【特集・電子書籍ビジネス Vol.1】雑誌専門オンライン書店が挑む電子ブックサービス——デジタリンクActiBook(アクティブック) | RBB TODAY

【特集・電子書籍ビジネス Vol.1】雑誌専門オンライン書店が挑む電子ブックサービス——デジタリンクActiBook(アクティブック)

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取締役 CSO 最高戦略責任者 赤羽弘明氏(左)とプロジェクト推進部 デジタルプロジェクトマネージャ 戸谷忠史氏(右)
  • 取締役 CSO 最高戦略責任者 赤羽弘明氏(左)とプロジェクト推進部 デジタルプロジェクトマネージャ 戸谷忠史氏(右)
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 今年、ラスベガスで開催された「2010 International CES」では、電子書籍がひとつのカテゴリーとして注目を集め、様々なベンダーの製品が並んだ。米国の大手新聞社は電子書籍端末への記事配信の検討を始めている。出版・新聞不況が叫ばれるなかで、生き残りをかけた新ビジネスとして期待されているサービスのひとつが、オンラインで購入する電子書籍という形態だ。デジタル化された媒体は端末の広がりとともに新しい局面を迎えている。これらの端末は、日本ではあまり認知されていないが、その波は近くまで来ていると考えていいだろう。実は、その流れに先んじるかのように、日本にもオンライン書店が手掛けている電子ブックサービスが存在するのだ。富士山マガジンサービスが運営する雑誌のオンライン書店「Fujisan.co.jp」は、PC向けにデジタル化した雑誌ページを有料でストリーム形式で配信し、閲覧できるサービスとして売上を伸ばしているという。富士山マガジンサービスの取締役 CSO 最高戦略責任者 赤羽弘明氏、および同社のプロジェクト推進部 デジタルプロジェクトマネージャ 戸谷忠史氏に、「デジタル雑誌」が伸びている理由やシステム、新しいビジネスモデルについて聞いた。

——「Fujisan.co.jp」は、どのようなオンライン書店なのか教えていただけますか。

赤羽:弊社は8年前に、日本でAmazon.co.jpを立ち上げた西野伸一郎ら4名によって創設されました。創設当初は、雑誌×ITでなにかやってみようというところから始まっています。オンラインブックストアでは、単価の低い雑誌のオンライン販売は送料の問題もあり、ビジネスになりにくいとされていましたが、我々はそこに目をつけた形ですね。実は、アメリカでは雑誌の販売は書店2に対して定期購読8という割り合いなのです。単号売りでは難しいかもしれませんが、年間の定期購読ならビジネスになるのではないかと考えました。

——ただ、日本とアメリカでは出版を取り巻く環境も違うのではないでしょうか?

その通りです。日本の雑誌市場は1兆2千億円程度で、その書店と定期購読の割り合いはアメリカとほぼ逆で8:2(書店:定期購読)と言われていました。これは、国土の広いアメリカの流通体制や、出版社の直販体制との違いがあるからですが、アメリカは8割の市場があっても、出版社の直販サービスが確立され浸透しています。日本は出版社が直販や定期購読にあまり力をいれていない状態なので、むしろ伸びしろがまだあるはずと考えました。

——現在、どれくらいの雑誌をオンラインで扱っているのですか。

赤羽:現在、約1,000社の出版社と取引させていただいており、取り扱い点数は6,700誌ほどになります。

——デジタル雑誌というサービスを開始したのはいつからですか?

赤羽:3年前になります。当初はアメリカのソフトウェアを利用して、ダウンロード形式でサービスを提供していました。

——現在のサービスはストリーム形式で、ダウンロードではありませんよね

赤羽:はい。ダウンロード形式だと、リーダーがPCの機種や環境に依存してしまうという問題があったのですが、開発メーカーがアメリカということもあり、迅速な対応やきめ細かい改善が難しい状態でした。また、ライセンス条件の関係で、エンドユーザーへのサービス提供価格が高くなるという問題もありました。改善を模索する中、同様なシステムを提供してくれる国内のソフトウェアベンダーや開発メーカーを探すことにしました。10社くらい比較検討しましたが、最終的に残ったのはスターティアラボという会社の「デジタリンクActiBook(アクティブック)」(以下 ActiBook)というソフトウェアでした。スターティアラボの雑誌のデジタル化に対する考えが我々と同じであったこと、それとActiBookがその時点で160社以上の出版社への導入実績があったことが大きかったですね。

——デジタル化に対する考え方とは?

赤羽:まず、紙媒体をデジタル化して提供するといった場合、中身は雑誌かもしれませんし、社内文書やドキュメント類かもしれません。また、有料配信が前提のシステムもあれば、無料で配信するシステムもあります。さまざまなソース形態や配布形式がある中で、紙の雑誌を有料配信するのにいちばんベストなものはなにか、を最優先に考えました。重要視したのは、表示速度、文字やグラフィックのクオリティ、機種に依存しない全画面表示、きれいに印刷できること、の4つです。これらのこわだりに対して、応えてくれたのがスターティアラボだったということでしょうか。例えば、PCの画面サイズや環境において最大サイズにしたときにもページの画像が粗くなったり、ジャギーが見えないといった処理にこだわりました。表示サイズが固定だと、大きいディスプレイでもそのサイズでしか表示できませんからね。クオリティとともにサービスとしてこだわった点ですが、スターティアラボはきちんと実装してくれました。このActiBookのシステムでサービスを開始したのは、2008年7月からです。

——現在、デジタル雑誌の売り上げはどれくらいになっていますか。

赤羽:細かい数字は公表していないのですが、現在、紙の雑誌の売り上げの5%を目指しているところです。2010年は、iPhoneなどのスマートフォンブームが本格化し、kindleの海外展開など電子ブックのリーダーとなるデバイスがさらに増えてくると思います。ここにきて、日本の出版社も電子ブック市場に積極的に参入し、新しいメディア、流通チャネルとして注目しています。日本でも電子ブック市場が動きだすと思っています。

——富士山マガジンサービスは、オンライン書店と電子ブックという2つの新しい流れをビジネスに取り入れてきたわけですが、日本の業界も変わりつつあるということでしょうか。

赤羽:8年前、最初に取り扱わせていただいた雑誌はニューズウィーク誌でした。この契約に半年くらいかかりましたが、地道な活動が功を奏して、ビジネス情報誌を足がかりに3年目には1,000誌を越えることができました。そのころになると、出版社サイドもオンライン販売について考え方が変わってきており、営業の仕方もこちらからアプローチしていたものから、出版社からの問い合わせが来るようになりましたね。電子ブックについては、小さい波のようなものが何度か起きていますが、現在デジタル雑誌で販売しているものは250誌までに増えています。出版社数では150〜200社くらいです。とくにファッション誌は、現在広告よりもオンラインを含むコマース(製品販売)との連動を重視するようになっていますし、技術系や企業向けの情報誌などはセミナーやデータベース化をビジネスにつなげようとしています。電子ブックなど雑誌のデジタル化についても非常に手応えを感じています。

——たとえば、ある出版社が自社の雑誌をデジタル化して販売したいと思ったらどうすればいいですか。

戸谷:富士山マガジンサービスのデジタル雑誌を利用する場合は、まず販売したい雑誌のPDFデータを用意する必要があります。そのとき、当然ですが、著者やイラストレータ、デザイナーなど著作権などをクリアしておく必要もあります。その上で、いただいたPDFをActiBookで配信するためのオーサリング作業を行います。オーサリングができた段階で、出版社にこういう状態で配信されますという確認をしてもらいます。雑誌によっては色味など画面でどうなるか確認する必要がありますし、有料配信ですのでクオリティについてはこだわります。基本的にはこれだけの作業です。弊社の場合、定期購読が前提となるので、出版社ごとに発売日にあわせたワークフローを決めて、同じような作業のサイクルを回します。電子ブックとして配信するというライセンス処理がクリアできていれば、あとはPDFファイルを用意してもらえれば、すぐにでも配信サービスを利用することができます。

——そのときの定期購読の料金などは紙の雑誌と同じですか。

戸谷:ケースバイケースで対応しています。一般的にユーザーは印刷していない分安い値段を期待しますが、書店の雑誌と同じ値段で配信しているデジタル雑誌もあります。逆に、デジタル版だけ音楽や動画などを追加して高い値段で配信することもあります。ユーザーに対しても出版社に対しても、双方納得のいくような価格やコストが設定できるのも、ActiBookのライセンスがシンプルであるからです。たとえば、最初に契約したアメリカのベンダーの場合、ダウンロードソフトウェアの利用について、年間の固定ライセンス料に加え、ダウンロードごと認証ごとの従量課金もされていたため、ユーザーに対してリーズナブルな価格設定がしにくく、出版社に対しても定価交渉の範囲が限定されてしまっていました。ActiBookの場合、ソフトウェアの買い切りか定額のどちかなので、出版社との細かい契約条件やワークフローの調整、価格設定にも柔軟に対応できます。細かいところでは、ActiBookのサーバはストリーミングといっても通常のウェブサーバ程度のスペックで対応可能です。専用サーバや高価なストリーミング構成をとる必要がありません。オーサリングについても雑誌の処理を考えてバッチ処理機能も強化されています。これらは、電子ブックのサービスを提供する事業者にとっての参入のしやすさ、メリットでもあります。

——電子ブックのビジネスとして、今後はどのような展開が考えられそうですか。

赤羽:アメリカでは、学生が授業のノートを共有するために電子ブックのようなシステムを利用しているケースがあります。あるいは中古製品のマニュアルをデジタル化して共有したりする「スクリブド」ビジネスが成立しています。このような応用が日本でも広がるかもしれません。あと、情報商材と呼んでいますが、株取り引きの指南書、競馬の必勝法など付加価値が高いとされている情報があります。これなどは書籍形式になったものが1冊数万円という値段がついていたりしますが、価格が高いうえに情報そのものの価値に比重を置いた商品という位置づけなので、デジタル化によるビジネスの余地があると思います。シンクタンクなどの調査資料、白書などもこれに近いビジネスが成立しそうです。それ以外にも、すでにコミックやケータイ小説などもデジタル化が進んでいますよね。ポイントは、出版社はデジタル化によって、自社のコンテンツをPUSH型のサービスとして展開しやすくなるということでしょう。

——最後に、富士山マガジンサービスの目指す電子ブックサービスとはどんなものなのかお聞かせいただけますか。

赤羽:我々が雑誌をデジタル化する目的は、従来の雑誌そのものの販売と広告収入に加えて、電子ブックの販売を出版社にとって第3の収益の柱にしてもらえるようにすることです。そのためには、電子ブックはさまざまなデバイスに対応させる必要があると思います。次に、現在の出版事業は、本や雑誌を創るだけでなく、顧客にサービスを提供するようになっていくと思われます。具体的には、電子ブック連動のコマース事業を展開したり、電子ブックで生成したデータでデータベースビジネスやアプリサービスの展開が見込まれており、我々はそれをサポートします。3つめは、海外市場への進出の支援です。人口が減り続ける日本市場において国内市場だけでビジネスを考えるのではなく、目を海外市場に向ける必要があります。このとき、コンテンツがデジタル化されていれば、翻訳も含めて海外展開がしやすくなると思います。
《RBB TODAY》

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