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ものづくりの街の横のつながりで製品開発に成功

ビジネス 経営
鋳物加工の様子
  • 鋳物加工の様子
  • ユニロイの薄型のイメージ
  • ”世界一軽い、鋳物ホーロー鍋”をうたう、ユニロイの商品
  • ユニロイ(UNILLOY)の料理イメージ
  • ユニロイの軽量のイメージ
  • ユニロイと他社製品との比較。熱伝導性と保温性の高さを示す実験結果(日用金属製品検査センター調べ)
  • 内山照嘉社長
【記事のポイント】
▼B2BからB2Cへの転換、そして異業種への参入で下請け脱却
▼自社でできないことは専門業者とのつながりで解決、自らは本業に専念


■自社ブランドの確立でB2BからB2Cへ

 中小企業の多くは大手企業からの下請けを中心としている。下請けの場合、まとまった規模の仕事を安定して得られるメリットがある一方、コストカットなどの名目で値下げを強いられ、利益を圧縮せざるを得ない状況に追い込まれるなど、発注元企業の意向で経営環境が大きく振り回されるリスクがつきまとう。

 そのはざまで苦境に立たされる中小企業が多い中、注目されている新たな方向性の1つとなるのが脱下請け。製造業の場合は自社ブランドの確立により、完成品を消費者へ販売する。いわばB2BからB2Cへの転換だ。

 金属加工のものづくり企業が多く集まる新潟県・三条で、鋳物製造を営む三条特殊鋳工所は、B2BからB2Cへの転換という“ポストものづくり”に成功した企業の1つである。同社は自動車や建設機械などの部品の一部を製造しているが、13年に鋳物ホーロー鍋「ユニロイ キャセロール」を開発すると、14年にグッドデザイン賞を受賞した。

 さらに、翌15年には国際的に権威のある「レッドドット・デザイン賞」を受賞したほか、中でも特に優れた作品に贈られる「ベスト・オブ・ザ・ベスト」を獲得。これで脚光を浴び、国内の料理愛好家から高く評価される一方、中国や台湾からも注文を受けるほどの人気ぶりだ。同社の内山照嘉社長は次のように話す。

「ホーロー鍋はほかにもさまざまな商品が市場に出回っていますが、弊社が開発した『ユニロイ キャセロール』は、他社製よりも半分の約2ミリという薄型で、重さも2キロ台の軽量モデル。重たくてめったに使えないというイメージだったホーロー鍋が、普段使いできるようになったと喜んでいただいています」

■ものづくりの街の横のつながりで製品開発に成功

 同社が「ユニロイ キャセロール」を開発したきっかけとなったのは、08年のリーマンショック。それまで年間12億円規模だった売上が半減し、企業存続の危機に立たされていた。そんなとき、キッチンウェアのあるブランドから、軽量・薄型のフライパンの開発依頼が舞い込んだ。鋳型と呼ばれるものに溶かした金属を流し込み、鉄をさまざまな形へと加工する鋳物で、薄く加工することに実績のあった同社の技術力が評価されての依頼である。


「B2C向けで、しかもキッチンウェアでの製品開発は、弊社にとって未知の業務分野でした。しかし、仕事が減った状況をなんとかしなければならないという気持ちから、職人さんたちと力を合わせて薄型のフライパンを開発したのです。製品が完成したときに、この技術があれば消費者向けの自社ブランドを開発できるのではないかと、手ごたえをつかみました」

 同社が目をつけたのは、熱伝導性に優れて料理が美味しく仕上がると注目されていたホーローの鋳物鍋。ホーローとは、ガラス質の釉薬を金属表面に高温で焼き付けたもので、一般的な塗装と比べて表面がこびりつきにくいため、炒め物や長時間の煮込み料理でも扱いやすいメリットがある。この特徴が取っ手や鍋部分が一体型で熱伝導性に優れた鋳物と相性抜群なのだ。

 軽量・薄型の鋳物加工技術は長けていたため、試行錯誤の中で実現性が見えてきたが、ホーロー加工についてはトライ&エラーの連続。しかし、そのことを地元の業者仲間に相談したところ、三条で確かな技術を持つ研磨加工事業者があることに気づかされた。

「ものづくりの街の三条には研磨加工事業者がいるじゃないか。餅は餅屋というわけで、その事業者に依頼したことでホーロー加工の課題は解消。ホーロー鋳物鍋が完成しました」

■B2Cへの転換や異業種参入は、無理に自社でまかなわない

 キッチンウェアブランドからの依頼で、軽量・薄型フライパンの開発・製造を開始したのは09年のこと。その後に軽量・薄型鍋も開発して製造を開始。自社ブランドとして軽量・薄型ホーロー鍋を開発し始めたのは12年だが、軽量・薄型のフライパンや鍋の受注が右肩上がりで伸びていたため、同年にはキッチンウェア用の工場を新設している。つまり、この頃に同社では、キッチンウェア分野への参入に本腰を入れる決意を固めたのだ。

 しかし、B2Cやキッチンウェアについて未知の同社が、なぜ大きな路線転換に踏み切ることができたのか? そこにはキーマンと呼べる人物との出会いがカギを握っていた。


「その方はキッチンウェア業界に精通されていて、キッチンウェアブランドを弊社へご紹介くださったのもその方なのです。以来、自社ブランドの開発・製造・販売でも心強いパートナーとして活躍していただいています」

 その人物の助言と取り計らいにより、開発した商品は、ドイツで開催される業界でも世界最大級の見本市「Ambiente(アンビエンテ)」をはじめ、国内外のさまざまな展示会イベントに出展した。百貨店のほか量販店への売り込みも行う一方、ネットショップを開設して直販にも乗り出した。こうした展開は自社内での負担は最小限にし、前出の“餅は餅屋”さながらキーマンの人的ネットワークを使い、外部の専門会社に委託して進めていった。

「すべてを自社でまかなうのではなく、任せられるのであればその道のプロに任せて、自社ではものづくりに専念する、という考えですね」

■「B2Cへの転換&異業種への参入」だからこそのメリットも

 鋳物ホーロー鍋「ユニロイ キャセロール」を開発した翌14年、同社はキッチンウェア工場を増築し、生産規模を約3倍にまで拡充。キッチンウェア事業の売上は1億円に膨らんだ。既存事業の売上も回復し、キッチンウェア事業を合わせて、今ではリーマンショック以前の規模に戻っている。

 キッチンウェア事業が全売上に占める割合はまだ1割にも満たないが、昨年のレッドドット・デザイン賞の受賞で中国・台湾への輸出が始まるなど、ここ1年での業績は目覚ましく、まさにこれからの将来性に期待されると内山社長は語気を強める。

 既存事業の技術を応用したとはいえ、まったくの異業種参入であるため、B2Cへの転換にあたって既存事業の取引先と顧客がバッティングする心配はない。まさに理想的な多角化だといえる。下請けからの脱却から図るべく、異業種への新規参入とともにB2BからB2Cへの転換を突き進む同社。従来にはないポストものづくりのあり方として学べる点が多い。

~ポストものづくり時代:3~B2BからB2Cへの脱却!

《加藤宏之/HANJO HANJO編集部》
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