【仏教とIT】第21回 スマホも心も照らす、ほとけインフラを作りたい | RBB TODAY
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【仏教とIT】第21回 スマホも心も照らす、ほとけインフラを作りたい

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【仏教とIT】第21回 スマホも心も照らす、ほとけインフラを作りたい
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社会派僧侶、電力事業に参入



メール相談には、3日以内(土日・祝日を除く)に丁寧に返事を書く


 かねてからストイックに自死問題に取り組んできた敬愛するお坊さんが、2018年6月に突然「TERA Energy株式会社」を設立し、電力事業を始めた。さすがにこれには意表を突かれた。もしかしたら、カネにならない自死対策を諦めて、カネになりそうな電力事業に走ったのかと、敬愛していただけに戸惑いを隠せなかった。実際、ネット上では「お坊さんがまた丸儲け」などと大バッシングを浴びたらしい。

 そのお坊さんとは、浄土真宗本願寺派僧侶の竹本了悟さん(41)。広島の沖美町(江田島市)のお寺で生まれ育ったが、海上自衛官の幹部候補生学校が近くにあったことから、憧れたのはお寺の住職よりも自衛隊だった。その夢を求めて防衛大学に進み、卒業後は自衛隊に入った。自衛隊の生活は楽しかったが、国のために生きようと真剣に志すほど、お寺や家族と接する時間が失われた。悩んだ末に、1年間で自衛隊を辞め、生まれ育ったお寺の世界に戻った。そして、学び直すために龍谷大学の大学院で研さんし、2007年からは西本願寺の研究所で学びを深めた。

 当時、研究所で問題意識をもって受け止められていたのが、自死対策だった。警察庁の発表によれば、日本には1998年から2010年まで、年間3万人を超える自死者がいた(2018年は約2万人まで減少)。当然、お寺にも「死にたい」という相談が寄せられることが珍しくなかったし、「死にたい」という思いをお寺が受け止め切れていないことへの忸怩たる思いもあった。

 竹本さんは、当初、自死問題をあくまで“他人事”だと受け止め、距離を置いて接していたという。しかし、研修のなかで自死遺族のリアルな苦しみに接したときに、長い間ずっと蓋をしてきた感情に出会った。他ならぬ自分自身も小学校3年のときからいじめられ、「死にたい」と思っていたのだった。そう気付いたときには泣いていた。その日から、自死対策はまさしく“自分事”として抱えて生きていくべき課題となった。


自死対策の手ごたえと限界



メール相談には、3日以内(土日・祝日を除く)に丁寧に返事を書く


 その後、2010年に、京都自死・自殺相談センター「Sotto」を設立(翌2011年NPO法人格取得)。社会人でも相談しやすいように夜間の時間帯(金曜・土曜の19~25時)に電話窓口を設け、いまでは年間2,000件近い相談を受けている。メールでの相談も年間1,500件を超える。ほかにも、いろんな具材が集まって味わいが出る“おでん”のように、自死念慮者の居場所を作るための「おでんの会」なども開催。いずれも参加費は無料で、運営のための資金は寄付や助成金によってまかなわれている。

 竹本さんは、「いじめられていた子供の頃、学校で過ごす時間はつらかったけど、塾に通っているあいだはすべて忘れられた」と振り返る。だから、電話やメールなどで相談できる窓口を設け、逃げ込める「居場所」を用意しておくことが、自死対策として有効だと指摘する。「死にたいとまで思い詰めている人に社会復帰というゴールを突きつけても仕方ありません。人間はそんなにすぐに変われません。変わる云々ではなくほっと安心できることの方が幸せじゃないですか?社会復帰を目指すよりも、脱力してほっとできる場を作っていきたいです」と竹本さん。

おでんの会。食事を食べてゆっくり語り合うほか、マッサージやストレッチで心身をほぐすメニューも


 Sottoの活動を支えるのは、数名の職員と、多くのボランティアスタッフ。扱っている問題はきわめて重たいのに、笑いが絶えないあたたかい職場で、おでんの会に来た人も、みんな笑顔になって帰っていくという。

 ただ、問題がないわけではない。毎年、研修を行って、新しいスタッフを入れているが、ボランティアだと辞める人も多く、5年間続く人の割合はわずか1割にとどまる。職員に対しても、自死対策という専門性の高い仕事に携わってもらっている以上、それに見合う給与を支払い、サービスを向上させていきたい。だが、寄付集めに精を出しても、死にたいというネガティブな気持ちに、あえて目を向けたい人は少なく、思うように成果はあがらなかった。


この世にぬくもりのある光を



「もっとうまくお金を流通させる仕組みを作らないと、せっかく自死対策に力を注いでもこれ以上実を結ばないと知りました。人々の生活のインフラに、うまく自死対策を組み込むことを考えるようになりました」と、竹本さんは電力事業参入を決意した背景を語る。

 こうして設立されたTERA Energyは、リーズナブルな電気料金を追求するとともに、電気料金の一部を社会貢献に用いる「寄付つき電気」というシステムを導入している。すなわち、契約者が毎月支払う電気料金の一部は「ほっと資産」として、自死対策をはじめとした取り組みなどのために寄付される。契約者一件当たりからの「ほっと資産」はわずかでも、7万件を超える全国のお寺が賛同してくれれば、日本政府の年間の自殺対策予算77億円に匹敵する金額が集まるという。

広島のお寺で、檀家さんと地域の困りごとやお寺に期待することを語り合う


 また、提供する電力の質にもこだわりを見せる。日本で初めて「顔の見える電力(R)」という、契約者がマイページから応援する電力生産者を決められる仕組みを構築したみんな電力株式会社と事業提携し、TERA Energyは契約者にクリーンな電力を届けている。現在は再生可能エネルギーの比率が70パーセントにとどまるが、ゆくゆくは100パーセントまで高める予定だ。

 竹本さんは、「私がやりたいのはインフラ整備なんです」という。
「資本主義的な考え方に相変わらず世の中は支配されていますけれど、仏教的な世界観のなかで人が生き、お金が動いていくことを願います。ITインフラを駆使すれば、私はこれが実現可能だと思います。メールなどで死にたいと悩んでいる人とつながることもできますし、どこから電力を買うかをスマホで決めて、次の世代のために地球環境を守るようにつとめることもできます」

 TERA Energyは、これまで中国エリアでのみ電力事業を展開してきたが、来年から関西エリアも対応する。他の地域にも順次サービスを拡大していきたいと意気込む。

関西エリア対応を控え、TERA Energyの社会的意義を説く竹本さん。2019年9月、京都にて


 心ある発電所で作られたクリーンな電気が、私たちの家に届き、PCやスマホの画面を何気なく照らす。そして、どこかで人知れず死にたいと悩んでいる人々の心をも照らす――そんなぬくもりある世界が訪れることを願う。


池口 龍法氏
池口 龍法氏

【著者】池口 龍法
1980年兵庫県生まれ。兵庫教区伊丹組西明寺に生まれ育ち、京都大学、同大学院ではインドおよびチベットの仏教学を研究。大学院中退後、2005年4月より知恩院に奉職し、現在は編集主幹をつとめる。2009年8月に超宗派の若手僧侶を中心に「フリースタイルな僧侶たち」を発足させて代表に就任し、フリーマガジンの発行など仏教と出合う縁の創出に取り組む(~2015年3月)。2014年6月より京都教区大宮組龍岸寺住職。著書に『お寺に行こう! 坊主が選んだ「寺」の処方箋』(講談社)、寄稿には京都新聞への連載(全50回)、キリスト新聞への連載(2017年7月~)など。

■龍岸寺ホームページ http://ryuganji.jp
■Twitter https://twitter.com/senrenja
《池口 龍法》
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