放射線の正体を知り子どもに正しく伝えたい…先生のための放射線勉強会 | RBB TODAY
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放射線の正体を知り子どもに正しく伝えたい…先生のための放射線勉強会

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 7月16日(土)14時より、東京大学理学部 小柴ホールで、「学校の先生のための放射線勉強会」が開催された。本勉強会は、5月8日に開催され大変好評だったことから、急きょ追加開催されたもの。最高気温34度という猛暑の中、東京、埼玉、群馬、山梨などから約150名の幼保~高校の先生方が参加した。

 新学習指導要領の実施により、約30年ぶりに中学校理科で「放射線」に関する学習が復活することになった。30年というブランクのため、多くの先生方は、放射線や核エネルギーについての指導経験はもちろん、学んだこともない。

 東日本大震災にともなう原子力発電所の事故によって、「セシウム」「シーベルト」「半減期」といった放射線に関するニュースが連日報道されている。このような状況の中、「子どもたちに正確な情報を伝えたい。そのためには自分が正しい知識を持ちたい」(中学校・理科教諭)、「理系の生徒ですら風評に惑わされている。正確なデータをもとに、子どもたちに科学的なものの見方を伝えたい」(高校・理科教諭)など、強い問題意識を持った先生方が集まった。

 勉強会は、

・第1部「原子核と放射線―放射線って何?それはどこから、どうして、どのように?―」
 東京大学大学院理学系研究科附属原子核科学研究センター 下浦 享教授
・第2部「放射性物質の海洋拡散―こへ、どのようにして運ばれるのか?」
 独立行政法人海洋研究開発機構 升本 順夫准教授
・第3部「生き物と放射線--どのようにして放射線は作用するのか」
 東京大学大学院新領域創成科学研究科 先端生命科学専攻 三谷 啓志教授

の3部構成で行われた。

 第1部「原子核と放射線」では、放射線とは電波、電磁波、紫外線など、ごくありふれた物質であること、物質は原子・分子の集まりであり、原子の中心の原子核が電離(崩壊)するときに発生するエネルギーが放射線となることなど、「放射線とはなにものか」というミクロな世界の話。

 第2部「放射性物質の海洋拡散」では、福島第一原発から放出された放射性物質が、大気や雨水、地下水、河川といった経路から海に流入し、海流や潮流、渦、波浪、海上風などによって、広範に広がっていく様子をシミュレーションした。

 海に流入した放射性物質は、時間をかけて希釈されながら拡散するが、アメリカ沿岸に到達するには数年かかり、そのころにはかなり希釈されるだろうとのこと。

 海上に拡散するだけでなく、海底に沈殿する放射性物質もある。

 将来的に生物へどのような影響があるのか、長い時間をかけてモニタリングすることが必要と、升本准教授は締めくくった。

 第3部「生き物と放射線」では、放射線の人体に与える影響について話をうかがった。

 放射線による影響の本質は、(1)幹細胞が死滅すること、(2)細胞の突然変異の頻度が上昇することの2つ。

 (1)は、特定の線量を越えなければ発症しない、幹細胞が死んでから症状(脱毛、皮膚炎、免疫不全、不妊等)が出るまでには潜伏期があるという特徴がある。

 (2)は、突然変異が成立することはきわめてまれだが、変異した細胞が過剰増殖したり生殖細胞に生じると、発がんや遺伝的影響が生じるとのこと。

 今TVなどで、どれだけの放射線を浴びると人体に影響があるのか、基準値が発表されているが、広島・長崎での被爆者5万人を対象にした調査結果が根拠となっているようだ。しかしながら、その調査は容易ではなく、50余年の年月を要してようやくその影響がわかってきたというのが現状。

 今回の原発事故が人体にどのような影響を与えるのか、また、40%の人がガンになるという現代において、被ばくによるガンかどうか特定することは極めて困難なのだそうだ。

 質疑応答では、積極的な質問が寄せられたが、そのほとんどは、授業や指導についてよりも、今回の原発事故に関するものだった。

 「汚染された瓦礫(がれき)はどうなるのか? 洗浄した水は海に捨てられるのでは?」「グラウンドで生徒に体育をさせても大丈夫か」「いつになったら安全になるのか」など、講師の先生方の研究対象とは異なる質問も多く、答えに窮する場面が見られた。

 「どの程度なら、いつからなら安全かという基準は、考え方、立場等によって異なり、コンセンサスの問題。今のところは国の指針に従うしかないのでは」というのが、3人の講師の共通見解のようだった。

 下浦教授は、原発事故発生地から200km圏内2,000か所の土壌調査を進めており、現在ヨウ素、セシウムの分布をマップ化し、その影響を長期にわたって追っていくとのこと。また、升本准教授は海洋拡散の予測をより高度化し、海のホットスポットを把握し長期間モニタリングしていく、三谷教授は、メダカを用いた放射線の影響の研究を続けていくとのこと。

 原発事故をなかったことにはできないし、放出した放射性物質をゼロにすることはできない。次善の策として、できるだけ放射線のリスクを減らすように、それぞれの専門分野で日夜研究がされていることは伝わった。「安全か危険かという二元論だけではなく、放射線とは何かを知る」ということが本勉強会のもともとの目的。それでも心のどこかで、「安全ですよ」と言ってほしかった。その期待は裏切られたが、それが現実ということも心のどこかでわかっている。そんなもやもやした気持ちを抱えながら会場をあとにした。
《キンジロー》
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