【インタビュー】日本におけるソーシャルメディアの発展課題……北米在住ブロガー立入勝義氏 | RBB TODAY
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【インタビュー】日本におけるソーシャルメディアの発展課題……北米在住ブロガー立入勝義氏

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ロサンゼルス在住で、北米のIT事情を紹介するブログ「意力」を運営する立入勝義氏
  • ロサンゼルス在住で、北米のIT事情を紹介するブログ「意力」を運営する立入勝義氏
  • 立入勝義氏著「ソーシャルメディア革命―“ソーシャル”の波が“マス”を呑み込む日」
 TwitterやFacebookなどをはじめ、今ソーシャルメディアに関するニュースが、ネットや雑誌、新聞、テレビなど媒体を問わず盛んに報道されている。ソーシャルメディアによる個人や企業のコミュニケーションの変革や、新たなWebマーケティングツールとしての可能性などが盛んに喧伝されており、ユーザー数も日に日に伸びている。

 しかしそんな中、カリフォルニア州ロサンゼルスに住み、主に北米のIT事情を紹介する人気ブログ「意力」を運営する立入勝義氏は、日本特有の様々な要因が、個人によるソーシャルメディアを通じた情報発信を阻害し、この分野におけるガラパゴス化につながるのではと警笛を鳴らす。21日に「ソーシャルメディア革命―“ソーシャル”の波が“マス”を呑み込む日」を上梓したばかりの、同氏に話を聞いた。

――前著「電子出版の未来図」では電子出版に関して、北米の最新情報を紹介しつつ、日本のガラパゴス化を警告されました。本書では対象がソーシャルメディアとなったわけですが、この分野では日本についてどのような点が危惧されるのでしょうか?

立入氏:北米では個人ブロガーがブログ運営から大きな収入を得たり、大企業のソーシャルメディア担当として採用されるなど、ソーシャルメディアの分野における個人レベルの活動が活発化してきています。しかし日本では事情が大きく異なり、「出る杭を打つ」文化が、ソーシャルメディアにおいて影響力のある個人の出現を阻んでしまうのではと危惧しています。これまでの日本のネット社会では匿名での言論が主流で、顔が見えないのをいいことに簡単に相手を非難したり中傷したりするというトラブルが絶えないため、北米に比べ無名の個人がソーシャルメディアを使ってのしあがるということが難しいのではと思っています。ソーシャルメディアにおいて個々人が意見や情報を発信しやすい環境が整うかどうかは、多様な価値観を大衆が許容できるかどうかにかかっていると思います。

――本書ではブログ運営のみで年収5,000万を稼ぐジョン・チャウ氏を紹介されていますが、確かに日本では彼らのように無名の個人が、ソーシャルメディアによって大きな成功を収めるというケースがあまり見られません。

立入氏:理由としては、先程あげた匿名のネット環境に加えて、日本では大企業がソーシャルメディアに長けた個人をビジネスに活用しようという動きがまだまだ小さいということがあります。北米では、大企業は有名なブロガー、あるいは優れた人材をソーシャルメディア担当に据えるということをし始めています。彼らは文字通り広告塔として、毎日様々なソーシャルメディアを駆使して、顧客とのエンゲージを図ります。また、ソニーが示したように自社の製品を紹介してくれる人材をスポンサーするというのも一つの動きですね。最近ソニーがスポンサーをしたママ(お母さん)ブロガー、キンバリー・ブレインの話を取り上げていますが、彼女はITやガジェットにうとい奥様方にソニー製品の使い方を紹介するというようなこともしているようです。費用対効果といった点でもインフルエンサーの存在意義は高まっていると思います。

――日本でも企業によるソーシャルメディアの活用はおおいに注目されています。

立入氏:日本でもマーケティングツールとしてのソーシャルメディアは注目されていると思いますが、これまで匿名性が主流であったこともあり、無名な状態からのし上がった個人と企業が協業するというような流れはなく、本格的なソーシャルメディアのマーケティングの時代は到来していないと感じています。北米では数多くの企業が真剣にソーシャルメディアを活用していく中で、市場はどんどん成熟してきており、ソーシャルメディアの意義や課題に対する認知度、そして現場レベルでの対応の仕方などがどんどん整理されてきています。

――ソーシャルメディア関連のツールは数が多く、かつ日本語対応がないサービスも多くあり、日本でのインフルエンサー登場の障壁となりそうです。このような状態で、ツールを使いこなすための心構えやコツのようなものはありますか?

立入氏:TwitterやFacebookに続き、人事系SNSのLinkedInもいよいよ日本に進出するなど、日本に進出するツールが増えてきているものの、まだまだネットの世界は英語重視のツールが多く、日本人には扱いにくいものが多いと思います。一番いいのは、とにかくよく分からなくても英語版に触れて「慣れる」ことだと思います。また最近はFacebookやライブモカ(Live Mocha, 言語学習系SNS)で見られるような、ユーザーが翻訳をするソーシャル翻訳も盛んですから、アーリー・アダプターの方が増えれば、それだけ日本語への翻訳が早まるという可能性もあります。企業がローカライズをするのを待つ必要はないのです。

――英語でソーシャルメディアを使いこなすというスキルは必要になってくるのでしょうか?

立入氏:英語に比べ、日本語はどこまでいってもマイナーな言語であり、また非常に難解な言語でもあります。その結果、ご指摘の通り、続々と登場するソーシャルメディアツールの大半は日本語にはローカライズされず、英語での利用を強いられるというのが現実です。そのため、ツールの使い方やそこで語られている共通の趣味などの「つながり」コンテンツにリアルタイムで関わっていくためには、英語は避けて通れないというのが現実だと思います。幸い日本では中高と最低でも6年は英語の教育を受けているのが一般的なので、各ツールのインターフェースを理解することくらいは少しの努力で可能だと思います。言語学習はいつでも「習うより慣れろ」ですが、ソーシャルメディアでもまったく同じことが言えると思いますね。とにかく恥を恐れず、多くの方に情報発信とエンゲージメントに挑戦して頂きたいです。

――アメリカ人に比べ、日本人は個人の意見の発信が苦手だと度々言われます。英語のツールを使いこなせるかという点に加えて、アメリカのように一個人がソーシャルメディアを通じて大企業と渡り合うということが、日本で大きな流れとして起こり得るかという心配も出てきそうです。

立入氏:そうですね。これは日本人がシャイだとか顔出しを嫌うということ以前の問題だと思います。ですが、私はこのソーシャルメディアがもたらす「革命」が多くの人々にチャンスをもたらすと信じています。それは私のような無名のブロガーが、有名出版社から本を続けて出版することができ、それが全国の書店に並んでいるという事実自体が裏付けしていると思います。昨今の不況で失業率がこれだけ高まっている中で、日本人は改めてソーシャルメディアの意義そのものを見つめ直して、これから成長していく産業の中で自身のキャリアアップのためのスキルとして学んでいくということもあり得るのではないでしょうか。第3章で「究極の村八分 孤立していく日本」という少しどぎつい表現の見出しをつけましたが、情報発信が苦手という背景にある、国語力の低下や「目利き力」、個性の問題など、実はソーシャルメディアを深く考えていく中で、日本人が学ぶことは多いのではないかと思います。私自身もそうですが、一度海外に出てみることで、日本を外から見つめ直すことができるようになり、初めて気付かされることというのは意外に多いものです。ソーシャルメディアの波は着実に世界を席巻し始めています。興味のある方はぜひともご一読頂きたいと思います。
《RBB TODAY》
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