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目新しいビジョンを示せたか?決め手に欠ける「Sony Tablet」とソニー戦略の課題

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目新しいビジョンを示せたか?決め手に欠ける「Sony Tablet」とソニー戦略の課題
  • 目新しいビジョンを示せたか?決め手に欠ける「Sony Tablet」とソニー戦略の課題
  • Sony Tablet Pシリーズ
  • Sony Tablet Sシリーズ
  • クラムシェル状のボディは折りたたみ時の手のなじみも良い
  • 目新しいビジョンを示せたか?決め手に欠ける「Sony Tablet」とソニー戦略の課題
  • 目新しいビジョンを示せたか?決め手に欠ける「Sony Tablet」とソニー戦略の課題
  • 縦/横両面の見開き表示が可能
  • 敢えて偏重心とすることで、持ちやすさを考慮。クレードルは市販予想価格4000円 程度のアクセサリー。
 今年春よりソニーが予告していたタブレット端末がついに正式発表された。9.4型液晶ディスプレイを搭載した大画面タイプの「Sony Tablet S」と、5.5型の横長画面を2枚搭載した折りたたみタイプの「Sony Tablet P」の2シリーズ。SシリーズにはWi-Fi専用モデルと3G+Wi-Fiモデルの両方、Pシリーズは3G+Wi-Fiモデルのみが用意され、3G+Wi-Fiモデルはソニー直営店に加えNTTドコモの携帯電話取扱店でも販売される。

 ドイツ・ベルリンで開催中の家電見本市「IFA 2011」に合わせて発表されたもので、現地では同社CEOのハワード・ストリンガー氏、代表執行役副社長でソニー・コンピュータエンタテインメント代表取締役社長でもある平井一夫氏らが製品の説明を行ったという。また日本でも1日、報道関係者向けの説明会において実際に動作する端末が公開された。

 「想像していた以上に“素(す)”の状態に近いAndroidタブレット」。実機に触れた筆者の、第1の率直な感想はこのようなものだ。特に大画面タイプのSシリーズは、ソニー製のアプリを起動せず何となく触れている限り、MotoloraのXOOM、LGのOptimus Pad、SamsungのGalaxy Tab 10.1など、これまで触れてきたAndroid 3.x搭載端末とほとんど変わらない印象だった。本体の片側に厚みや重量を集中させたデザインが特徴ということだが、限られた短時間の試用においては、使い勝手に本質的な差を生じさせるほどの違いには思えなかった。

 「サクサク・エクスペリエンス」をうたうだけあって(カタログ等の表記では「TM」マークまで付けられている)、動作のスピードやタッチ操作に対する反応などは良好。タッチパネル等のハードウェアと、Webブラウザや日本語入力システムなどのソフトウェアの両方を自社で開発ないしチューニングした成果が表れていると言えるだろう。ノートPCのVAIOでは、ボディの質感などは良くても、タッチパッドとそのドライバーソフトが他社の既製品であるため操作感には特筆すべき点がない機種も少なくないが、Sony Tabletではそのようなちぐはぐさはない。CPUはAndroid 3.xでは定評のあるTegra 2で、ストレスない動作の実現に貢献している。単体のAndroidタブレットとして見れば及第点の製品だ。

 だが、逆に言えば、それ以上の大きな何かを感じられなかったのもまた事実である。「悪くはない。しかし決め手に欠ける」。これが筆者の第2の感想だ。iPadや既に数あるAndroidタブレットの中で、思わずこのSony Tabletを選びたくなる、そんな動機があまり沸き上がってこない印象である。

 ソニーが新しい商品カテゴリに進出する際に付き物だったのが「新しい技術を利用した、これまでとは違うライフスタイルの提案」だ。しかし、今回のSony Tabletに関して言えば、利用シーンについてはまだこれからの可能性があるものの、一定の市場開拓は既に済んでいる分野への商品投入であり、ソニー自身が何か目新しい生活様式のビジョンを示したという格好にはなっていない。端末自体の出来は良いものの、きらめきを持った商品として筆者の目に映らなかったのはそれが理由だろう。

 であるならば、今回の発表では端末そのものよりも、「Video Unlimited」「PlayStation Store」「Reader Store」などのコンテンツサービスや、写真や動画を共有できるソーシャル系サービス「Personal Space」など、ネットワークサービスとして提供される部分こそが重要であり、Sony Tabletが競合製品を出し抜くためのカギもここにあるはずである。従来よりもずっと簡単にコンテンツを購入・管理できる仕組み、タブレットからテレビ・PC・携帯電話へといった、端末の枠を超えてコンテンツを共有・転送できる仕組みなどがあれば、「生活が変わる」イメージを描くこともできたのかもしれないが、前述のサービス群もそこまでの神通力は持っていない。

 加えて言えば、2枚の画面を持つ折りたたみ型のPシリーズ、この特徴を活かせる使い方も、現状ではPlayStation Certifiedのゲーム、ブックリーダーなどいくつかの専用アプリに限られている。詳しい内部仕様は明らかになっていないので、これは説明員から聞けたわずかな情報を元にした筆者の推測だが、2画面表示を行うには特別なAPIにアクセスするといった必要はなく、1024×960ドットのグラフィックを上下2つの1024×480ドット画面に分割しているだけのようだ。そのため、誰でもPシリーズ用のアプリを開発することは可能と考えられる。ならば、このようなユニークな画面を活かしたアプリをぜひ開発したいという気になるようなデモを用意するとともに、積極的に製品の仕様を公開するなど、デベロッパーやコンテンツプロバイダーの関心を集めるための動きがあってしかるべきだが、いまのところそういった施策も見られない。

 「ソニー初のタブレット」という期待が大きかっただけに、厳しめのインプレッションとなってしまったが、前向きにとらえたい点としては、極端にトリッキーな機能や独自開発を行っていない分、Android OSのバージョンアップにはタイムリーな追随が期待できるし、Androidマーケットに追加される最新のアプリも比較的問題なく動作すると考えられることだ。

 ソニー製品としての付加価値を求めつつも、Androidプラットフォーム自体が持つ魅力をできるだけ損なわないよう配慮が見られる部分は、ややもすれば「独自規格指向」とみなされることもあるソニーの製品としては新鮮で、ユーザーにも支持されるポイントになるだろう。これは、スマートフォンの「Xperia arc」が、従来機に比べソフトウェア面では独自の作り込みを控えめにしながらも、ソニーグループの製品らしいたたずまいや、キビキビした操作感で人気機種となった構図と似ている。

 米ヒューレット・パッカードがwebOS事業の撤退とPC事業の大リストラをセットで発表したように、この分野においてビジネスの正否を左右するのは端末自体ではなく(といっても端末の品質が高いものであることは成功の必須条件だが)、サービスやプラットフォームにある。Sony Tabletがそつないタブレット端末にとどまるのではなく、ソニーのITビジネスの一翼を担う大きな存在になれるのか、戦略が問われている。
《RBB TODAY》
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