楽しむ!「耳で聴かない音楽会」とは?

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SOUND HUGを抱えて演奏を聴くモニターの方たち
  • SOUND HUGを抱えて演奏を聴くモニターの方たち
  • 目の前でオーケストラの演奏を聴いた
  • リハーサルに臨む落合氏
  • 弦の振動を映像で見せるという試みも
  • 率直な意見を述べるモニターの方
  • 各楽器の説明と音のチェックをしたいというリクエストも
  • 音楽を“身体”で聴いて楽しむ!「耳で聴かない音楽会」とは?
  • SOUND HUGの仕組み
 「テクノロジーで挑む音楽のバリアフリー」を掲げるプロジェクトが進行中だ。筑波大准教授でメディアアーティストの落合陽一(ピクシーダストテクノロジーズ)氏と、創立63年を迎える日本フィルハーモニー交響楽団がコラボレーションし、聴覚障害のある方でも楽しめる、その名も「耳で聴かない音楽会」開催に向けて準備を進めている。

「音」を「振動」に変えて“身体”で音楽を聴く


  “耳で聴かない”とはどういうことか。今回のプロジェクトでは、テクノロジーを活用した聴覚支援システムによって「音」を「振動」に変えて“身体”で音楽を聴くコンサートを目指している。そのきっかけとなったのが、落合氏と博報堂が共同で開発を進めていた「ORCESTRA JACKET(LIVE JACKETから改名)」。数十の小型スピーカーを搭載した特殊なジャケットで、着用すると身体中に音が響く体験ができるというもの。そもそもは、身体を使って「音楽の新しい聴き方を作る」ことを目指したもので、特に聴覚障害を持つ方々を意識していたわけではなかった。

ORCHESTRA JACKET
ORCHESTRA JACKET


ORCHESTRA JACKETのサウンドイメージ
ORCHESTRA JACKETのサウンドイメージ


 この「ORCHESTRA JACKET」を試着したデフサッカーの仲井健人選手がツイッターで、「耳の聞こえない僕ら皆、気づいたらリズムに乗ってしまってました」と感想をつぶやいたところ、日本フィル関係者の目に留まり、これならば聴覚障害の方にも音楽が届けられるのでは、と落合氏らに話を持ちかけてプロジェクトがスタート、音楽会の開催が決定した。

 今回の音楽会では、ORCHESTRA JACKETを1~2着用意。それとは別にジャケットの仕組みを簡易化し、新たに開発したバルーン型の機器「SOUND HUG(サウンドハグ)」を50個導入。聴覚に障害のある方にはこれを手に抱えるかたちでコンサートを「聴いて」もらう。SOUND HUGは直径30~50cm。ジャケットより安価に量産できることが強みで、内部に設置した小型の振動スピーカーによって音の速さやリズムを振動で感じることができる。音楽に同期して発光するLEDも搭載しており、視覚面からも音の高低や盛り上がりを表現できるように調整中とのこと。

SOUND HUGの仕組み
SOUND HUGの仕組み


忌憚のない意見が飛び交ったリハーサル


 SOUND HUGの開発やコンサートの演出の検討が佳境に入った4月上旬、都内のホールにて実際に聴覚障害を持つモニターの方を招いての公開リハーサルがおこなわれた。モニターの方達はそれぞれSOUND HUGを抱え、さらに、頭には富士通の本多達也氏が開発したヘアピンのようなデバイスOntenna(オンテナ)をつけた状態で日本フィルの演奏を聞いていく。演奏が始まった瞬間、SOUND HUGの振動を感じてパッと笑顔になる人やリズムを取りはじめる人がいる一方で、今ひとつ振動を感じられずに首をかしげる人もいて、その反応はさまざま。

SOUND HUGにはじめて触ったモニターの方たち


目の前でオーケストラの演奏を聴いた
目の前で日本フィルの演奏を聴いた


 演奏後の質疑応答では、「音の強弱が表現されていて、触っていてとても面白かったし、聴いていても面白かった(難聴にも程度の差があり、補聴器を使うなどして音を聴き取れる方もいる)」「低い音はよくわかるが、高い音があまり振動していないように感じる」「頭につけてある方(Ontenna)は振動が感じづらい」「(SOUND HUGの)振動スピーカーは2つあった方がよいと思う」などなど、率直な意見が出ていた。

SOUND HUGを抱えて演奏を聴くモニターの方たち
SOUND HUGを抱えて演奏を聴くモニターの方たち


率直な意見を述べるモニターの方
率直な感想や意見が飛んだ


 さらには「それぞれの楽器で一番低い音と高い音を鳴らしてもらって比べてみたい」というリクエストも。これに、日本フィルがヴァイオリンやチェロ、フルートやピアノなど各楽器の紹介をしつつ演奏して答えていくと、「今の音は周波数でいうと何ヘルツあたりなのか?」という質問も飛び出し、演奏家たちも普段の聴衆とはまた違った切り口からの質問に刺激を受けているようだった。実は、SOUND HUGでは音の大小を単純に振動に変えているのではなく、それぞれの音すべてを拾って、その周波数によってことなる振動を再現しているという。いかに振動で音色まで表現するか、この部分には落合氏もかなりこだわりを持っているようで、モニターの方から自然と周波数の話が出てきたり、どんな改善点があるのかというやり取りができたのは大きな収穫だったようだ。

リハーサルに臨む落合氏
リハーサルに臨む落合氏


弦の振動を映像で見せるという試みも
弦の振動を映像で表現という試みも


 このリハーサルの狙いについて落合氏は、「今のプロジェクトチームは全員耳が聞こえるので、聴覚障害の方からどんな感想が出るかわからなかった。本番で意見を聞くとおそらく『楽しかったです』とかいいことしか言ってもらえないので、そうではなく、改善欲求がどこなのか知りたかった」「(今回のモニターの方々は補聴器などで音が少し聴こえているので)そこに対して振動・光を与えたり、弦の動きを映像で見せたり、そういうことを足せば楽しみうるのか知りたかった」と話しており、まさに狙い通りといったところだろう。

 本番(4月22日)に向けての課題については、「Ontenna(オンテナ)は振動モーターだから単音なんです。それをどこまで混ぜるか。太鼓はどうする、ピアノは、とか周波数の割り振りを考えないといけない。振動スピーカーの増減も課題。コストの兼ね合いもあるが…。あとは照明や、プログラムも考え直したい。やはり、当事者の方たちは身体を使って聴く音に敏感。そこに合わせるにはどうしたらよいかを考えています」などと語っていた。

 今回のリハーサルを見学して、これは、障害によって何かができない人にその代替手段を与えよう、という話ではなく、それぞれの個性にあわせてその人にしかできない楽しみ方を提案しようということなんだと感じた。聴覚に障害がある一方で、触覚や視覚によるコミュニケーションに長けている場合もある。いよいよ22日に迫ってきた同プロジェクト。「壮大な実験」になると落合氏が語るこのコンサートで、一体どんな反応が起きるのだろうか。リハーサルで浮き彫りになった課題をどう解決しているのかも注目だ。


※「耳で聴かない音楽会」
《白石 雄太》
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