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【ニールセン博士のAlertbox】iPhoneアプリはスタート時のハードルを下げる必要がある(Vol.1)

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Jacob Nielsen博士
  • Jacob Nielsen博士
 携帯電話のアプリケーションは断続的にしか利用されないものがほとんどだ。したがって、特に使いはじめの時期に容易なものである必要がある。なかでも、ユーザーがアプリのよさを経験する前に、事前登録をさせようとするのはやめたほうがよい。

 iPhoneアプリのユーザビリティセミナーに向け、このところ数え切れないほどのテストセッションにずっと同席して、iPhoneのオーナーが何百ものアプリケーションを利用するのを見ている。

 これらのセッションに基づき、小さなタッチスクリーン上で人々がアプリを利用しやすくするための、多くの具体的ユーザビリティガイドラインを我々は確認した。現在のアプリがユーザーエクスペリエンスの楽園から程遠いところにあるのは明らかである。

 このテストセッションはいろいろな意味で1986年に行ったMacintoshの初期のアプリケーションについてのテストを思い起こさせた。当時インタラクションデザイナーは、そのマウスや中型のGUIの使い方をまだ理解していなかった。今や彼らに必要なのは指での操作とごく小さなGUIのサポートについての腕を上げていくことである。大量のガイドラインがセミナーに向けて用意されている。実際、新世代のユーザーインタフェースをテストすれば必ず、充実した1日の成果に値するものを私は引き出してきた。「マスターガイドライン」は1986年と変わっていない。つまり、UIを古いインタフェースパラダイムから新しいものに移植してはならないということである。過去、このことが意味したのは、魅力のないメインフレームのフローを持つものの上にGUIを無造作に置くなということだった。今、それが意味するのは、デスクトップ向けの直接操作できるデザインへのアクセス用にタッチスクリーンを追加してはならないということである。ユーザーはクリックするように正確にはタッチすることができない。したがって操作可能なグラフィックオブジェクトの数はずっと減らすべきなのである(そうすれば、一つ一つをぐっと大きくすることができる)。

 こうした欠点があるにもかかわらず、iPhoneアプリのユーザーを見ての私の結論は、携帯サイトのテストでのユーザーよりも彼らの方がまだ、ずっと悲惨な目に会う回数が少なかったというものである。実際、iPhoneアプリを利用する人のテストの方が、同じ携帯電話を使って、ウェブサイトを利用しようという人を対象にしたテストよりも、結果がよかった。

 モバイル機器上ではウェブサイトよりもアプリケーションのほうが使いやすい。(これは以下のような現状を前提としている。デザイナーがモバイルユーザビリティのガイドラインにもっと従うようになれば、ブラウザベースのサイトはさらに使いやすくなる)。

 なぜウェブサイトよりもアプリの方がモバイル向けなのか。それは、デバイスが貧弱であればあるほど、デザインというのは、プラットフォーム間に共通の基準に従うのでなく、そのプラットフォームの正確な能力に最適化されなければならないからである。

■モバイルアプリは断続的に利用されるアプリ

 iPhone調査から得られた非常に明快な結論は、人々は実際に利用する以上に大量のアプリをインストールするというものである。

 各セッションの最初のパートで、彼ら自身のiPhoneアプリを利用するところを見せてくれるようにユーザーに依頼した。我々がよく聞いたコメントはこんな感じだった。「これをダウンロードしたのはかっこよさそうだったから、あるいは、友達がいいって言っていたから。でもまだ試す時間がないのです」。ユーザーはこうもよく言っていた。「これをダウンロードしてすぐには何回か使ったけど、その後はもう使っていません。単に削除する時間がなかったのです」。

 この発見から得られる最初の結論は、純粋なダウンロード数というのは明らかに適切でないということである。アプリが成功しているかどうかを評価するには、実際に利用されているかどうかを測定する必要がある。そして、アプリがユーザーのニーズを本当に満たしているかどうかを評価するには、さらにもう一歩進めて、継続的に利用されているかどうかを測定しなければならない。何回か利用された後に見切りをつけられるのなら、あなたのところのモバイル向けデザインは失敗しているといえる。

 FacebookからWeather Channelにいたるまで、頻繁に利用されているモバイル向けアプリもいくつかはある。しかし、ほとんどのビジネスはこのカテゴリーに入ることは現実には不可能だ。なぜならば、デスクトップ用の中心的なアプリケーションや、人々が日常的に仕事で利用する企業向けのミッションクリティカルなソフトウェアと、モバイルのアプリとはユーザビリティの基準が異なっているからである。

 モバイルとは、すなわち、主に断続的に利用される、ということである。このことが実際に意味するのは、ウェブサイト上で我々がよく調べる短命のアプリケーションよりも、ユーザーのコミットするレベルが深いということだ。

 ウェブベースの短命のアプリケーションの例としては、自動車の販売サイトでよく見られるカスタマイゼーションとシミュレーションのユーティリティが当てはまるだろう。こうしたアプリに対しては、ユーザーはなんのコミットメントも持たず、そのサイト上で先に見たページで得た経験から集めうる知識のみを持って最初の画面にやってくる。(そのうえ、ほとんどのウェブサイトの訪問時に、いかにユーザーが内容を読まないかということを我々は皆、知っている)。

 モバイルアプリはウェブサイト上の短命のアプリよりは少しましである。なぜならばインストールするかどうかはユーザーが能動的に決めるものだからである。このことによって、そのアプリを探検してみようかという最低限のレベルのコミットメントは創り出される。我々が見た限り、このレベルは実際には非常に低いことが多いけれども。とはいえ、ゼロよりは高い。

 2番目に、そのアプリのアイコンは携帯電話上にずっと出ている。これは、ユーザーにそれを試すようにささやき続ける小さな声としての役割を果たす。もう一度言うが、これにはそれほど大きな強制力はない。というのも、人というのは選択的注意が非常に優れているからである(詳しくは、人の心でのセミナーで論じる)。人というのは本当に注意を払いたいと思わないものは基本的に無視する。したがって、ユーザーの目は利用されていないアイコンの上を非常に速いスピードで通り過ぎていく。

 こうしたことはiPhoneのユーザーエクスペリエンス全体についての事実にすぎない。つまり、アプリはApp Storeから簡単にダウンロードできるが、社会的なプレッシャーによって多くの「楽しい」アプリは即座に大きなユーザープールに移動させられる。その結果、「Springboard」(アプリを起動するページ)は実際には必要性のない、その夜、バーやパブを出た後には利用されない、取るに足らないアイコン達で汚染されることになる。

 もし、実際に利益を顧客に提供しようという「まじめな」ビジネス用のアプリをデザイン中なら、上で書いたようなアプリは、生理的に不快な音のように感じるかもしれない。しかし、そういうふうに思ってはいけない。このコラムをよく読んでくれている読者ならウェブのユーザーエクスペリエンスについてのJakobの法則を思い起こすかも知れない。すなわち、ユーザーはほとんどの時間を(あなたのところとは)別のサイトで費やす。あなたのサイトもウェブ上のエコシステムの一部であり、あなたのサイトのユーザビリティはウェブのユーザーエクスペリエンス全体によって影響を受けている。つまり、人々が訪問する他のサイトすべてによって支配されているのである。

 例えば、ソーシャルメディアのサイトにビジネスの情報を投稿しようとしているときには、家族や実際の友人達で構成されているあなたのフォロワーの個人スペース内で、その情報は生き残っていく必要がある。同様に、iPhoneアプリをデザイン中なら、あなたのアプリはアプリのユーザーエクスペリエンス全体の小さな一部分になるのである。

 公平であろうがなかろうが、世の中とはそういうものだ。うまく処理するしかない。そして、それに向かってデザインをしていこう。

「iPhoneアプリはスタート時のハードルを下げる必要がある(Vol.2)へ続く

※この記事はユーザビリティ研究者ヤコブ・ニールセン博士が運営するサイトuseit.comで連載中のコラム『Alertbox』の転載・翻訳記事です。
株式会社イードが運営する「U-site」では、博士からの正式な許可を得て同コラムの全編を日本語訳し公開しています。
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