マンガ大賞2013に吉田秋生「海街diary」 | RBB TODAY
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マンガ大賞2013に吉田秋生「海街diary」

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前回の大賞作品『銀の匙』(荒川弘)の担当編集、坪内崇氏から『海街diary』の担当編集、真島聡氏に大賞の額が手渡された
  • 前回の大賞作品『銀の匙』(荒川弘)の担当編集、坪内崇氏から『海街diary』の担当編集、真島聡氏に大賞の額が手渡された
  • 吉田作品の編集を約20年に渡って担当してきた真島氏。「第1話の声なき号泣のシーンを読んで、これはすごい作品だと正直震えました」と立ち上げ当時を振り返った
  • マンガ好きの有志が手がけるマンガ大賞らしく、たくさんの感想が寄せられた特製の額がトロフィーとして贈呈された
  • 吉田氏による今回の受賞記念イラスト。日常の暖かみを丁寧に描いた『海街diary』らしい一枚
  •  編集真島氏と実行委員のみなさんが並んだ記念撮影。式の進行も、実行委員として参加しているニッポン放送の吉田尚記アナウンサー(前列左端)が担当した
  • 授賞式会場にはノミネート作品の単行本も並べられた。書店員が多く参加していることから、作品につけられたポップも力の入った出来栄え
3月21日、都内・ニッポン放送にて「マンガ大賞2013 授賞式」が行われた。2008年から開催されているマンガ大賞は今回で6回目。「面白いと思ったマンガを、その時、誰かに薦めたい!」というコンセプトで、書店員など多彩なジャンルのマンガ好きの有志が選考委員、実行委員として開催している。

今回の大賞候補作にノミネートされたのは『暗殺教室』(松井優征)、『海街diary』(吉田秋生)、『乙嫁語り』(森薫)、『俺物語!!』(原作:河原和音 作画:アルコ)、『九井諒子作品集 竜のかわいい七つの子』(九井諒子)、『山賊ダイアリー』(岡本健太郎)、『テラフォーマーズ』(原作:貴家悠 作画:橘賢一)、『人間仮免中』(卯月妙子)、『ハイスコアガール』(押切蓮介)、『ぼくらのフンカ祭』(真造圭伍)、『ボールルームへようこそ』(竹内友)という11作品。

そのなかから大賞には、吉田秋生の『海街diary』(小学館『月刊フラワーズ』連載)が選ばれた。『海街diary』は初開催となる「マンガ大賞2008」でも3位に選出されており、じつに5年越しの大賞獲得となった。

諸事情あり、受賞した吉田氏本人の登壇写真はメディアに掲載できないが、下記に受賞の言葉と、続いて行われた質疑応答でのやり取りを、最小限の微調整のみでほぼ全文掲載した。メディアに登場することが少ない吉田氏の、貴重な生の言葉を少しでも感じてほしい。
[野口智弘]

吉田秋生氏のコメントに続く



吉田秋生(以下吉田)「今回はこんなに素敵な、かわいらしい手作りの額をいただきまして、本当にうれしく思います。人様にいろいろと作品を読んでいただいて、なおさらそれを支持していただけるというのは、マンガ描きとしては大変幸福なことだと思います。まして今回の賞は人に薦めたい、友達にすすめたいというコンセプトで選んでいただいたとうかがっていますので、これは本当に幸福なことだなと思います。人生にはいくつか贈り物があると言いますけど(笑)、この歳になってまたこんなひとつすばらしい贈り物をいただけたのは、マンガ家をやっていて本当によかったなと思っております。ありがとうございました」

――『海街diary』はどのように生まれたのでしょうか?

吉田「私は鎌倉で子供時代を過ごしましたので、鎌倉という町に愛着があるんですね。鎌倉を舞台にした作品を以前に描いたことがありましたので、その流れでなにか描けないかなと思っていたら、なんとなくそれから生まれたかなという感じです」

――老若男女、多くのキャラクターが登場しますが、最初にどのキャラクターから生まれましたか?

吉田「最初に生まれたのは4人姉妹の2番目の、信用金庫に務めている女性ですね。その子の物語を進めていってなんとなく波及したかなという形です」

――そこから幅広い人々の物語に広がっていったのは?

吉田「結局歳を取ったせいかな、という気はしますね。やっぱり若い頃は勢いで描けたんですけど、歳を取ると勢いだけではどうにもならないというか、勢いがなくなってきちゃうんですね。いろんなことが邪魔になるというか、人生経験でいろいろ経験してきたことが、少女マンガというカテゴリのなかだと勢いだけで行けない分、いろいろあれこれ考えてしまうので『だったらそういうことを考えなくてもいいから』と(編集側から)お話をいただいたので、この際あえて少女マンガというカテゴリからはずれるかもしれませんけど、いろんな年齢層や性別とか、いろんな事情を抱えた人たちの物語が描けたらと思ってやっていました」

――物語は毎回すんなり出来るんでしょうか? それとも相当練り込まれるんでしょうか?

吉田「いろいろですね。ケースバイケースだと思いますし、その人間のキャラクターの気持ちに沿って、ああじゃないこうじゃないといろいろ考えますから、うまくすっと行くこともありますし、なかなか『こうかな、ああかな』と考えながらやることもありますね」

――鎌倉、サッカー、料理、病院など多彩な題材が登場しますが、もともとお好きなものなのでしょうか?

吉田「もともと好きなのはサッカーですけど(笑)、勉強しなければならないことも多少はありました。ただ知識が先に出てしまうと物語の勢いって死んでしまうものなので、当たらずとも遠からずじゃないですけど、嘘じゃないけどそれほど本当ではないな、みたいなところは確かにあると思います」

――登場人物にモデルはいますか?

吉田「具体的にモデルがいたわけではないですね」

――第1回から多くの登場人物が出てきて、読み進めるとそれぞれの人物の関係が深まるのも楽しみのひとつですが、先の展開はどこまで決め込んで描いてますか?

吉田「その都度その都度、なんとなくという形です」

――先に全体像が完成しているわけではない?

吉田「全体像として完成しているわけではないですけど、物語というのはやはり生き物ですので、そのときそのときの状況で変わりますし、『こういう展開があるのかな』とか自分で描いていてもちょっと読めない部分もありますので、それはやはり生き物の勢いに任せるのが一番いいのではないかと、少なくとも私はそう思っています」

――ドラマ化などのお話は来ているのでしょうか?

吉田「映像化のお話は何点かいただいているようですけども、その辺のことは私も直接関わっていないので、ちょっとお答えいたしかねます」

――(過去作品の)『ラヴァーズ・キス』でも鎌倉が舞台で、今回の『海街diary』にもキャラクターが一部登場していますが、『ラヴァーズ・キス』との関連性は?

吉田「同じ鎌倉が舞台のマンガですし、基本的に私にとってはふるさとですので、いろいろとこれからは鎌倉を形を変えてでも描いていけたらなと思っています。(鎌倉を描く作品に)『ラヴァーズ』のキャラクターですとか、今回の『海街diary』のキャラクターも出てくる可能性はあると思います」

――鎌倉の持っている特別なものがこの作品に影響を与えている部分はありますか?

吉田「子供時代を過ごしましたので――歳取ってますから当時はコンビニとかもないですしね(笑)、そういうコンビニもないので夜は本当に暗くなってしまうんですね。それこそ夕方になると真っ暗になってしまいますし、子供は家に帰ってご飯を食べるしかないんですね。昼間の光と急に暗くなっていく闇の世界、そういうもののコントラストがものすごく強かったなと思います。東京にいますと明かりがいっぱいありますし、どこに行っても闇というのがあまりない。(東京では)べつの意味での闇だと思うんですけど、鎌倉での子供時代の闇というのは、ものすごく子供にとっては怖いものなんですね。親が早く帰ってこないと悪いものが出るぞとか、どこかに連れて行かれちゃうぞみたいな、ものすごく具体的に闇とかそういうものを恐れたんですね。その恐れがあった。光と闇のコントラストがものすごく印象深くて、私はその光と闇の強いところがものすごく好きなので、東京も好きですけど、違う意味で鎌倉はやはり心が惹かれる街だなと思います」

――マンガ家にとって賞やランキングに選ばれるという気持ちは?

吉田「マンガというのは基本的に好き嫌いだと思いますので――でも選ばれるほうなのでなかなか言いづらいんですけど、いただければ確かに『みなさんに支持していただけたのかな』と思って嬉しいんですけど、ただ描いているほうはあまり意識して描いているとは思わないですね。もちろん意識されてる方もいらっしゃるかもしれませんけれど、私自身はそういう賞に選んでいただいているわけではないですし、たまたまの贈り物だと受け止めています」

――マンガ大賞については?

吉田「やはり『友達にすすめたい』というコンセプトで選んでいただけたと聞いているので、それは大変嬉しいし、光栄だと思っております」

授賞式の最後には、次回「マンガ大賞2014」も開催する予定とのアナウンスも行われた。2013年はどんな作品がマンガファンの心に残るのか、早くも期待が高まるところだ。

「マンガ大賞2013」最終結果

大賞:『海街diary』(吉田秋生)
2位:『乙嫁語り』(森薫)
2位:『ボールルームへようこそ』(竹内友)
4位:『ハイスコアガール』(押切蓮介)
5位:『俺物語!!』(原作:河原和音 作画:アルコ)
6位:『暗殺教室』(松井優征)
7位:『九井諒子作品集 竜のかわいい七つの子』(九井諒子)
8位:『人間仮免中』(卯月妙子)
9位:『テラフォーマーズ』(原作:貴家悠 作画:橘賢一)
10位:『山賊ダイアリー』(岡本健太郎)
10位:『ぼくらのフンカ祭』(真造圭伍)

マンガ大賞2013に吉田秋生「海街diary」“光と闇の強い鎌倉という街を描きたい”

《animeanime》
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