凹凸感が楽しい、新しい印刷技術!カシオの“2.5D”プリンタを体験してきた | RBB TODAY

凹凸感が楽しい、新しい印刷技術!カシオの“2.5D”プリンタを体験してきた

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カシオ計算機で2.5Dプリンタ、モフレルを開発する丸山政俊氏(左)と堀内雄史氏(右)にインタビューした
  • カシオ計算機で2.5Dプリンタ、モフレルを開発する丸山政俊氏(左)と堀内雄史氏(右)にインタビューした
  • 満開の桜が咲き乱れるカシオの八王子技術センターを訪問
  • この春から販売を開始した業務用2.5Dプリンタ“Mofrel(モフレル)”「DA-1000TD」
  • はじめは商品として販売した立体的なデジタル絵画「カシオアート」が2.5Dプリンタのスタート地点となった
  • 「点字教育」「触地図」など視覚障害者向けの展開を想定していたが、やがて2.5Dプリンタのターゲットはさらに広がっていった
  • CESにモフレルの試作機を出展して多くの反響を得たという
  • モフレルのデモンストレーションを体験。本体には大型のタッチパネル液晶が搭載されている
  • 画面上の案内に沿っていけば間違いなく印刷できるできる
 カシオ計算機が平面でも立体でもない「2.5次元」のプリント技術を開発した。デザイン試作品を製作するための時間やコストを大幅に短縮できるという2.5Dプリントシステムの概要や、初の業務用2.5Dプリンタ“Mofrel(モフレル)”「DA-1000TD」の特徴についてカシオのエンジニアに詳細を訊ねた。

満開の桜が咲き乱れるカシオの八王子技術センターを訪問
満開の桜が咲き乱れるカシオの八王子技術センターを訪問


 今回のインタビューに答えてくれたのは、カシオ計算機八王子技術センター デジタル絵画事業部の設計・技術室 室長である丸山政俊氏と第一開発室リーダーの堀内雄史氏だ。

カシオ計算機で2.5Dプリンタ、モフレルを開発する丸山政俊氏(左)と堀内雄史氏(右)にインタビューした
カシオ計算機で2.5Dプリンタ、モフレルを開発する丸山政俊氏(左)と堀内雄史氏(右)にインタビューした


2.5Dプリンタとは一体なに?


 カシオが提案する2.5Dプリントとは、「デジタルシート」と呼ばれるA3/A4サイズの特殊なシートの上に凹凸を加工して立体的な表現を可能にする技術だ。2Dと3Dの間を取って「2.5D」と銘打っている。

この春から販売を開始した業務用2.5Dプリンタ“Mofrel(モフレル)”「DA-1000TD」
この春から販売を開始した業務用2.5Dプリンタ“Mofrel(モフレル)”「DA-1000TD」


 そもそもは、カシオが2013年頃にビジネスとして展開していた、平面のキャンパスをベースに立体的な表現を可能にするデジタル絵画「カシオアート」を起源として、そこから発展を遂げたものだ。当時カシオは絵画作品の販売を中心におこなっていたが、やがて2015年頃からプリンタの開発がスタートした。当初は「点字教育」「触地図」など視覚障害者向けの展開が軸になるものと想定されていたが、2016年にラスベガスで開催されているエレクトロニクスショー「CES」で2.5Dプリンタの試作機を出展したところ、「工業製品のデザイン試作にも活かせるのではないか」という引き合いを多く得たことから、マルチユースの2.5Dプリンタとして商品開発のスピードが加速した。

はじめは商品として販売した立体的なデジタル絵画「カシオアート」が2.5Dプリンタのスタート地点となった
立体的なデジタル絵画「カシオアート」が2.5Dプリンタのスタート地点となった


「点字教育」「触地図」など視覚障害者向けの展開を想定していたが、やがて2.5Dプリンタのターゲットはさらに広がっていった
「点字教育」「触地図」など視覚障害者向けの展開を想定していたが、やがて2.5Dプリンタのターゲットはさらに広がっていった


CESにモフレルの試作機を出展して多くの反響を得たという
CESにモフレルの試作機を出展して多くの反響を得たという


 こうして完成した初の2.5Dプリンタ「DA-1000TD」はBtoB向けの商品として、今年2018年の2月下旬から国内での販売が始まった。シリーズ名であるモフレルは日本語の「も・触れる」に由来している。デジタルシートの凹凸に触れて驚きを感じられる新しさにスポットを当てた、いい愛称だと思う。

どんな仕組みで凹凸を表現しているのか


 カシオの2.5プリント技術ではどのようにして専用デジタルシートに凹凸を成形して、きめが細かく鮮やかな色づけまでおこなえるのだろうか。丸山氏に印刷技術のしくみを解説してもらった。

 「はじめにデジタルシートの表面にカーボンを塗布・印刷します。続いて近赤外線を照射してバンプ(=凹凸)をデジタルシートの上につくる工程に進みます。デジタルシートの表側にはマイクロカプセル入りのパウダーが塗布されていて、シート全面に均一な配光の近赤外線を当てるとカーボン分子が発熱して、マイクロカプセルが膨張します。これにより凹凸が成形されるという仕組みになっています。凹凸の高低差は先に塗布したカーボンの量で制御します」(丸山氏)。

モフレルのデモンストレーションを体験。本体には大型のタッチパネル液晶が搭載されている
モフレルのデモンストレーションを体験。本体には大型のタッチパネル液晶が搭載されている


画面上の案内に沿っていけば間違いなく印刷できるできる
画面上の案内に沿っていけば間違いなく印刷できるできる


 今回はカシオの八王子技術センターでモフレルの実機によるデモンストレーションを見学しながら、丸山氏に解説を添えてもらった。

専用のデジタルシートにカーボンを塗布。デザインのパターンをプリントする。黒が濃いほど、隆起も大きくなる。この時点では凹凸はまだない
専用のデジタルシートにカーボンを塗布。デザインのパターンをプリントする。黒が濃いほど隆起も大きくなる。この時点では凹凸はまだない


凹凸をつけた直後に金属のプラッターに挟んで手動で冷却し、固化を促進して安定させる
近赤外線を照射し凹凸をつけた直後に金属のプラッターに挟んで手動で冷却。固化を促進して安定させる


 表側に貼り付いているマイクロフィルムをはがすと、白色のシート表面に凹凸ができていた。指で触れると凹凸感がはっきりとわかる。マイクロフィルムをはがしてから、続いて表側にカラープリントをかける工程に進むわけだが、カシオの堀内氏によれば「マイクロフィルムのないデジタルシートもラインナップに用意しているが、カーボンの色が残らないぶんマイクロフィルム有りのシートの方が完成した時の色合いがより鮮やかに出せる」のだという。

カラー印刷を阻害しないため、フィルムをはがしてカーボンインクを除去
カラー印刷を阻害しないため、フィルムをはがしてカーボンインクを除去


細かなパターンが凹凸で再現されている
細かなパターンが凹凸で再現されている


 続くカラー印刷が完了すると、シートの表面に色鮮やかなデザインのパターンが現れた。途中解説を挟みながら印刷を進めていただいたので、今回のプリント全体には通常よりも少し多く時間がかかったと思う。出力する素材やモチーフ、その他の要因によっても異なるが、A4サイズのデジタルシート1枚を完成まで仕上げるプリント時間はおよそ3~6分程度だという。最初の工程のカーボン印刷および、そのあとのカラー印刷については、カシオが検証済のものに限られるが、市販の水性・顔料インクが使える仕様としている。

さらにその凹凸の上にカラーインクをプリント。立体デザインの試作が手軽におこなえる
さらにその凹凸の上にカラーインクをプリント。立体デザインの試作が手軽におこなえる


 デジタルシートは基材層に紙、またはPETフィルムを使っている製品が用意されている。サイズはA4/A3の2種類。それぞれに必要な大きさにカットして使えるのが特徴だ。また新規にポリオレフィンと呼ばれる高分子化合素材を基材にした“折り曲げられるデジタルシート”もラインナップに加えられた。「凹凸や曲面のある箇所にも、湿布のように曲げて貼れる」(堀内氏)という、けっこう画期的なシートだ。

曲げられる素材でつくられた2.5Dプリント用のデジタルシートも商品化が完了。車のドアに内装として貼り付けたイメージ
曲げられる素材でつくられた2.5Dプリント用のデジタルシートも商品化が完了。車のドアに内装として貼り付けたイメージ


データの作成はフォトショップ用の専用プラグインで直感的に


 忘れていたが、そもそもデジタルシートに印刷する元データはどのように準備すればいいのだろうか。

 「データは通常のパソコンでつくることができます。オペレーション環境として、アドビのフォトショップ向けにモフレル用のプラグインを提供しています。『Mofrel SURFACER』の機能で、読み込んだ画像データに凹凸の指示データを追加していきます。最初にデザインデータを読み込むと自動的に凹凸が付けられますが、必要に応じてマニュアルで細部を修正できるようにもなっています。『Mofrel VIEWER』は出力前に凹凸のイメージをプレビューするための機能です。そしてもうひとつの『Mofrel OPTIMIZER』は、作成した凹凸データをプリンタに送る際に、正常な凹凸がつくれるよう自動で最適化するツールになります」(丸山氏)。

凹凸を着けて着色されたデジタルシートに、後から光沢処理をかけてよりリアリティを高めることも可能
凹凸を着けて着色されたデジタルシートに、後から光沢処理をかけてよりリアリティを高めることも可能


 モフレルのアプリケーションはフォトショップが操作できれば簡単に使いこなせるようにできているので、別途2.5Dプリントのための技術を学ぶ必要はないという。もちろんデザインデータを思いのままキレイに印刷して2.5D化するための“コツ”みたいなものは、プリンタを使い込むほどに磨かれていく経験知だ。今回の取材時にはモフレルを使って印刷した様々な作例も見せてもらったが、凹凸や色合いを細かく調整しながらクリエイティビティに富んだ表現ができそうだ。

どんなメリットがあるのか


 丸山氏は2.5Dプリンタを使うことのメリットを次のように説いている。

 「デモンストレーションをご覧いただいて、1枚のシートに印刷する時間がとても短いことがおわかりいただけたと思います。従来の技術に比べると格段に印刷時間が短縮されています。また印刷にかかるコストも、専用のデジタルシートが1,000円/1枚からとなり、あとは市販のインクを購入する代金だけとなります。プリンタを導入いただければ、小ロットのデザイン試作もハイスピード、低コストで可能になります」(丸山氏)。

レザー調の2.5Dプリント。質感も非常によくにている
レザー調の2.5Dプリント。質感も非常によくにている


 水性インクを使うので、印刷後のシートに水に濡れた手で触れて強くこすると当然ながら滲んでしまうが、表面にラミネート防水加工や光沢加工をかけることで強化することがきる。なお、プリンタ本体の価格は500万円(税抜)前後となり、サポート・保守などは内容によって個別に契約となる。

 カシオでは今後、モフレルを当初想定して文教用途だけでなく、自動車・建材・アパレルなどプロダクトの試作を必要とする業種のプロフェッショナルに向けてアピールしていく考えだ。導入に向けて前向きに検討するクライアントもあるという。丸山氏は「カシオ社内でもアイデアを出しながら、モフレルによる2.5Dプリントがどのような用途や表現に向いているのか、できる限り多くの事例をつくってご紹介していきたい」と意気込みを語っていた。

エレクトロニクス機器の操作パネルにも2.5Dプリントの技術が応用できそうだ
エレクトロニクス機器の操作パネルにも2.5Dプリントの技術が応用できそうだ


 モフレルによる2.5Dプリントは、写真で見るだけではそのダイナミックな凹凸感や、その上に印刷したカラープリントの高精度な仕上がり具合を確かめられないところが弱点とも言える。今後カシオにとっては、2.5Dプリントの作例になるべく多くの人が触れて関心が持てる機会を積極的につくっていくことが肝要だ。プロのデザイナーや学生を巻き込んだ「2.5Dプリントのアイデアソン」のようなイベントを開催したら盛り上がるのではないだろうか。印刷技術に関しては素人の筆者にも、2.5Dプリントの世界には驚きと期待が感じられた。ぜひ多くの人がこれを体験して、将来は新しいクリエイティブツールに成長してほしいと思う。


※スタートアップのオリンピック!「Slush Tokyo」とは?主催者に聞く
《山本 敦》

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