【「エンジニア生活」新連載・技術人 Vol.2】仮想化機構「Virtage」の性能向上を追求——日立製作所・早川典充氏

2008年4月10日(木) 04時41分
日立製作所エンタープライズサーバ事業部開発本部第三部技師・早川典充氏の画像
日立製作所エンタープライズサーバ事業部開発本部第三部技師・早川典充氏
エンタープライズサーバ事業部開発本部第三部技師・早川典充氏の画像
エンタープライズサーバ事業部開発本部第三部技師・早川典充氏
エンタープライズサーバ事業部開発本部第三部技師・早川典充氏の画像
エンタープライズサーバ事業部開発本部第三部技師・早川典充氏
エンタープライズサーバ事業部開発本部第三部技師・早川典充氏の画像
エンタープライズサーバ事業部開発本部第三部技師・早川典充氏
 実家は茨城県日立市で、祖父も父も日立製作所のエンジニアと、まさに日立のお膝元で育ったといえる早川典充氏。しかし、実は「子どもの頃は日立に入るつもりはなかったです」と笑って振り返る。掃除機のエンジニアをしていた父は、海外出張も多く、子供心に「忙しそうな職業」と感じていたという。

 そんな早川氏は今、日立製作所のエンタープライズサーバ事業部開発本部第三部の技師として、サーバ仮想化機構「Virtage(バタージュ)」の開発を手がけている。かつては想像もしていなかった日立のエンジニアとしての自分の生活。しかし、話を聞く内に技術志向のエンジニアとしての早川氏の横顔が見えてきた。

■研究に触れて気づいた日立の魅力

 「中学生くらいの頃は(将来)どうしようかと思っていたんですが、そのうちに数学の図形問題が好きになったんです」。早川氏は理系に進んだ経緯をそう語る。その後進んだ大学では、機械工学を専攻。2足歩行ロボットの知能系の研究を行った。早川氏はそこで改めて日立の魅力に気づいた。

 「大学院に行っていろいろな研究を目の当たりにするようになって、(日立の)技術力の高さに感心したんです。技術志向が強くて、なんでも作ってしまおうという精神もある。それで、この会社に就職したいと思ったんです」。

 そして2001年に日立製作所に入社。以来、早川氏はメインフレーム、通信デバイスの仮想化、ディスク装置、CPUの仮想化と仮想化関係の仕事に携わり続けてきた。

 早川氏が現在担当するVirtageの大きな特徴は、“Intel Virtualization Technology(Intel VT)”に加え、同社独自のI/Oアシスト機能を搭載することで、ハードウェアによる仮想化を実現している点だ。近年関心を集めているサーバの仮想化技術の中でも、特に注目の機構の1つだ。

 しかし、なぜ仮想化だったのだろうか?

■ソフトウェアにもハードウェアにも触れられる仮想化

 「コンピュータの中のCPUという分野。その中のさらに小さい分野をやっています」と早川氏は自身の仕事を説明した。今でこそサーバの仮想化は脚光を浴びる分野となっているが、早川氏が入社した2001年当時はまだそれほど騒がれている技術ではなかった。「昔はサーバが高価でしたからね」と早川氏は語る。企業がサーバを大量に持っていたり、頻繁に仕様変更したりするほど手軽なものではなかったというわけだ。

 早川氏はそんな時期にメインフレームの仮想化を担当することになった。ロボット工学のような“派手”な分野から、一見“地味”なメインフレームの仮想化という分野に進むことに不満はなかったのだろうか?そんな疑問に対し、早川氏は「サーバの仮想化は自分に合っていると思います」と答える。

 「ロボット工学の中でも、私は知能系を研究していたんです。機械工学というと、どんどんハードウェアばかりによっていきがちなんですが、ロボットも仮想化も、ソフトウェアをやりながらハードウェアにも触れられる。そこが面白いですね」。

 一口にサーバの仮想化といっても、関わり方は様々だ。その中で早川氏が担当するのは、Virtageの論理CPUの性能向上。論理CPU上でアプリケーションを実行する場合、物理的なリソース(CPUやメモリ、I/Oなど)を利用するために、論理的リソースと物理的リソースの間でさまざまな管理や制御が必要になる。これがオーバーヘッドになるため、物理マシンよりもアプリケーションの実行性能が低下してしまうというネックがある。ハードウェアで仮想化をしているVirtageは、ソフトウェアによる仮想化よりも性能低下は少ないが、原理としてオーバーヘッド自体がなくなるわけではない。このオーバーヘッドを下げるために、論理CPUと物理CPU間の管理・制御をより効率化するのが早川氏の仕事というわけだ。

 仮想化の中でも扱うものや技術はさまざまだ。早川氏自身も現在携わるVirtageだけでなく、メインフレームやSuperH(SH。現在はルネサステクノロジに移管)を扱ってきた。扱うものが変われば使う技術も変わる。また、時代の流れとともにチャネルI/OからMMI/Oといったように、メインとなる技術の方式も変わる。担当分野が変わるたびに「新たに勉強することばかり」と苦笑しつつ、「その分、毎回新鮮です」と語る。

 もちろん盛り上がっている分野で仕事をしたいという人もいるだろう。ブームになっている分野には人も集まるし、研究も盛んに行われる。予算的にも自由度が高くなるだろう。しかし、早川氏が選んだのは、製品自体ではなく、働き方で仕事を選ぶという方法だといえるだろう。

■オープン環境で変わった仕事のあり方

 とはいえ、仕事のあり方も常に同じだったわけではない。メインフレームからオープン環境のVirtageになって、仕事の進め方も変化したという。

 「基本的にオープンなので、ソフトウェアやハードウェアの仕様をVirtage側で吸収しなければいけません。メインフレームの場合、1ベンダーでソフトウェアからハードウェアまで全部こなしていたので、ベストな解決策を作ることができた。ですが、オープンでは、私たちにとってベストな解決策でも、ほかのベンダーにとってベストではないということもあります」。そのため、何か不具合が起こった際には、ベンダーと話し合ったり相談したりする必要が出てくるというわけだ。Intel VTを採用するVirtageの場合、インテルとの話し合いを頻繁に重ねるなど密な関係を築いているという。

 もちろんこうした話し合いはインテルにとっても重要だろう。日立はIPF(Itanium Processor Family)でのWindows、Linux仮想化基盤を世界で最初に開発したメーカーだ。そういう意味でインテルにとっても貴重な情報源といえる。「私は今までIPFをメインでやってきましたが、インテルとの協調も重要です。今後のVT-iの方向性などについても意見交換を行っています」。オープン化は、そうした他社ベンダーとの関係も変えてきたといえるだろう。

 そんな早川氏の現在の目標は、物理サーバと仮想化サーバの間にある境界線をなくすことだという。Virtageを搭載する同社のブレードサーバ「BladeSymphony」は、仮想化環境以外に、物理サーバとして動作するBASICモードが利用できる。しかし、Virtageが入ることで、物理サーバとしての性能や信頼性が低下したのでは元も子もない。Virtageの性能と信頼性の向上は、仮想サーバと物理サーバの境界線をなくすための大前提といえる。

■技術は変わっても時代は回っている

 仮想化という分野は、世界規模の技術やトレンドの中で、めまぐるしく変化を続けている。しかし、その最前線で働く早川氏が感じている仮想化の魅力は、やはり技術的な面白さだ。

 「仮想化という技術は面白いところがあって、物理サーバで起こった問題を調査したいときに、調査ツールにもなるんです。物理サーバの場合は、信号制御を見なければいけませんが、仮想化はソフトウェアですから、調査するための行動を埋め込むことができるわけです。中で何が起こっているかを見ることができる。そんなふうに、仮想化は時には物理サーバ以上の能力を発揮する場合もあります。これが今後どうなっていくかを見ていられるというのは、技術屋としてはやはり魅力ですね」。

 また、早川氏は技術が変わる一方で、本質はそれほど変わっていないのではないかという。

 「昔は集中管理だったサーバが、(安くなったために数が増えて)分散管理になり、今度は数が増えすぎて管理できないためにまた集中管理へ向かっている。仮想化というのはその手段です。また、仮想化自体もメインフレームで存在したものが、形を変えて今度はオープン環境にやってきたもの。時代は回るというか、技術が変わって進化しながらも、(ムーブメントは)繰り返されているのではないでしょうか」。

 サーバのちょっとした仕様変更や交換を容易にする仮想化技術は「サーバとしてあるべき機能。必ず今後定着していくと思います」とも早川氏は指摘する。

 「エンジニアにとって大事なものは何か」という質問に早川氏は「問題に最後まで取り組む粘り強さ」と答えた。ブームとはまるで関係ないように仮想化に取り組む早川氏の姿は、まさに粘り強い技術志向のエンジニアに見えた。
《RBB TODAY》
注目の情報[PR]

注目ニュース

日立、金融機関を中心に「大量高速データ処理ソリューション」の提供を開始

 日立製作所は9日、10日から銀行や証券といった金融機関を中心に「大量高速データ処理ソリューション」の提供を開始すると発表した。

GPSケータイでドライブ版スタンプラリーを楽しもう!〜日立イッテミア×MSN自動車コラボ

 日立製作所が運営する「Ittemia(イッテミア)」では7日より、MSN自動車GWドライブ特集と連動し、さらにLive Search 地図検索とマッシュアップした3者コラボレーション企画「クルマで遊...

テレビ向け映像配信サービス「ひかりTV」、日立のDRMシステム「Videonet.CAS/DRM」を採用

 日立製作所は31日、同社のIPTV向けデジタルコンテンツ著作権保護システム「Videonet.CAS/DRM」がNTTぷららが同日サービスを開始するテレビ向け映像配信サービス「ひかりTV」に採用され...

無線LAN位置検知システム「日立AirLocation II」がアイコム製品に対応〜廉価な新モデルを追加

 日立製作所および日立電子サービスは4月1日より、アイコム製の無線LANアクセスポイントに対応した、無線LAN位置検知システム「日立 AirLocationII AP-50Wシステム」を発売する。

日立、“グリーンIT”を駆使した新データセンターを横浜に建設〜グループ総力を結集

 日立製作所は26日、横浜のデータセンターを拡張し3棟目のデータセンターを建設することを発表した。地上7階、高さ31m、敷地面積5,829平方メートル、延床面積10,782平方メートルと、日立グループ...

IBS Japanと日立、スマートフォン向けIPSecクライアント「DOVPN 2.1」4/1販売開始

 IBS Japan、日立製作所、および日立ビジネスソリューションの3社は25日に、スマートフォン向けIPSecクライアントソフト「DOVPN」の販売・サポートで提携したことを発表した。

日立、多様なテロップを読み取り文字データ変換できる次世代映像検索基礎技術を開発

 日立製作所は17日、映像のテロップの文字を90%以上の精度で読み取れる技術を発表した。

日立、統合システム運用管理「JP1」強化版を発売!データセンターの温度監視などグリーンIT対応

日立製作所は、グリーンITの推進を求める市場ニーズに対応した統合システム運用管理「JP1」機能強化版(V8.5)の販売を開始した。

日立の32V型ハイビジョン液晶テレビに映像が表示されない不具合

 日立製作所は、2007年4月に発売した32V型ハイビジョン液晶テレビの一部で、電源を入れたときにまれに映像が出ない場合があることが判明したと発表。対象品は無償で点検・処置する。発煙・発火などの心配は...

日立と米IBM、32nm以降の半導体の特性評価に関する基礎研究を共同で実施

 日立製作所と米IBMは10日、32ナノメートル以降の半導体の特性評価に関する基礎研究を2年間にわたって共同で行うことで合意した。

au、電子ペーパーフェイスのW61Hとアクセサリー風のW61PTを6日から順次発売

 KDDIと沖縄セルラー電話は6日、日立製作所製携帯電話「W61H」とパンテック&キュリテル製携帯電話「W61PT」を同日より順次発売する。

日立、「Hitachi Content Archive Platform」のシステム管理・セキュリティ機能を強化

 日立製作所は5日に、ストレージアプライアンス「Hitachi Content Archive Platform」において、システム管理およびセキュリティに関する機能を強化したことを発表した。新モデル...

日立、UQコミュニケーションズから商用WiMAXゲートウェイと統合運用管理システムを受注

 日立製作所は3日、UQコミュニケーションズが2009年度中に商用サービスを開始する予定のモバイルWiMAX用ゲートウェイと統合運用管理システムを受注した。

WiMAX企画会社が本格稼動——社名は「UQコミュニケーションズ」年内に基地局1000局

 ワイヤレスブロードバンド企画株式会社は3月1日に社名を「UQコミュニケーションズ株式会社」に変更した。

温度調節が不要な半導体レーザー——25ギガビット/秒(1波長)で次世代高速光通信に寄与

 日立製作所とOpnext, Inc.(オプネクスト)は29日、次世代高速光通信規格である100ギガビットイーサネット(10km伝送)を実現する技術として、 0〜85で動作可能な、温度調節が不要な新し...

凸版印刷と日立、ホログラムと非接触ICチップを一体化したラベル「ICホログラム」を製品化

 凸版印刷、日立製作所、日立化成工業の3社は28日、ホログラムと非接触ICチップを一体化したラベル「ICホログラム」(特許出願中)を世界で初めて、共同で開発したことを発表した。凸版印刷が製品化し、20...

日立や富士通など5社、運用ポリシーなどが異なる複数サイト連携の新技術を開発

 日立や富士通など5社は、独立行政法人 情報通信研究機構からの委託を受け、異なる複数サイトのWebサービスを連携させるためのシステムを効率的に設計・開発する技術群と、連携したWebサービスを安定的に稼...

シャープとソニー、液晶パネル調達報道を否定

 シャープとソニーは26日、「ソニーがシャープ製液晶パネルを調達する」という一連の報道について、「当社が発表したものではない」と揃って否定した。

日立、全52モデルをそろえたエンタープライズサーバ「AP8800」とOS「VOS3/US」

 日立製作所は20日、メインフレーム製品の後継機として、エンタープライズサーバ「AP8800」、およびオペレーティングシステム「VOS3/US」を発表した。月額価格は542万3,250円から、300万...

パスワード入力を指静脈認証に代替——日立と日本CA「セキュアシングルサインオンシステム」

 日立製作所と日本CAは、企業内におけるさまざまな情報システムを利用する際に必要なパスワード入力を指静脈認証に代替できる「セキュアシングルサインオンシステム」を共同で開発し、18日より提供を開始した。

日立、脈拍や動きなどを24時間連続で測定・記録できるリストバンド型無線センサネット

 日立製作所は14日、人の動きや脈拍、温度を24時間連続して測定・記録し、指定したパソコンに測定データを無線で送信できる、小型・軽量リストバンド型無線センサネットシステム「日立AirSenseエントリ...

日立とリコーら、無線ICタグによる著作物の複写利用管理システムの実証実験に成功

 日立製作所、日立システム九州、リコー、ゼンリンの4社は、共同開発した無線ICタグの活用による「著作物の複写利用管理システム」の実用化に向けた実証実験を実施し、有効性を確認したと発表した。

日立と松下、液晶事業の包括的提携の正式契約を締結

 日立製作所と松下電器産業は15日、昨年12月25日に日立、キヤノン、松下の3社が基本合意した液晶ディスプレイ事業における包括的な提携について、日立および松下の2社で正式契約を締結したと発表。

コグニティブ無線端末機など、移動通信に関する最先端技術を実証実験で公開〜横須賀リサーチパーク

 横須賀リサーチパーク(YRP)では、「移動通信における電波資源拡大のための研究開発」と題したシンポジウムと実証実験を2月18〜19日に開催する。

あると便利! 汎用タイプのノートPC用ACアダプタ

 バッファローコクヨサプライは5日、付属の交換チップを交換することでおもなメーカー製のノートPCに対応するACアダプタ「AGP75M」を発表。2月中旬に発売する。価格は9,300円。

RSS

特集・連載

ブロードバンド/無線LANスポット検索

ブロードバンド検索
-

ピックアップフォト