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古民家再生はCOOL!……文化財の保全から生まれた宿泊ビジネス

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外観は当時の雰囲気を極力再現。ライトアップでより魅力的に
  • 外観は当時の雰囲気を極力再現。ライトアップでより魅力的に
  • 古民家の内装。外国人にもくつろいでもらえるようソファーがある
  • ナショナルジオグラフィックのツアーが企画した餅つき大会
  • 重要伝統的建造物群保存地区である落合集落。ここに8棟の宿泊施設がある
【記事のポイント】
▼古民家の外観は江戸時代のままにして、水まわり、冷暖房、インターネット環境は整備する
▼交付金、補助金利用
▼海外に影響力のある人物、PR方法を事前に準備する
▼宿を地域の一部とし、観光客が地元の人たちとの触れあえることが大事


■文化財の保全から生まれた宿泊ビジネス

 インバウンドといえば爆買いのイメージから、円安目当ての外国人観光客がクローズアップされがち。しかし、訪日観光客が増加の一途をたどる中で、その目的も多様化されてきた。今、東京や京都といった主要な観光地ではなく、地方ならではの“日本の原風景”を求める人が増えている。

 徳島県三好市の祖谷(いや)地区では、古民家を再生した宿泊施設を8棟用意。インバウントの取り込みに成功した。三好市産業観光部の中西章氏によると、この宿泊業のきっかけになったのは、08年に始まった「地方の元気再生事業」だという。

 三好市東祖谷には平家落人伝説や茅葺集落などの伝統文化があり、以前から地域資源を活かした歴史観光事業が検討されていた。忙しく名所を見てまわるのではなく、東祖谷にじっくり腰を落ち着けられるような街づくり。そのためには宿泊施設の開業が急務だったが、田舎に現代風のホテルを建てるというのは疑問が残る。そこで注目されたのが、江戸時代後期に建てられた落合地区の古民家群だった。「重要伝統的建造物群保存地区」に選ばれており、国から改修費用の補助も出る。ならば、宿泊施設として利用しようというのが、プロジェクトの発端だった。

 しかし、当初は祖先から受け継いだ家を宿泊施設として提供することに抵抗があるオーナーも多かった。外観は昔のままで内側を現代風にすると説明しても、なかなかイメージがわかない。さらに、隣の民家が近すぎては宿泊施設に適さないので、除外するケースもあったという。

 その中でも、まずは一軒の改修が終わると集落住民からの理解も進み、プロジェクトはいよいよ始動する。10年からの5カ年計画で8棟の古民家が宿泊施設として再生。外観は江戸時代のまま、台所、お風呂、トイレなどの水まわりや、床暖房などの暖房設備、インターネット環境などを整備した。その費用は約3億7300万円におよんだが、国交省の交付金を約1億2650万、文化財の補助金を約7300万円利用している。

■インバウンド集客の下地が宿泊業を成功させた

 祖谷地区とインバウンドの関わりには歴史がある。今から40年前にアメリカ人の東洋文化研究者 アレックス・カー氏が祖谷を訪れ、300年の歴史を持つ茅葺き屋根の古民家を買い取った。この建物は「ち庵」(※ち の漢字表記は竹かんむり、雁だれ、虎)と名付けられ、アレックス氏はそこでの暮らしを本として出版。海外にその魅力を伝えると、ち庵で宿泊業を開業し、多くの訪日観光客を迎え入れている。

 その一方で、三好市でも市の職員が上海や香港、シンガポールなどに出張し、大歩危(おおぼけ)や祖谷地区の魅力を海外へとアピール。海外で発行のトラベルガイド「ナショナルジオグラフィック トラベル」に取り上げられたこともあり、訪日観光客のツアーに祖谷地区が組み込まれることもあった。今でもインターネットを利用して、市の公式ページやSNSでの広報活動を展開。「ち庵」をはじめとする宿泊施設の公式サイトには、英語版のページが用意されている。

 このような取り組みもあって、15年度には祖谷地区に約2000人の旅行者が宿泊。そのうち、海外からの利用者は約250人を占めた。比率はアジアが46%、欧州が34%、北米が13%という内訳。国別には香港、アメリカ、フランス、ドイツ、中国の順となっている。

 そんな彼らの評判は、やはり「クール!(かっこいい)」の一言。欧米人にせよ、アジア人にせよ、都市部からの旅行客が多いため、田舎暮らしやスローライフへの願望を満たしているようだ。


■スローライフへの願望を古民家宿泊で満たす

 宿泊施設として開放されている8棟の古民家では、食事は自炊が基本。ただ、利用者のリクエストによっては、地元の店からのケータリングサービスを行う。地元の主婦が土地の食材で料理を作るという体験イベントも好評だ。以前にはツアー客と一緒に餅をついたこともあったという。

 こうしたイベントを地元の住民も楽しんでいるようだ。訪日観光客の中には地元民に気軽に話しかけてくる人も多い。彼らとコミュニケーションを取るために、東祖谷の住民は英語教室を開催。今では片言ながら外国人観光客と話をしているという。高齢化率40%の地ではあるが、事業によって地元の人たちの元気な姿が見られるようになった。

 訪日観光客の中には「地元の人たちとの触れ合いがあれば、後は何もいらない」という声も多い。隣近所の住民たちの会話に混ざって、そこでの暮らしをリアルに体験する。軽井沢のような別荘地ではなく、日本の田舎の原風景に溶け込むことを魅力と感じているのだ。

 こうした傾向は国内の観光客にも見られる。クーラーボックス一杯に食材を詰め込んで現れたある観光客は、「もうこの二日間は何もしません、これってもの凄い贅沢でしょ」と笑って話した。目的は古民家で食べて、飲んで、のんびり過ごすこと。こういう人ほど、実はリピーターになる確率が高い。

 かつて海外でもフランスやイタリアの田舎に泊まるというブームがあった。観光地をまわるのではなく、1カ所に腰を据えてゆっくり深く味わう。三好市が事業をスタートさせる際には、そのイメージがあったという。都会の慌ただしさを忘れて、日本の原風景の中でゆったり過ごすこと。第一線で働く欧米のビジネスマン、高度経済成長と戦うアジア人、そしてもちろん日本の都会人にとっても、それは心が求める贅沢の一つなのかもしれない。

~田舎にもっと外貨を!:3~古民家再生はCOOL!

《板谷智/HANJO HANJO編集部》
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