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IDEOのデザイン・シンキングを応用……慶応大学主催のデザインコンテストへ密着

エンタープライズ その他
ポストイットを使ったKJ法を用いて、作成するプロダクトの方向性を考える
  • ポストイットを使ったKJ法を用いて、作成するプロダクトの方向性を考える
  • チームごとに分かれてプロトタイプを作成
  • チームごとに分かれてプロトタイプを作成
  • チームごとに分かれてプロトタイプを作成
  • テーマに沿ったプロトタイプ作成のための気づきを得るため、フィールドワークに出る
  • 「デザイン・シンキング」では観察による気づきが重要な要素となる
  • 最優秀チームの表彰式の様子
  • 最優秀賞を受賞した「電子鏡」。鏡上部にカメラが搭載されている。
 新しい製品やサービスを開発する方法として、人間の視点や観察による気づきなどを重視しイノベーションを創造するという「デザイン・シンキング」。2008年には「Harvard Business Review」にてデザイン・シンキングに関するIDEOの活動事例が紹介され、ビジネスの世界からも注目を集めた。デザイン・シンキングのステップは一般的に、「問題点の理解」「調査」「ユーザーのニーズの把握」「プロトタイプの作成」「ユーザーテスト」「プロダクトの改良」などに大別される。

 13日~18日の6日間、慶応義塾大学の学生組織が主催するデザインコンテスト「The 3rd KBC Brand-New Challenge」が開催された。このイベントは、慶応や他の大学の学部生や院生がチームに分かれ、「デザイン・シンキング」を用いてプロダクト作成を体験する合宿型プログラム。出題されたテーマに沿ったプロダクトを各チームごとに作成することになる。

 ちなみに2008年度に実施された第1回目のテーマは、「他人に迷惑をかけることなく、自分が目を覚ますことのできる製品をデザインせよ」。第2回目は「身体を洗うという行為をデザインするプロダクトのプロトタイプを作成せよ」であった。テーマは年々抽象度が増し、難易度が高くなっているというが、今年のテーマは「私達人間に影響を与えるような造形が変容する様子を観察し、その観察結果をもとに革新的なプロダクトのプロトタイプを作成せよ」というもの。過去2年のテーマでは、「目覚まし」や「身体を洗う行為をデザインするプロダクト」など、すでに具体的な用途が決められていたのに対し、今回はそれが定めらていないため、自由度が高く今までと比べると難しい内容となっている。これに対して、学生達は6日間でプロトタイプの完成までこぎつけなくてはならない。

 このように社会人でも難易度の高い取り組みとなっているが、実は参加する学生のほとんどはデザインに関する経験が全くなく、出身学部も経済学部や商学部、環境情報学部など多岐にわたる。デザイン経験のないある学生は参加の理由について「普段は違う学部の学生との交流があまりないので、そういった人たちと話せるのが楽しみ」と話す。さらに、自由度が高いのはテーマだけでなく、プロダクト作成までの各ステップにおいても、参加者の判断にまかされる部分が大きい。たとえば一度プロトタイプを作成すると、それを第三者に実際に使ってもらい改良につなげるというステップがある。あるグループは作成したプロトタイプの想定ユーザーが幼稚園児だったため、実際に幼稚園に電話でアポを取り、そこの児童たちにプロトタイプを試してもらったという。学生のイベントとはいえ、各ステップの中で決められたやり方がなく、参加者の自由度が非常に高いことがこのイベントの特徴だ。

 だがこのように難しい条件の中、前大会の優勝チームは、作成したプロダクトをテキサス大学で行われたデザインコンテストの世界大会「The Idea to Product Global Competition 2009」に出品し、全米最優秀賞を受賞したという実績も持っており、参加する学生のポテンシャルの高さを感じさせる。

 第3回目の今回は、過去と比べてテーマの難易度が高いこともあり、参加者にはスケジュールが非常にタイトに感じられたようだ。合宿の中ではプロトタイプ作成までに、問題点の「1.理解」「2.観察」「3.視覚化」「4.改良」、そして発表というステップをふむが、グループで行うテーマの理解や観察のためのフィールドワークの選定などの時間はそれぞれ20分程。今回のテーマは「造形が変容する様子」を観察した結果を元にプロトタイプを作成することだが、あるグループは話合いの結果、観察のためのフィールドワーク先として都内のリサイクルショップを選んだ。このグループの学生は「中古の商品が並ぶリサイクルショップなら、テーマについて何か気づきがあるかもしれないから」と話す。フィールドワークは半日かけて行われるが、最終的にこのグループは、電車内でペットボトルのドリンクを持った人にヒントを得て、開け閉めがしやすく、つぶしやすいドリンクの缶をデザインしていた。
  
 そして最終日には、参加者達は審査員の前でグループごとに作成したプロトタイプの発表を行う。審査員にはデザインコンサルタント会社ziba tokyoの代表取締役 平田智彦氏をはじめ、著名な関係者が並んだ。各グループのプレゼンテーションでは、通行人が自由に書込みができ、デザインを変えられる地図や、手を使わずに履くことができる靴など、それぞれがフィールドワークで得た気づきをもとに作成したプロトタイプが発表された。
  
 優勝チームが作成したプロトタイプは、鏡の上部にカメラを搭載した電子鏡。鏡全体がタッチパネルとディスプレイを兼ね備えており、スマートフォン向けのアプリも利用できる。鏡に映した姿を写真に収め、その画像データをWi-Fi経由でPCに保存できるという。対象ユーザーには「鏡を見る機会が多い」結婚前の社会人女性を想定しており、ユーザーが鏡の前で化粧をする姿を毎日写真に収めることで、鏡に映る容姿の細かい変化に気づくことを目的とした。さらにWi-Fi機能搭載により、撮影した画像をmixi、TwitterなどのSNSやブログなどで共有することも可能。

 このプロダクトが最優秀案件に選ばれたことについて、審査員は「技術的にイノベーティブな点はないものの、既存の技術の組合せにより、イノベーティブなものへと化ける可能性がある。また実現の可能性が非常に高い点も評価した」とコメントしている。

 今回の合宿は6日間で、テーマの理解からフィールドワーク、プロトタイプ作成、プロモーション方法のアイデア出しなど非常にタイトなスケジュールで行われた。さらに参加者の大半が未経験者だということもあり、各ステップでのアイデアが練りきれていない部分があるようにも見受けられた。実際に参加者に話を聞くと、アイデアは色々出たものの、技術的・時間的にプロトタイプを作れず断念した案がいくつかあったようだ。次回はより自由なアイデアづくりのために、サービス分野にデザイン・シンキングを応用するなど、製品デザインに限らない試みも面白いかもしれない。

 今回の優勝チームは、昨年と同じくデザインコンテストの世界大会「The Idea to Product Global Competition」への出場を希望しているといい、さらなる飛躍が期待されている。
《RBB TODAY》
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