【OGC 2010】ニコニコ動画が目指す、あさってへの進化 〜 ニワンゴ杉本社長 | RBB TODAY
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【OGC 2010】ニコニコ動画が目指す、あさってへの進化 〜 ニワンゴ杉本社長

エンタープライズ その他
ニワンゴ代表取締役社長・杉本誠司氏
  • ニワンゴ代表取締役社長・杉本誠司氏
  • ニコニコ動画の会員数
  • 男女別・年齢別のユーザー分布
  • ニコニコ生放送
  • ユーザー生放送
  • ユーザー生放送の利用状況
  • 静止画(画像)の投稿によるコミュニケーションの試み
  • お題の作成が可能
 動画共有サイトが静止画のサービスを始める……。こんな、一見すると時代と逆行するアイディアを、軽やかに実現するのが「ニコニコ動画」です。そして、その数々の奇策が、コミュニティに幅広く受け入れられてきました。

 そんなニコニコ動画の基本戦略とは何か。そしてユーザーコミュニティを、どのように捉えているのか。ニコニコ動画を運営するニワンゴの杉本誠司社長は OGCで「動画 生放送 静画と続く、ニコニコ動画が目指すあさってへの進化」と題して講演を行い、そうした疑問に解答しました。

 はじめに、杉本氏はニコニコ動画は動画共有サイトではなく、「動画という共通の話題を通じて、多くの人につながりを持つ機会を提供する」サービスだと前置きしました。ひらたくいうとコミュニティサービスですが、複雑な議論ではなく「ちょw」「おまw」などの「感情」を共有する場。ゆるいコミュニケーションを通して、自分の存在を再認識する場という意味です。

 匿名性が高く、端的にものを言うが、本質的な議論は避ける。だけど一人でいることには耐えられず、つながりは持ちたい……。ニコニコ動画は、こうしたユーザーニーズを、アーカイブされた動画データに対するコメントという「非同期的」的手法で、うまくすくい上げることに成功したと分析します。

 その結果、会員数は無料会員1509万人、有料会員60万人、モバイル会員434万人にものぼっています。また男女別では男性7割・女性3割。年代別では20代が約半数ですが、10代が30代を上回りました。いまや中学生、高校生にとって、ニコニコ動画は話題のネタとして欠かせないモノになりました。

 もっとも、こうしたユーザー属性は傾向がわかるだけで、それほど重要ではないと杉本氏は語ります。それよりもサービスのログから、ユーザーのトラッキングを分析することが重要だといいます。あるユーザーがどのようにサービス内を巡回し、コンテンツを消費していくか。「この導線をたどることで、本質的なプロファイリングが見えてくる」

 次のステップとなったのが、07年末からスタートした「ニコニコ生放送」です。アーカイブからリアル、非同期から同期コミュニケーションと、その質が大きく拡大しました。「会場と視聴者が同期することで、もっとスリルのあるコミュニケーションが投入できる」 ユーザーも時間に縛られる制約が生まれますが、逆にプレミアム感も打ち出せます。

 昨年夏には吉本興業と提携し、「夏だ!祭りだ!コメントだ!ニコニコ動画12時間ぶっ通し生放送」を実施。有名タレントも登場し、20万人を超えるユーザーを獲得、累計コメント数が250万件にも上りました。こうした生放送文化は、ユーザー自身が発信者になれる「ユーザー生放送」によって、さらに進化。現在の番組数は毎月142万件、放送社が3.2万人、視聴者数は63万人にのぼります。

 もちろん、こうした番組はテレビ番組と比べると、画質やコンテンツの完成度の点で、天と地ほどの開きがあります。しかし、マスに向けて一斉に放送する地上波番組と、双方向を前提としたインターネット番組では、コンテンツの作り方も本質的に異なります。「動画と言いつつ、映像の質に依存しない」コンテンツが、結果としてユーザーから支持されているのです。

 ニコニコ動画は今後もバージョンアップを続け、さらなるサービスの多様化を目指していくとしています。昨秋に投入されたニコニコ動画(9)では「ライトユーザーでも楽しめるサービスの導入」「ニコニコの新たな遊び場の創出」「二次創作文化圏の構築」がキーワードとなりました。もっとも、このように短期的にアップデートを続け、緊張感を持たせなければ、ユーザーに飽きられる……。とはいえ、これは、すべてのコミュニティサービスに共通の課題でしょう。

 (9)で実装された新サービスは「ニコニコ静画」「世界の新着動画」「ニコニコ実況・ニコニコDVD」です。「ニコニコ静画」は、動画ではなく画像の投稿・共有サービスで、あるお題と起点となる画像に対して、複数のユーザーが次々に画像を投稿したり、コメントがつけられ、スライドショーで視聴できます。日本の伝統文化「連歌」にも似たサービスです。

「世界の新着動画」は、その日に投稿された動画コンテンツを生放送的に見られるサービスです。とはいえ単なるダイジェストではなく、30秒ごとに続きを見るか否か、視聴ユーザー同士で多数決がとれるというもの。アーカイブされた動画をもとに、ユーザーを巻き込んでの遊びが提供されます。

「ニコニコ実況」は、地上デジタルチューナーを接続したPC向けのサービスで、地デジの番組に対してコメントだけを提供するサービスです。ユーザーは地デジで放映中の番組に対して、リアルタイムにコメントを書き込めます。「ニコニコDVD」も同じ仕組みで、こちらはDVDビデオという共通の映像素材をネタにコメントできます。

 このように、杉本氏は「動画を見てもらうことが本質ではなく、ユーザーが出会って、共有することが目的」だと強調しました。このコンセプトがぶれなければ、どのようなサービスがあってもいいし、サービスの多様化はさらなるユーザーの拡大をもたらす……。だからこそ、「動画ではなく静止画」という、一見すると「真逆」の進化が出てくるというわけです。

 もっとも、何かをネタに会話して、自己の再確認を図るという行為は、井戸端会議や教室での雑談など、昔から繰り返されてきました。テレビのワイドショーで、ある事件に対してコメンテーターが次々にコメントする(そして、それをネタに職場や近所でおしゃべりする)なども、その好例です。しかし、今はリアルよりも、ネットの方にリアリティを感じるユーザーが増えています。

「だから、それらに適したユーザー・インターフェースを提供していく。みんながニコニコ生活する場を提供し続ける」と杉本氏は締めくくりました。「あさっての進化」と煙に巻きつつ、きわめて「素直な進化」ではないでしょうか。(インサイド 小野憲史)
《RBB TODAY》
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