【テクニカルレポート】薄型テレビの高性能・高機能化の動向とCELLレグザ――東芝レビュー | RBB TODAY
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【テクニカルレポート】薄型テレビの高性能・高機能化の動向とCELLレグザ――東芝レビュー

IT・デジタル テレビ
図1:LCDの主なバックライト方式
  • 図1:LCDの主なバックライト方式
  • 図2:TV用LCDの技術トレンド
  • 図3:CELLレグザ55X1
  • 図4:東芝のHDD録画対応TV
  • 図5:東芝TVのIPTV対応
 テレビ(TV)と言えば、液晶ディスプレイ(LCD)などを用いる薄型TVがあたりまえとなってきている。デジタル放送も普及期を迎え、単にデジタルハイビジョン放送が受信できる薄型TVというだけでは競争力がなくなり、性能や機能の新たな進化が求められている。

 東芝の液晶TVは、レグザ(REGZA)TMブランドで、高画質エンジンやネットワーク機能、磁気ディスク装置(HDD)録画機能など高性能・高機能化を図ってきたが、その進化した結果としてデジタルハイビジョン液晶TV“CELLレグザ 55X1”を商品化した。高性能プロセッサCell Broadband EngineTM(注1()以下、Cell BEと略記)を搭載し、そのパフォーマンスを生かして新次元とも言える圧倒的な性能や機能を実現した。高性能プロセッサの能力を使いこなすなかで、ソフトウェアの重要性がますます増すとともに、ソフトウェアを更新することで容易に機能を付加したり性能を向上させることができ、進化するTVを実現できる。

■デジタル時代の高性能TV

 2011年7月のわが国におけるアナログ放送終了にも見られるようにデジタルハイビジョン放送の普及が加速し、世界的にも高精細デジタル放送が普及して、TVと言えば液晶など薄型TVがあたりまえになった。表示デバイスもCRT(Cathode RayTube)のような走査線型ディスプレイからLCD やプラズマディスプレイなどの薄型の画素型表示デバイスに替わり、画素数も1,920×1,080 画素のフルHD(High-Definition)ディスプレイを用いることで、伝送される解像度と同じ画素数での表示ができ、解像度の面では劣化がなくなり、画質性能競争も新たな局面となっている。

・LCDとバックライト

 LCDは、バックライト光源を液晶の透過光量を制御することで映像表示すデバイスであり、透過光量を100% 遮へいできないため、完全な黒を表現できない。そのため、暗い映像のときにバックライトの光量を下げる制御を行うことで、より黒を表現できるように改善されている。

 バックライト光源としては冷陰極蛍光管(CCFL)が多く使われてきたが、その特性上、完全消灯までの制御は難しい。発光ダイオード(LED)光源では完全消灯までの制御が容易であることから、より高いコントラストを実現できる。

 LEDバックライトの方式には、液晶の背面に多数のLEDチップを並べた直下方式と、液晶の縁に並べたLEDチップから導光板で面内に拡散するエッジ方式がある(図1)。

 直下型LEDバックライトでは、画面内の部分的な光量制御ができ、1枚の映像フレームの中でも暗い映像部分ではその暗さに合わせて光量を下げる部分駆動LEDバックライト制御を行うことで、更に高いコントラストを表現できる。

 LCDは、画素の明るさ情報を書き換えてから次の書換えまで同じ明るさ情報を保持するホールド型ディスプレイであり、画素が一瞬だけ光るインパルス型ディスプレイと比べて、残像が残りやすい。これを改善するために書き換えるフレーム周波数を上げ、画像の動き予測を使って中間補完フレームを生成する倍速技術が使われている。

 またバックライトを液晶の書換えフレームに同期させて点滅させ、インパルス型ディスプレイに近い効果を与えるバックライトスキャン技術も動画性能を向上させる。LED 光源では完全消灯まで制御できるため、より効果の高いバックライトスキャンを実現できる。倍速技術とバックライトスキャン技術を併用することで、より動画性能を向上させることができる。

 LCDの技術トレンドを図2 に示す。東芝の液晶TVでは、2007年から120 Hz倍速液晶を採用し、2009年に商品化したレグザ ZX8000シリーズから部分駆動とバックライトスキャンの制御を同時に行う直下型LEDバックライトを採用している。

 2009年に商品化したCELLレグザ55X1(図3)では、LEDの分割ブロック数を512に拡大してLED 部分駆動制御を高精度化させた。また、バックライトの部分駆動を消灯方向の制御だけではなく、画面の一部が明るい映像の場合には、明るい部分で増光方向の制御も行うことにより、500万:1のコントラストと1,250 cd/m2 のピーク輝度を実現し、一段階高い映像表現ができた。

・超解像技術

 HDTV(High Definition Television)が普及したと言っても、DVDなどSD(Standard Definition)画質の映像ソースもまだまだ使わてれている。また、わが国の地上波デジタル放送では伝送帯域の関係でハイビジョンとは言っても1,440×1,080 画素で伝送されており、フルHDに満たない。これらの映像をフルHD LCDで表示するときには解像度の変換が行われるが、通常の解像度変換では、ダウンコンバート(画面サイズの縮小)時もアップコンバート(画面サイズの拡大)時も、スケーリングフィルタ(解像度変換時の補間フィルタ)のため本来の映像よりもぼけた映像となってしまう。

 超解像技術は、解像度変換時の誤差を推定し本来持っていたはずの映像情報を再現する技術であり、特にダウンコンバートされた映像をアップコンバートするときに効果がある。

 CELLレグザ 55X1では、従来のレグザシリーズに搭載されていた再構成型超解像技術に加えて、自己合同性を利用した超解像技術や色信号の超解像技術、ネット映像向けの圧縮ノイズ除去技術を採用し、よりいっそうの高画質化を実現した。

・高音質化技術

 薄型TVでは奥行きが短いことからスピーカの容積が小さくなりがちで、特に低音の再現が難しい。そのために、スピーカの背面からの放射を利用したり、DSP(Digital Signal Processor)により聴感上の低音感を再現する信号処理などの様々な技術が用いられてきたが、根本的な解決には至っていない。

 CELLレグザ 55X1では、スピーカを映像表示モニタ本体から分離してエンクロージャ(スピーカボックス部)容積を大きくし、低音用スピーカのウーファをダブルウーファとすることで低音再生能力を確保している。また、ウーファと高音用スピーカのツィータを別々のアンプで駆動するマルチチャンネル デジタルアンプ方式を採用し、本格オーディオシステムに匹敵する構成となっている。

 TV番組には様々なタイプのコンテンツがあり、コンテンツにとってより適切な音響効果や低音増強、音声明瞭(めいりょう)化などを自動的に制御することで、聴きやすく臨場感あふれる音質が得られる。

 当社では従来から番組のジャンル情報をもとに自動的に音響効果を最適化する“おまかせドンピシャTM 高音質”を搭載してきたが、CELLレグザ 55X1では、Cell BEで音声信号をリアルタイムに解析し、音響効果を適切に制御することで、一つの番組の中でもそれぞれのシーンに合わせた最適な音質を再現できる。

■TVの高機能化

・HDD録画機能

 TVに録画機能を内蔵すると、ユーザーのつごうに合わせて好きな時間にタイムシフトして視聴できるようになり、大変便利である。当社ではHDD内蔵TVだけでなく、市販のLAN-HDDやUSB(Universal Serial Bus)-HDDを増設することで容易に記録容量アップを図れる録画機能内蔵TVを開発してきた(図4)。

 放送中の番組を視聴中に別の番組を録画可能とするための裏番組録画対応から始まり、デジタル放送の二つの裏番組を同時に録画できるW録TM 機能へと進化させてきた。

 CELLレグザ 55X1では、地上波8チャンネルを同時録画し、既に放送された任意の番組をさかのぼって視聴できる“タイムシフトマシンTM”機能へと進化させ、録画は予約して行うものという概念を一新させた。

・ネットワーク機能

 ブロードバンド インターネットの普及により、映像コンテンツのネットワーク配信が可能となっている。アクトビラTM(注2)やひかりTVTM(注3)、TV版Yahoo!Japan(注4)などTV向けのIPTV(Internet ProtocolTelevision)サービスも盛んに行われている。

 パソコン(PC)向けの映像配信サービスはそれにも増して多種多様であり、Webブラウザを使用してアクセスするものが多い。

 一方、家庭内でもLANによるホームネットワークが普及し、DLNA(注5)を使って機器間で映像音声をやり取りすることができ、録画機で記録した番組を別の部屋のTVで再生することもできる。

 AV機器どうしの接続方法も、HDMI(注6() 囲み記事参照)によるデジタルインタフェースが普及し、接続されたAV機器をTVリモコン一つで操作できたり、機器間の連携動作もできるようになった。

 当社は、アクトビラTMやひかりTVTM、TV版Yahoo!JapanのIPTVサービスに対応し、またWebブラウザ機能やDLNA にも対応したTVを開発してきた(図5)。

 CELLレグザ 55X1では、同様にIPTVサービスやDLNA に対応できるとともに、WebブラウザにOperaTM(注11)を採用し、Adobe® Flash®(注12)のプラグインに対応することで、Webサイトへの適応性が格段に向上し、YouTube(注13)といった動画サービスにも対応できるようになった。

・ユーザーインタフェース

 TVが高機能化し、単に放送を受信する機器から多様な機能を持つ機器となったことで、使いやすさがより重要になった。

 TVで視聴するコンテンツも、放送だけでなく録画済み番組やインターネットコンテンツなど多彩になり、膨大な数のコンテンツを扱えるようになっている。番組表やリスト表示といった従来からのユーザーインタフェースでは、見たい番組を探したり、選択すること自体がユーザーの負担となってしまうため、単に操作性が良いといった視点とは異なる、見たいおもしろい番組が簡単に見つかるコンテンツ指向のユーザーインタフェースが求められる。

 CELLレグザ 55X1では、メタデータ(データの付加情報)を利用して、視聴中の番組やユーザー指定の番組から関連性の高い番組を優先して提示することで簡単に見たい番組を見つけることができる“ローミングナビTM”を搭載した。またタッチパッド式リモコンを採用し、より直感的な操作性を目指した。

■ソフトウェアで更に進化するTVに向けて

 TVが単なる放送受信機からネットワークや各種メディアに対応し機能拡張するなかで、TVで使用するシステムLSIもCPUの性能を年々向上させてきており、それに伴いソフトウェアの重要性がますます高くなっている。

 ディスプレイ技術や映像処理技術の進歩により、TVは今後ますます高画質化していく。立体視可能な3D(3 次元)TVやより高解像度な4K2K(約4,000×2,000画素)ディスプレイもあり、これらに対応するTVでは、新たな映像処理技術や新機能が求められる。

 ネットワーク技術やストレージ(外部記憶装置)応用技術などもますますTVの機能として取り込まれていく。Cell BEを搭載したCELLレグザ 55X1はソフトウェアを更新することで、柔軟に高性能・高機能化することができる。今後も、ソフトウェアで進化するTVに向けて、更に技術開発と商品化を推進していく。


■執筆者(敬省略)

高久 和光
TAKAKU Kazumitsu

ビジュアルプロダクツ社 TV& ネットワーク事業部
映像開発第三部参事。テレビの設計・開発に従事。
映像メディア学会会員。
TV & Network Div.

※同記事は株式会社東芝の発行する「東芝レビュー」の転載記事である
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