シンガポールは日本企業のどこに「ベスト」を見ているのか? | RBB TODAY
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シンガポールは日本企業のどこに「ベスト」を見ているのか?

ビジネス マーケット
シンガポールにおける外食産業の経営者、およびコンサルタントの卵が日本企業を訪問
  • シンガポールにおける外食産業の経営者、およびコンサルタントの卵が日本企業を訪問
  • シンガポールレストラン協会会長 Andrew Tjioe氏
  • シンガポール生産性本部 取締役 TAN Peng Yong氏
【記事のポイント】
▼飲食店における立ち食いや量り売りに日本の独自性を見る
▼海外出店をするなら、ローカルパートナーを
▼小回りの効く食品加工機械は魅力
▼社員皆で作る日本式社員教育マニュアルに注目


 シンガポール企業における生産性向上の取り組みを支援しているシンガポール生産性本部では、6月6日から10日にかけて2組の視察団を日本に派遣、小売業や飲食業におけるベストプラクティスを学ぶツアーを行った。HANJO HANJOでは、日本生産性本部の協力のもと行われた今回のツアーを同行取材、視察団の声だけでなく、受け入れ先の会社やお店とのQ&A、識者による業界の最先端マネージメントまで、様々な角度で日本の飲食業界・小売業界の現在を伝えていく。海外の目を通すことで、私たち日本のビジネスパーソンが気付いていなかった、世界市場における新たなビジネスチャンスや新しいヴィジョンが、浮かんできた。

 特集第1回は、2組の視察団の代表者による視察内容への感想から、中小企業が注目すべき日本企業の優れた生産性向上の取り組みについて考察する。

■「ペッパーフードサービス」のコンセプトに共鳴

 両生産性本部の支援によって訪日した視察団のうちのひとつは、「シンガポールレストラン協会」の会員25人を中心に構成されたグループ。「和民」ほかの飲食店を回り、最終日には「FOOMA JAPAN 2016国際食品工業展」を見学した。同協会で会長を務めるAndrew Tjioe氏が訪れた企業のうち、最も関心を抱いたもののひとつが「ペッパーフードサービス」だ。“立ち食い”や“肉の量り売り”といった斬新なコンセプトが、同氏の興味を引いたようだ。

「オフィス街で忙しく働く、リッチなビジネスマンには注目されるかもしれません。ただ、シンガポールでは立ち食いという文化がありません。数百円で食べられる屋台村でも椅子はあるので、高価なステーキがウケるかどうかは読めませんが、こういう新しい取り組みの先駆者になることがシンガポールではとても重要です」

 シンガポールでは食事といえば外食が基本。それだけにプレイヤーも多く、約6800軒のレストランのうち、5年以上生き残れるのは2、3割しかないという。最近では経済状況も悪化しており、以前よりも競合はさらに厳しくなっているとのことだ。

 ちなみに、全レストランの中で日本食を扱う店は約1200軒あるが、これも次々とつぶれているような状況だという。それは現地の業界事情に加えて、日本式のやり方を押しつけることが原因のようだ。

「もしも、日本からシンガポールの飲食業に参入するなら、雇用とマーケティングを任せられるローカルパートナーが不可欠です。オペレーションなどもある程度は任せて、いいところだけ残す。今生き残っている飲食店は、競争の中で品質やオペレーションを磨いてきた店ばかりなので、相当な努力が必要になります」

 なお、シンガポールの現状を踏まえたうえで、Andrew Tjioe氏に最も評価されていたのが「FOOMA JAPAN 2016国際食品工業展」に出展されていた食品製造加工機械だった。

「シンガポールでは今、政府が自動化機械に対する多くの補助金を出しています。ただ、工場に置くような大型のロボットが多いため、キッチンにも置けるような日本の小回りの効く機器は魅力的ですね」

 実際にシンガポールでは中規模以上の飲食店で、野菜の自動カッターや洗浄機械といった自動化機械の導入が進んでいるという。また、2、3年前ぐらいまでは海外展開に消極的だった日本企業も、現地でのサポート体制を構築できたこともあり、輸出に前向きになってきているようだ。


■日本式社員教育マニュアルは学びたいもののひとつ

 一方で、もうひとつの視察団の中心となっていたのが、日本生産性本部の支援を受けて、13年からシンガポール生産性本部が主催している「経営コンサルタント養成講座」の参加者。いわゆる、現地における経営コンサルタントの卵だ。

 視察団を率いるシンガポール生産性本部取締役のTAN Peng Yong氏によると、今回の視察の目的は、日本の企業の取り組みを母国の中小企業で紹介すること。中でも、同氏が注目したのが社員教育と衛生管理だった。

「社員教育のマニュアル作りに、社長からアルバイトまでが参画していることに感銘を受けました。シンガポールにも業務運用上のマニュアルがありますが、大半のケースがトップダウンです。顧客や従業員の意見は反映されておらず、今後は日本のやり方をぜひとも取り入れて行きたい」

 なお、現地に出展している高島屋や伊勢丹などでも、社員教育にマニュアルを利用しているとのこと。ただし、その内容はシンガポールの文化に合わせてローカライズされており、その部分が各企業ならではのノウハウになっているようだ。

 一方、衛生面では意外なところが注目されていた。レストランでよく見る食券の券売機が、従業員が汚れた現金に触らずに済む仕組みとして評価されている。ただ、こうした取り組みについては、きれい好きな日本の文化に根差している部分も大きいというのが、TAN Peng Yong氏の見解だ。

「シンガポールではサービス業の従業員として、大量の外国人労働者を雇っています。人口バランスを考えると、今以上に外国人を雇い入れるのも難しい。なので、サービス業が誇りと尊厳をもって働ける職場だという認知を、母国の人たちに広めることも今後は重要だと考えています」

 なお、日本とシンガポールにおける環境の違いとして、他にもTAN Peng Yong氏が注目していたのが、不動産所有者のテナントに対する対応だ。

「シンガポールのショッピングモールなどは、不動産ファンドの運用にあたり7~8%の収益が要求されます。そのため賃料が高く設定され、店舗が1、2年で撤退することも多いです」

 今回、視察に訪れた施設の一つ、「ヨドバシAkiba」ではテナントに対して、最低6年間の契約を考えているという。収益性を考えずに、ビル全体の売り上げを支援するような賃料設定になっているのか、非常に興味深いとTAN Peng Yong氏は話していた。

■日本から旅立ち進化する5Sや衛生観念

 シンガポールでは10年前に比べると、生産性への取り組みは劇的に進化している。Andrew氏が経営するレストランでも、自動化機械を入れ、リーンオペレーションに取り組んでおり、衛生面については日本よりもむしろ厳しいぐらいだという。5Sについては香港のものを採用しているが、ローカライズで独自の進化を遂げているようだ。同国における経営コンサルタント講座の参加者が視察団として日本を訪れていることを考えても、今後このような取り組みはさらに加速化していくだろう。

 生き残るのは5年で2割という過酷な競争率の中、シンガポールの外食産業はリノベーションを続けている。では、日本の中小企業はどうだろう。先進的な取り組みは枚挙に暇がないが、旧態依然の企業も少なくない。シンガポールが発見した日本の「ベストプラクティス」。そこには、行き詰まりを打破するために日本の中小企業が改めて見つめ直すべき価値があるのではないだろうか。
《HANJO HANJO編集部》
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