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【木暮祐一のモバイルウォッチ】第51回 iPadもSIMフリー版が登場、メリットはどこに?

エンタープライズ モバイルBIZ
木暮祐一氏。青森公立大学 准教授/博士(工学)、モバイル研究家として活躍し、モバイル学会の副会長も務める。1000台を超える携帯コレクションを保有。
  • 木暮祐一氏。青森公立大学 准教授/博士(工学)、モバイル研究家として活躍し、モバイル学会の副会長も務める。1000台を超える携帯コレクションを保有。
 アップルは1日、iPadのSIMフリー版をオンラインストアで発売開始した。6月10日にNTTドコモがiPadを取り扱い始めたばかりで、これで国内3キャリアでiPadが選べる状況になったと思った途端に、今回のSIMフリー版の登場となった。昨年秋にやはりNTTドコモでiPhoneを取り扱いを開始した後にすぐ、アップル自らオンラインストアでSIMフリー版の販売に乗り出したのだが、同じような流れになった。いずれにせよ、iPhone、iPadともにようやく、キャリア販売版とSIMフリー版を選べる環境ができた。選択の幅が広がったことで、どんなメリットが出てくるのか、そして今後何が変わるのだろうか。

■教育機関ではメリットがあるかも?

 業務利用を目的とした法人がこうしたスマートデバイスを導入する場合において、端末だけを消耗品として購入したいというケースは少なからず存在すると見ている。

 たとえば、初代iPadが発売開始された当初、当時筆者が勤めていた大学では大学側が端末代を負担して学生全員にiPadを配布し教育に活用するという取り組みを行った。このときに議論になったのは、WiFi版にするか、ソフトバンクの回線契約付のセルラー版にするかという点だ。iPadはどこでも通信できてこそ能力を最大限発揮できる。であるのでセルラー版を配布したかったわけだが、回線契約付きとなるとその通信料負担があまりに大きく教育機関での導入は非常に難しい。回線を学生個別に契約させて通信料を学生に強制的に負担させるというのも酷な話である。

 この全学生iPad配布の導入時に購買に携わった立場として一番望んでいたことは、SIMフリーでなくともセルラー版を端末だけで購入することだった。端末代は大学が負担するわけだが、学内ではWiFiで通信してもらうとして、通学中など学外でも使用したいという学生は自ら回線契約したSIMカードを挿入して、自費で通信料を負担してもらうという使い方が大学にとっても学生にとってもメリットがあると考えていた。しかし、当時はそんな販売方法は実現されず、結局のところWiFi版を導入せざるを得なかったのだ。今回ようやく市販が開始されたSIMフリー版は、端末だけで購入できるという点で一部の関係者にとってメリットを見出せるはず。教育用にiPadを導入している機関は多く、とくに共用の機器としてではなく、1人1台配布(貸与)して利用させるような機関では、このSIMフリー版のiPadはそれなりの需要が見込まれるのではないかと考える。

■SIMフリー化で賑わうのが中古市場とMVNO格安SIMか?

 じつはこのところ、スマートフォンのSIMフリー化に関連して、業界内では大きな動きが出てきた。総務省は6月30日に、ICTサービス安心・安全研究会「消費者保護ルールの見直し・充実に関するWG」中間とりまとめ(案)を公開した。クーリングオフやSIMロック解除に関するルールや、通信サービス料金その他の提供条件のあり方などを示したもの。SIMロック解除に関しては、2007年に総務省が開催した「モバイルビジネス研究会」でSIMロック解除の議論が提言されたものの、キャリアからは「メリットが見出せない」ということで中途半端なままになっていた。各キャリアにとって、SIMロックはユーザーを自社に囲い込む重要な手段であったが、SIMフリー化されることを想定して、着々とユーザーを簡単に他のキャリアに逃さないための、あの手この手の戦略を打ってきている。長期利用を前提にした契約形態、家族全員が同じキャリアにすることでメリットを打ち出すなどがそれだ。

 さらに、各キャリアは通話料を定額化した新料金プランを発表しているが、この新料金プランも総務省「ICTサービス安心・安全研究会」の結論を見越しての、通信料金のテコ入れのように思えてしまう。この研究会では、これまで7GBを上限とした定額制データ通信量金が一般的だった各キャリアに対し、「データ通信量に応じた多段階のプランが設定されていること」「データ通信量の平均値や分布を勘案すること」という2点を満たした料金プラン設定を求めているが、まさに3キャリアが打ち出した新料金プランはパケット通信料を利用するデータ量の段階別に契約するタイプに移行している。同時に通話料は定額化し基本料金に含めることを前提に基本使用料金を2700円(スマートフォンの場合)とし、実質的な底上げを図った。お得感を打ち出しているように見えるが、実際には無料通話アプリも普及している中で、通話料金が含まれるこの基本使用料にメリットを感じるユーザーがどの程度いるのか見えてこない。

 また、基本使用料の部分は見事なまでに3キャリアが横並びの金額を設定してきた。パケット通信料のほうで多少差を打ち出しているキャリアもあるが、従来の7GBを上限にしたパケット定額通信料に比べると、上限近くまで使っていたヘビーユーザーにとっては、実質値上げに感じるはずだ。

 また、3キャリアでほぼ横並びの通信料金というのは、言ってみれば端末をSIMフリー化したところで、どのキャリアを選んでも料金は変わらず、キャリアを移る(MNPする)メリットをあえて打ち消しているように感じられる。3キャリア申し合わせによる協調的寡占状態とでもいうべきか。本来であれば、もっと競争の原理が働いて料金面やサービス面で各キャリアがユーザーにメリットを出せるよう競っていくことを期待したいのだが、まずはSIMフリー化によるメリットの見出しも、将来的な通信料金の引き下げ競争も、当面は様子見と言ったところなのだろうか。

 今後、もしSIMロック解除が義務化されると、賑わいを見せるのはスマートフォンやタブレットなどの中古品を扱う、中古市場であろう。特定のキャリアしか使用できないSIMロック端末よりも、どのキャリアでも利用可能なSIMフリー版のほうがより高価で取引されるはずだ。逆に言えば、各通信キャリアにとってもスマートフォンやタブレットがSIMフリー義務となれば、あまりに無謀なキャッシュバック販売は自らの首を絞めることになりかねない。長期利用者に対し、毎月の通信料金から一定額を値引く割引サービスはまだ健全だとしても、高額キャッシュバックと相殺したいわゆる端末のタダ配りのような売り方は中古市場への端末転売につながるだけだ。

 中古市場が活況を見せていくと同時に、MVNOのSIM販売市場も一層拡大していくかもしれない。すでに各社からいわゆる「格安SIM」が登場してきている。本当に使いたい量だけ、データ通信SIMを購入し使用するという使い方が浸透し始めている。イオンなど流通大手もこうした格安SIM(+スマートフォン)に参入することで、一般のユーザーにも認知は広まりつつあるが、自己責任で端末と回線契約を組み合わせて使うこのケースは、まだまだ一般のユーザー層には敷居が高いのかもしれない。

 ということで、SIMロック解除議論が進む中、アップルは自らSIMフリー端末の販売も始め、また市場では様々なMVNOも参入し、徐々にではあるが「好みの端末」と「好みの回線」をアラカルトとして自由に選び組み合わせて使用する環境が整い始めたといえるところだ。一方で通信キャリア各社がこれまで通り端末と回線契約をセット(抱き合わせ)で販売するいわば「端末と回線の定食メニュー」も大半のユーザーにとっては必要不可欠であり、両者が並存し、ユーザーがこれまで以上に分かりやすく選べる環境づくりが大切なのであろう。
《木暮祐一》
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