G.718は、VoIP(Voice over IP)に適した、パケットロス耐性が高く、スケーラビリティを有する広帯域音声/楽音信号符号化方式として、2008年6月にITU-Tで承認された国際標準である。標準化にあたり、既存の方式にはない特長である「低ビットレートでの高い楽音信号符号化性能」を実現することなどを要求条件に設定し、これらを達成するための技術開発に取り組んだ。今回、筆者らが開発したBS-SGCにより、G.718は上記要求条件を達成した。このほか、低ビットレート音声符号化処理やフレーム消失隠蔽(いんぺい)処理など、G.718の特長的な処理の高性能化に貢献する技術を開発した。
第1表および第2表に、G.718の標準化にあたり定めた要求仕様(ToR : Terms of Reference)を示す。第1表、第2表はそれぞれ音声信号、楽音信号に対するToRであり、各ビットレートで達成すべき品質を要求品質(Requirement)として定めている。要求品質として設定した既存標準コーデックはスケーラブル構成ではなく固定ビットレートで最適化されているため、たとえ同じビットレートであっても同等の品質を達成するには困難を伴う。また、最低ビットレート(L1)での音声信号に対しては、より高いビットレートの既存標準コーデックと同等の性能を達成しなければならない。さらに、第1表、第2表以外にも、高い伝送誤り率での高品質性、背景雑音条件での高ロバスト性など多くの要求品質(全80項目)が定められており、G.718はこれら全項目をスケーラブル構成で、かつ双方向通信に耐える遅延条件で達成する必要がある。