【「エンジニア生活」新連載・技術人 Vol.1】研究成果を製品に活かすということ——OKIネットワークシステムカンパニー・加藤圭氏 | RBB TODAY

【「エンジニア生活」新連載・技術人 Vol.1】研究成果を製品に活かすということ——OKIネットワークシステムカンパニー・加藤圭氏

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ネットワークシステムカンパニー ネットワークシステム本部 サービスプラットフォームマーケティング部 ネットワークゲートウェイマーケティングチーム課長 加藤圭氏
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 「新しいモノ好きなのかもしれないですね」。OKIでNGN(次世代通信網、Next Generation Network)事業に関わる加藤圭氏は、自分のことを冗談めかしてそう評した。最先端技術を学びながら、より広い視野で活動する加藤氏は、研究者兼エンジニアといったポジションにいる。
 
 通信業界では“100年に1度の大変革”と言われるNGN事業。固定電話やインターネット、放送網など、これまで別々に構築されていたネットワークを、IP技術ベースのネットワークに統合していくという国家レベルの大事業だ。通信業界の大手であるOKIも2006年10月、NGN事業に1,200人規模の人員を投入。エンジニアを含めた開発体制を大幅に強化している。加藤氏もそんなエンジニアの1人だ。
 
 しかし、加藤氏の仕事はいわゆる“エンジニア”のイメージとは少し違ったものだ。「ネットワークシステムカンパニー ネットワークシステム本部 サービスプラットフォームマーケティング部 ネットワークゲートウェイマーケティングチーム課長」という非常に長い彼の肩書きを見て、少し驚いた。エンジニアがマーケティングチームの課長を務める。どういうことなのだろうか。
 
 「私の仕事は、いわゆる“メガキャリア”と呼ばれるような事業者が顧客です。IMS(IPマルチメディアサブシステム)のコンポーネントを、企画から開発まで持っていく仕事なんです」。
 
 実際にシステムなどを開発するのは別の部隊の仕事になる。営業をしつつ、新しい技術を研究し、それを顧客のニーズに合わせて製品企画にして、開発チームやSEとすりあわせながら製品を作るという、いわゆる“エンジニア”という言葉のイメージとは違った業務だ。加藤氏自身も「エンジニアとしては珍しいポジションだと思います」と語る。
 
 開発には直接タッチしないエンジニア。なぜ加藤氏はそうした道を選び、何を見ているのだろうか。

■鳥瞰図が見えないことへの危機感
 
 加藤氏の学生時代の研究分野は、当時ブームになっていた「超伝導」。「(研究分野として超伝導は)面白いのですが、そういう細かいところを見ていると、鳥瞰図が見えなくなるという危機感を感じるようになって。それで、通信のようなものとものとをつなげていくような、結果的に広い世界が見える分野にあこがれるようになったんです」。
 
 そんな経緯があり、1992年にOKIへ入社。入社してから5年ほどはPBX(構内交換機)のソフトウェア開発を担当したのだが、仕事を続ける中で、「より広い世界を見たい」という思いが再び加藤氏の中にわき上がる。このときに興味を持ったのも、当時かなり先を行っている分野であるアクティブネットワークだった。
 
 「(アクティブネットワーク以前に)プログラムが自律的に動いていくモバイルエージェントという技術があったのです。それを既存のパケットの中に埋め込んで、それが各ノードごとにプログラムを実行することでネットワークをカスタマイズしていくというのがアクティブネットワークという技術でした。モバイルエージェントをさらにアジャイル化していくものですね」。
 
 加藤氏は同分野での留学の希望を提出。根気よく志願し続け、入社5年目で海外留学が決定。ペンシルバニア大学に2年間留学し、論文などを書く研究生活を送った。

■転機は研究所回りの日々
 
 2年間の留学で最先端技術を学んだ経験から、帰国後加藤氏は事業部の中のR&D(企業において研究と開発を行う)部門に配属される。そこで自分の研究の成果を製品に活かすために、さまざまなキャリアの研究所回りを始めた。これが現在の加藤氏の基礎ともいえる仕事だった。
 
 「研究所で自分のやっている研究を提案しながら、ソフトウェアプラットフォームを作ったんです。それで、そのプラットフォームを使って何ができるかを提案して、いくつかの案件で納入するところまで持っていけた。ただ研究するだけではなく、その研究を活かす方法を考えていくという、現在の仕事の基礎がこの時期にできたんです。まだ若い時期に、そういった試行錯誤をすることができたのはよかったですね」。
 
 もちろん納入まで持っていくのは簡単なことではなかった。実際に自分で製品企画の提案をしてみると「どうしてそんなものが必要なの?」と言われるケースが大半だったという。挫折しかかったこともあった。しかし、何度も研究所へ通って話をする中で信頼関係が生まれ、最後には納得してもらうことができた。自身も「それまでは実際にお客さんに会う機会なんてなかったんです。研究所を回って話をすることで、顧客のニーズというのが見えるようになりました」と、この頃の経験の大きさを振り返る。
 
 これを契機にして、加藤氏の仕事は研究と製品企画の橋渡しといったものになっていく。4年ほど研究所回りを続けたあと、提案力を買われてSEとして顧客に企画提案をする部署へ。そして現在のNGN事業の仕事に関わることになる。

■研究と製品をつなぐのはコミュニケーション

 現在加藤氏が手がけているのは「セッションボーダーコントローラー(SBC)」と呼ばれる装置。IPv4とIPv6など、異なるIPネットワークを相互接続するための装置だ。業界で初めてNGNに対応したSBC「CenterStage NX3200」も加藤氏のチームが手がけたものだ。
 
 最新の研究を吸収しながら、企画、開発を行う加藤氏の仕事内容は研究者的でもあり、プランナー的でもあり、営業的な要素もあると、多岐にわたっている。「NGNというのはR&Dの要素が強いですから、電子情報通信学会などでも話題になります。ですので、私は今学会にも顔を出しています。情報を取り入れながら新しいことを考えていかないと、競合と差別化できませんから」。出席するのは学会だけではない。3GPPや3GPP2といった標準化会合にも参加しているため、月に1回程度は海外出張がある。顧客のところへ出向くことも多いため、自分のデスクにいることは週に1回程度しかないという。
 
 そうした社外での出会いやつながりも大きい。「研究会などへ行くと研究者という人たちが集まるので、社内の人に会うことも多いです。むしろ社内で会うよりも多いかもしれません(笑)。当然お客さんに会うこともあります。そういう意味でも研究会は大事ですね」。
 
 そうしてできたコネクションは、実際の仕事上でも重要になる。SBCのように、さまざまなコーデックを必要としたり、異なるIP間をつなぐ文字どおり「ボーダー」上の技術は、多くの分野の研究者や技術者の協力が必要になる。どの分野なら誰に聞くべきかといった人的情報網を持っていることが大事な財産になるのだ。また、研究者同士の話の中で、新しいことを研究しなければいけないということに気づくこともあるという。同分野、異分野の研究者の話が仕事を広げたり、進めたりするきっかけになっているのだ。また、「行動が多岐にわたるので、社内でも自己のチームだけでなく、関連部門をマーケッタとして統括する。そこにも楽しさが出てきました。」という。
 
 さまざまな顔を持つ加藤氏が仕事の上で、必要なものとしてあげたのはコミュニケーション能力や言語能力だ。「日本だけでなく、海外のベンダーとアライアンスを組むことも多いです。そういう意味でやはり英語は必須なのですが、流暢でなければならないということではありません。最低限自分が何をしたいのか、どうしたいのかをきちんと伝えられればいいんです」。
 
 これは英語に限った話ではない。留学時代に加藤氏が痛感したのは、自分から売り込んでいくことの重要さだったという。「留学先の研究室では『自分の好きなことをやってくれ』という形である程度放り出されたんです。進捗の確認などはあるにしろ、あとは自分でやらなくてはいけない。そういうときに、いろいろな人と話をしてみないと何も進められないし、話すことで自分の考えがまとまることもあります。コミュニケーションがうまいかどうかということよりも、積極的にコミュニケーションをとろうという姿勢が大事なんです。それが帰国してからも活きていると思います」。
 
 営業的な分野でも同様だ。顧客や開発スタッフなどに企画を伝えるときも「何がしたいのかをはっきりと伝えること。それとある種の情熱ですね。それがないと自分のしたいことをきちんと相手に伝えられません」と加藤氏は語る。
 
 比較的自分の研究分野に没頭するイメージの強い研究者やエンジニアという職種だが、コミュニケーションも研究開発には重要な能力なのだ。

■NGN、そしてユビキタスを作っていく喜び

 NGN、そしてそれによって実現されるというユビキタス社会という言葉はよく耳にするが、その技術が実現するものというのは大きすぎてピンとこないところがある。加藤氏のイメージするNGN、そしてユビキタス社会とはどんなものなのだろうか。
 
 「アクティブネットワークをやっていた頃から『そういう社会があるといいな』と思っていた、ユーザーが持っているコンテクスト(環境)をどこでも使える社会が、いよいよ実現するところまで来ています。たとえば、携帯電話で動画を見ているときに、自宅やホテルの部屋に入る。そうすると、携帯電話の位置情報を関知して、見ていた動画が自動的にテレビで流れるようになるといった、ネットワークがユーザに適応してくれる社会ですね」。
 
 位置情報など、ユーザーのコンテクストをまとめて管理することで、状況に応じた環境を自動的に提供することができる。ネットワークでつながった社会は、そうした環境を作り出すこともできるのだ。
 
 「そうした社会を支えるのがNGNなんです。先ほど言ったSBCというのも、ユビキタス社会を支える装置です。ユーザーからは見えませんが、裏で新しい社会システムを支える。そういう形で自分が具現化したい、役に立つNGNを裏方で支えるものに関わっていられるというのはやりがいを感じますね」。

■NGNのさらに先
 
 超伝導、アクティブネットワーク、NGNと常に最先端の分野を歩いてきた加藤氏の視線は、今すでにNGNのさらに先にも向いている。総務省が中心となってナショナルプロジェクトのように進められている「新世代ネットワーク」と呼ばれる技術がそれだ。IPレベルで変革を起こそうとしている流れで、IPの課題をすべて解消して、新たなアーキテクチャを構築しようとしているという。現時点ではその大規模な変革に向けて、課題の洗い出しを行っている段階だという。
 
 エンジニアという職業は、1つの分野を深く掘り下げていくことが多い。そうして、特定分野の特定の技術のプロフェッショナルになるというのもエンジニアとしての1つの道だ。しかし、加藤氏が志向するのは、より広い視野での研究と技術の活用といえる。さまざまな分野や研究に興味を持ち、さらにその技術をどのようにして社会に落としていくかまでをデザインする。好奇心旺盛な新しいモノ好きの視野は、今後ますます裾野を広げていきそうだ。
《小林聖》

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