国内唯一! 精密機器メーカーが「ハンドベル」を作る理由……群馬県 | RBB TODAY

国内唯一! 精密機器メーカーが「ハンドベル」を作る理由……群馬県

近年では世界各国で親しまれ、アメリカのメーカーであるマルマーク社とシューマリック社の製品が世界で多く流通しているハンドベルだが、高い技術力を活かして日本国内で初めてハンドベルを開発し、海外の奏者からも注目を集めるハンドベルメーカーが群馬県に存在する。

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有限会社アプリ 代表取締役 田代哲さん
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  • イングリッシュ・ハンドベル
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■イギリスの教会で生まれた楽器「イングリッシュ・ハンドベル」
 17世紀後半のイギリスで生まれた楽器「イングリッシュ・ハンドベル(以下、ハンドベル)」。クラッパーと呼ばれる内部の振り子が金属部分を叩く事で音を出すハンドベルは、元来、教会の鐘を鳴らすための練習を複数人で行うために発明されたものだという。

 イギリスで寺院のリンガーたちが集って腕を磨き、次第に賛美歌に用いられるようになったハンドベルは、20世紀はじめ、アメリカ・ペンシルバニアに伝わったのち、現在では全米に9000を超えるハンドベルチームが存在するまでに浸透。ハンドベル発祥の地であるイギリス以上にアメリカで親しまれる楽器となった。

 そして、日本に本格的なハンドベル演奏が伝わったのが1970年。愛知県の金城学院中学校で音楽宣教師として赴任していたM.I.ケリー氏が、同校で日本発のハンドベルクワイア(グループ)を結成したのが起源といわれている。

■国産初のハンドベルメーカー
 近年では世界各国で親しまれ、アメリカのマルマーク社とシューマリック社の製品が世界で多く流通しているハンドベル。その中で、高い技術力を活かして日本国内では初めてハンドベルを開発し、海外の奏者からも注目を集めるメーカーが群馬県にある。

 県の南西部を走る上信線の上州福島駅から車で約10分。群馬県富岡市に“国産初のハンドベルメーカー”有限会社アプリの社屋がある。元々、医療機器・産業機器の開発製造を行っていたという同社。その代表取締役の田代哲さんに話を伺った。

■“メイドインジャパン”のハンドベル
 同社がハンドベルの開発製造を手がけるきっかけについて「2007年に東京・東日本橋にあるプリマ楽器さんから『日本のプロハンドベル奏者の方が“メイドインジャパン”のハンドベルを求められているんだけど作れませんか?』とお声がけ頂いたのが最初でした」と語る田代さん。

 「プリマ楽器さんには『では3か月で“Aの5(ラの音)”をサンプルで作ってみますから、それで評価してください』とお伝えして開発に着手しました。元々、私たちが開発する医療機器の素材もアルミやステンレスといった、ベルと同じ素材を扱っていたんです。ベルを見てみたら『これならできるかもしれない』と思いました」という。

■国産で作るのなら、真似はしたくない
 田代さんは「せっかく国産で作るのですから、他の真似はしたくなかったんです」といい「一からのスタートで、立ち上げ当初は雲をつかむようでした」と当時を振り返る。「群馬の産業技術センター等の機関にお願いして、材料工学や振動工学、音響工学等、多くの専門家の方にご協力頂きながら、コンピュータ解析をしてベルの最適形状を模索しました」



 本格的な開発の開始に際して、楽器の知名度は課題のひとつだった。「日本ではイングリッシュ・ハンドベルをご存じの方が少なく、鉄でできているミュージックベルと同じ楽器だと思われている場合もあります。まだ認知されていない楽器なので、まず知って貰いながら広めなければいけない。そこはハンデですね」と田代さんはいう。「プリマ楽器の社長様と『10年計画でやりましょう』と話をして、いま8年目になりました」

■富岡製糸場で披露
 「富岡市さんも開発にとても協力して頂いています。最初に作った2オクターブ(25音)を、富岡製糸場で発表する機会に恵まれたんですよ。そこでは『国産のハンドベルが欲しい』とお声を頂き、開発のきっかけを作ってくれた先生のチームに演奏して頂きました」と2007年6月に行われた富岡製糸場での発表を振り返る。

 ハンドベルの魅力は地域で徐々に広まっていった。「32音ができたところで、地元に先生を招きハンドベル教室が開れる事になりました。半年間、市の生涯学習センターを借りて月に2回の教室が開かれたのですが、期間が満了した際『これからもハンドベルを続けたい』と有志の方がチームを作られ、楽器をお買い求めいただきました」

 また「夕方に市内の防災無線で流れる『夕やけこやけ』がハンドベルで演奏する音に変わった時期もあったんですよ」と語る田代さん。富岡市内の「丹生ほたる祭り」でも同社のベルを使った演奏がプロの奏者を招いて行われ、ホタルとハンドベル演奏が融合した幻想的な空間が生まれたという。

■どれだけ図面通りに作っても最後は音
 精密機器から音楽の世界へと飛び込んだ同社。「医療機器は図面通りに作ったら完成ですが、ベルはそうはいかない。どれだけ図面の通りに作っても、最後は音ですからね」と田代さんは話す。「ハンドベルはひとりでは演奏できない楽器です。演奏を通じて連帯感、協調性を養うのにピッタリなんですよ」といい、「色々な子供たちにハンドベルに触れて貰いたいですね」と楽器づくりを通した将来の目標を語った。

 日本の精密機器メーカーがハンドベルで生み出した「ものづくり」の新たな可能性。同社が技術の粋を尽くした音色が、世界で鳴り響く日も遠くなさそうだ。

【地方発ヒット商品の裏側】精密機器メーカーが国内唯一の「ハンドベル」を作るようになった理由――群馬県・アプリ

《オフィス本折/H14》

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