【「エンジニア生活」新連載・技術人 Vol.2】仮想化機構「Virtage」の性能向上を追求——日立製作所・早川典充氏
そんな早川氏は今、日立製作所のエンタープライズサーバ事業部開発本部第三部の技師として、サーバ仮想化機構「Virtage(バタージュ)」の開発を手がけている。かつては想像もしていなかった日立のエンジニアとしての自分の生活。しかし、話を聞く内に技術志向のエンジニアとしての早川氏の横顔が見えてきた。
■研究に触れて気づいた日立の魅力
「中学生くらいの頃は(将来)どうしようかと思っていたんですが、そのうちに数学の図形問題が好きになったんです」。早川氏は理系に進んだ経緯をそう語る。その後進んだ大学では、機械工学を専攻。2足歩行ロボットの知能系の研究を行った。早川氏はそこで改めて日立の魅力に気づいた。
「大学院に行っていろいろな研究を目の当たりにするようになって、(日立の)技術力の高さに感心したんです。技術志向が強くて、なんでも作ってしまおうという精神もある。それで、この会社に就職したいと思ったんです」。
そして2001年に日立製作所に入社。以来、早川氏はメインフレーム、通信デバイスの仮想化、ディスク装置、CPUの仮想化と仮想化関係の仕事に携わり続けてきた。
早川氏が現在担当するVirtageの大きな特徴は、“Intel Virtualization Technology(Intel VT)”に加え、同社独自のI/Oアシスト機能を搭載することで、ハードウェアによる仮想化を実現している点だ。近年関心を集めているサーバの仮想化技術の中でも、特に注目の機構の1つだ。
しかし、なぜ仮想化だったのだろうか?
■ソフトウェアにもハードウェアにも触れられる仮想化
「コンピュータの中のCPUという分野。その中のさらに小さい分野をやっています」と早川氏は自身の仕事を説明した。今でこそサーバの仮想化は脚光を浴びる分野となっているが、早川氏が入社した2001年当時はまだそれほど騒がれている技術ではなかった。「昔はサーバが高価でしたからね」と早川氏は語る。企業がサーバを大量に持っていたり、頻繁に仕様変更したりするほど手軽なものではなかったというわけだ。
早川氏はそんな時期にメインフレームの仮想化を担当することになった。ロボット工学のような“派手”な分野から、一見“地味”なメインフレームの仮想化という分野に進むことに不満はなかったのだろうか?そんな疑問に対し、早川氏は「サーバの仮想化は自分に合っていると思います」と答える。
「ロボット工学の中でも、私は知能系を研究していたんです。機械工学というと、どんどんハードウェアばかりによっていきがちなんですが、ロボットも仮想化も、ソフトウェアをやりながらハードウェアにも触れられる。そこが面白いですね」。
一口にサーバの仮想化といっても、関わり方は様々だ。その中で早川氏が担当するのは、Virtageの論理CPUの性能向上。論理CPU上でアプリケーションを実行する場合、物理的なリソース(CPUやメモリ、I/Oなど)を利用するために、論理的リソースと物理的リソースの間でさまざまな管理や制御が必要になる。これがオーバーヘッドになるため、物理マシンよりもアプリケーションの実行性能が低下してしまうというネックがある。ハードウェアで仮想化をしているVirtageは、ソフトウェアによる仮想化よりも性能低下は少ないが、原理としてオーバーヘッド自体がなくなるわけではない。このオーバーヘッドを下げるために、論理CPUと物理CPU間の管理・制御をより効率化するのが早川氏の仕事というわけだ。
仮想化の中でも扱うものや技術はさまざまだ。早川氏自身も現在携わるVirtageだけでなく、メインフレームやSuperH(SH。現在はルネサステクノロジに移管)を扱ってきた。扱うものが変われば使う技術も変わる。また、時代の流れとともにチャネルI/OからMMI/Oといったように、メインとなる技術の方式も変わる。担当分野が変わるたびに「新たに勉強することばかり」と苦笑しつつ、「その分、毎回新鮮です」と語る。
もちろん盛り上がっている分野で仕事をしたいという人もいるだろう。ブームになっている分野には人も集まるし、研究も盛んに行われる。予算的にも自由度が高くなるだろう。しかし、早川氏が選んだのは、製品自体ではなく、働き方で仕事を選ぶという方法だといえるだろう。
■オープン環境で変わった仕事のあり方
とはいえ、仕事のあり方も常に同じだったわけではない。メインフレームからオープン環境のVirtageになって、仕事の進め方も変化したという。
「基本的にオープンなので、ソフトウェアやハードウェアの仕様をVirtage側で吸収しなければいけません。メインフレームの場合、1ベンダーでソフトウェアからハードウェアまで全部こなしていたので、ベストな解決策を作ることができた。ですが、オープンでは、私たちにとってベストな解決策でも、ほかのベンダーにとってベストではないということもあります」。そのため、何か不具合が起こった際には、ベンダーと話し合ったり相談したりする必要が出てくるというわけだ。Intel VTを採用するVirtageの場合、インテルとの話し合いを頻繁に重ねるなど密な関係を築いているという。
もちろんこうした話し合いはインテルにとっても重要だろう。日立はIPF(Itanium Processor Family)でのWindows、Linux仮想化基盤を世界で最初に開発したメーカーだ。そういう意味でインテルにとっても貴重な情報源といえる。「私は今までIPFをメインでやってきましたが、インテルとの協調も重要です。今後のVT-iの方向性などについても意見交換を行っています」。オープン化は、そうした他社ベンダーとの関係も変えてきたといえるだろう。
そんな早川氏の現在の目標は、物理サーバと仮想化サーバの間にある境界線をなくすことだという。Virtageを搭載する同社のブレードサーバ「BladeSymphony」は、仮想化環境以外に、物理サーバとして動作するBASICモードが利用できる。しかし、Virtageが入ることで、物理サーバとしての性能や信頼性が低下したのでは元も子もない。Virtageの性能と信頼性の向上は、仮想サーバと物理サーバの境界線をなくすための大前提といえる。
■技術は変わっても時代は回っている
仮想化という分野は、世界規模の技術やトレンドの中で、めまぐるしく変化を続けている。しかし、その最前線で働く早川氏が感じている仮想化の魅力は、やはり技術的な面白さだ。
「仮想化という技術は面白いところがあって、物理サーバで起こった問題を調査したいときに、調査ツールにもなるんです。物理サーバの場合は、信号制御を見なければいけませんが、仮想化はソフトウェアですから、調査するための行動を埋め込むことができるわけです。中で何が起こっているかを見ることができる。そんなふうに、仮想化は時には物理サーバ以上の能力を発揮する場合もあります。これが今後どうなっていくかを見ていられるというのは、技術屋としてはやはり魅力ですね」。
また、早川氏は技術が変わる一方で、本質はそれほど変わっていないのではないかという。
「昔は集中管理だったサーバが、(安くなったために数が増えて)分散管理になり、今度は数が増えすぎて管理できないためにまた集中管理へ向かっている。仮想化というのはその手段です。また、仮想化自体もメインフレームで存在したものが、形を変えて今度はオープン環境にやってきたもの。時代は回るというか、技術が変わって進化しながらも、(ムーブメントは)繰り返されているのではないでしょうか」。
サーバのちょっとした仕様変更や交換を容易にする仮想化技術は「サーバとしてあるべき機能。必ず今後定着していくと思います」とも早川氏は指摘する。
「エンジニアにとって大事なものは何か」という質問に早川氏は「問題に最後まで取り組む粘り強さ」と答えた。ブームとはまるで関係ないように仮想化に取り組む早川氏の姿は、まさに粘り強い技術志向のエンジニアに見えた。
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