【劇場型で魅せる飲食店】下町ワイナリーが生む“コト消費” | RBB TODAY
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【劇場型で魅せる飲食店】下町ワイナリーが生む“コト消費”

ビジネス その他
涼しい室温を保つため閉め切りの醸造所には、ブドウの匂いが濃厚に漂う
  • 涼しい室温を保つため閉め切りの醸造所には、ブドウの匂いが濃厚に漂う
  • 醸造したてのワインが試飲できる販売店からは、醸造所が窓越しに見える
  • 株式会社スイミージャパン代表取締役社長の中本徹氏
【記事のポイント】
▼体験型の演出を観光やイベントなどの派生事業に組み込む
▼“ものづくり”をPR手段としたビジネスモデルを構成
▼トレーサビリティの打ち出しで、ユーザーに安心感を


■“ものづくり”をコンセプトとしたビジネス

 近年では消費者がマスの価値観に浸るより、ニッチな個性を求める傾向にある。購買の指針として背景にあるストーリー性への共感が重要視され、その中で“作り手の見えるモノづくり”への評価が高まってきた。これは、トレーサビリティにおける安全性を求める、現代のニーズにもマッチしている。

 門前仲町に16年6月にオープンした、醸造所併設の販売店「深川ワイナリー」も、そんな時代の潮流が生み出した新たなビジネスの形かもしれない。店舗のオーナーは、スイミージャパン社長の中本徹氏。本業は貿易、広告、デザインで、04年に北京で会社を設立。宝酒造のポスターやカレンダーのデザインを始め、日系企業約200社の販売促進を手掛けてきた。10年に帰国すると、日本で“ものづくり”をコンセプトに新たなビジネスをしたいと考える。行き着いた先がワインだった。

 ワイナリーを作るために探した不動産物件は200軒以上。山形から5時間、長野から3時間、山梨から3時間、とブドウが傷まない距離であることも重要だった。その中で、門前仲町という下町に決めたのは、「お洒落な街ではなく、古くから住んでいる人たちが気軽に来られるような地域密着型が良い」との発想からだ。

■単体では儲からないが、波及効果は抜群

 深川ワイナリーで製造されるワインは年間2万本。「一本2000円としても、小売り直売で売上高は年間で4000万円にしか過ぎず、単体では到底儲かるビジネスではない」と中本氏は話す。清澄白河にある同社直営のワインバル「九吾郎ワインテーブル」も、「投資は2倍、売上は2分の1と、費用対効果は良くない」とのこと。では、ワイナリーとワインバルの経営を始めた理由は、何なのだろうか?

「わかりやすくて面白い、キラーコンテンツとしての意味があると考えています。想像以上にメディアの取材や広告代理店からの引き合いが多く、波及してコンサルティングなどのビジネスに繋げていくことが可能です」



 メディアからの取材は毎日1~2社。レストランのコンサルティングやサポートなどのオファーも多い。都会のワイナリーという珍しさ、面白さがメディアの関心を呼び、新たなビジネス・チャンスを呼び込んでいるのだ。その中で、九吾郎ワインテーブルとの連携も効果を上げている。トレーサビリティを明確に打ち出すことで、ユーザーに安心感を与えるとともに、ワインの魅力を高めているとのことだ。

「ワインバルのお客様が、ワイナリーの方も見学に来てくれます。醸造体験も行っているのですが、あまりの人気に土曜、日曜、祝日に1日2回実施しています」

 ワイナリーに一歩足を踏み入れると、ブドウの香りが濃厚に漂ってくる。試飲もできる店舗からは、醸造工程を窓越しに眺めることができる。その対象は、一般客ばかりではない。例えば、ワインの専門家であるソムリエにも、原料となるブドウを見たことがない人もいる。深川ワイナリーに来て、醸造工程を目の当たりにし、ブドウが身近な存在となることで、自身のスキルアップに繋げることができるのだ。

■“ものづくり”から“ことづくり”の提案へ

 深川ワイナリーで“ものづくり”をコンセプトにしたビジネスを成功させた中本氏。次に考えているのは“ことづくり”の提案だという。

「『ワインがある幸せな生活』をテーマとして、結婚式での初めての共同作業としてワインを醸造し、新郎新婦が造った赤と白のワインを引き出物に出す。さらには、還暦の赤いチャンチャンコの代わりに赤ワインをプレゼントするなど、生活のいろいろな場面でワインを登場させる演出が可能です」

 これについては、すでに料理教室のイベント、インバウンド向け観光ルート、婚活パーティ開催など、3~4のプランが進行中だという。また、一台の醸造機で750mlのワインが約1000本作れることから、ソムリエにとって究極のオリジナルワインを作ることも可能。レストランとコラボするワイナリーとしても、提案を進めているようだ。

 自社でものづくりを行い、それを醸造体験としてコト消費へと繋げる。そのコト消費を観光や婚活などのビジネスへと広げていく手法は、少子化などで消費が伸び悩む現代にマッチしている。マーケットの縮小とともに、中小規模の飲食店や醸造家が事業を単独で成立させるのは困難になりつつある。これからは“ものづくりの見える化”をPR手段として、マルチにビジネスを展開していくことも一つの方法論となりそうだ。

~劇場型で魅せる飲食店:1~下町ワイナリーが生む“コト消費”

《斉藤裕子/HANJO HANJO編集部》
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