■計算方法を知らずに、Shiller PERの数字だけを見ていませんか
米国株のバリュエーションを調べると、通常PERだけでなく、Shiller PER、CAPEレシオ、PE10といった複数の指標が表示されます。
Shiller PERが40倍を超えている。
長期平均の2倍以上になっている。
ITバブル期の最高水準へ近づいている。
こうした情報を見れば、現在の米国株が歴史的に高く評価されていることは分かります。
しかし、計算方法を理解しないまま数字だけを見ると、「高いからすぐ売る」「平均まで下がるまで買わない」という単純な判断に陥る可能性があります。
なぜ直近1年ではなく、過去10年間の利益を使うのか。
なぜ過去の利益をインフレ調整するのか。
株価が下落しなくても、Shiller PERが低下することはあるのか。
通常PERと数値が異なる場合、どちらを重視すべきなのか。
Phoenix Connectは、こうした疑問を解消し、Shiller PERを単なる話題の数字ではなく、実際の投資判断とリスク管理へ活用するための長期チャートを公開しました。
■Shiller PERの基本的な計算式
Shiller PERは、現在の株価指数を、過去10年間のインフレ調整後利益の平均で割って算出します。
基本的な考え方は、次の計算式で表せます。
Shiller PER = 現在の株価指数 ÷ 過去10年間の実質利益平均
ここでいう実質利益とは、過去の利益を現在の物価水準へ調整した利益です。
CAPEは「Cyclically Adjusted Price Earnings Ratio」の略称で、日本語では景気循環調整後PERなどと表現されます。
Shiller PER、CAPEレシオ、CAPE Ratio、Shiller PE、PE10は、基本的に同じ長期バリュエーション指標を指します。
通常PERが直近または今後1年間の利益を基準にするのに対し、Shiller PERは10年間の実質利益を平均化します。
この違いによって、短期的な景気変動に左右されにくい市場評価を確認できます。
■なぜ過去10年間の利益を平均するのか
企業利益は、景気循環の影響を強く受けます。
景気拡大期には消費や設備投資が増加し、企業利益も大きく伸びる傾向があります。
分母となる利益が増えれば、株価が高値圏にあっても通常PERは低く見えます。
この状態で通常PERだけを見れば、「企業利益に対してまだ割安だ」と判断する可能性があります。
しかし、その利益が景気循環上のピークに近く、今後減少するのであれば、低く見えたPERは一時的な数字だったことになります。
反対に、景気後退や金融危機では企業利益が急減します。
株価が30%下落しても、利益が50%減少すれば、通常PERは下落前より高くなる場合があります。
株価が長期的には魅力的な水準へ近づいていても、直近利益の急減によって割高に見えてしまうのです。
Shiller PERは過去10年間の利益を平均化することで、一時的な利益急増や急減の影響を抑えます。
景気拡大と景気後退をまたいだ収益力に対して、現在の株価がどこまで評価されているかを確認することが目的です。
■インフレ調整が必要になる理由
Shiller PERでは、過去10年間の利益を単純に平均するのではなく、物価変動を調整します。
10年前の1ドルと現在の1ドルでは、同じ購買力を持っているとは限らないためです。
インフレによって物価が上昇すると、企業の売上や利益も名目上は増加しやすくなります。
過去の利益を当時の金額のまま現在の利益と比較すれば、古い利益が必要以上に小さく見える可能性があります。
そこで、消費者物価指数などを用いて、過去の利益を現在の物価水準へ換算します。
各時点の利益を実質化したうえで10年間の平均を求め、その平均利益で現在の株価指数を割るのがShiller PERの基本的な仕組みです。
特に1871年から現在までのような長期間を比較する場合、物価水準は大きく変化しています。
インフレ調整を行うことで、異なる時代の企業利益と市場評価を、より比較しやすくなります。
■Shiller PERの計算手順
Shiller PERは、概念的には次の手順で算出します。
最初に、S&P500の現在の株価指数を取得します。
次に、S&P500を構成する企業の過去10年間の利益データを用意します。
各時点の利益を物価指数によってインフレ調整し、現在の物価水準に換算します。
実質化した10年間の利益を平均し、現在の株価指数をその平均利益で割ります。
仮に、現在の株価指数が4,000で、過去10年間のインフレ調整後利益平均が200だった場合、計算は次のようになります。
4,000 ÷ 200 = 20
この場合のShiller PERは20倍です。
これは、現在の株価指数が、過去10年間の実質利益平均の20倍まで評価されていることを示します。
ただし、「利益20年分を回収する」という単純な意味ではありません。
今後の企業利益、配当、金利、インフレ、成長率などは変化するためです。
Shiller PERは回収年数を断定する数字ではなく、長期的な利益に対する現在の評価倍率を表す指標です。
■現在のShiller PER40.64は何を意味するのか
Phoenix Connectが公開した長期チャートでは、2026年7月20日時点のShiller PERは40.64です。
1871年以降の全期間平均は17.41となっています。
過去最高値は1999年12月に記録した44.19、過去最低値は1920年12月の4.78です。
現在値40.64は、長期平均17.41の約2.3倍です。
また、ITバブル期の過去最高値44.19にも接近しています。
これは、現在のS&P500が過去10年間の実質利益平均に対して、歴史的に極めて高い価格まで評価されていることを示します。
現在の株価には、AIによる生産性向上、企業利益の継続的な成長、半導体需要の拡大、景気の安定など、多くの好条件が織り込まれている可能性があります。
これらの期待が実現すれば、高い評価倍率が一定期間維持されることもあります。
一方で、利益成長が市場予想へ届かなかった場合には、企業利益の見通し低下と評価倍率の縮小が同時に起こる可能性があります。
現在値40.64は、明日の下落を示す数字ではありません。
強い成長期待が織り込まれ、期待が崩れた際の価格調整リスクが大きくなっている可能性を示す数字です。
■株価が暴落しなくてもShiller PERは低下する
Shiller PERが長期平均を大幅に上回っていると、「いずれ株価が暴落して平均へ戻る」と考えやすくなります。
しかし、Shiller PERが低下する方法は株価下落だけではありません。
一つ目は、株価が下落するケースです。
分母となる利益がほぼ変わらず、分子となる株価が下落すれば、Shiller PERは低下します。
二つ目は、株価が横ばいのまま企業利益が成長するケースです。
過去10年間の実質利益平均が増えれば、株価が下落しなくてもShiller PERは低下します。
三つ目は、株価も上昇しているものの、企業利益がそれ以上の速度で成長するケースです。
この場合も、分母の成長が分子の上昇を上回るため、Shiller PERは低下する可能性があります。
反対に、株価が横ばいでも、過去10年間の平均利益が悪化すればShiller PERは上昇します。
Shiller PERの変化を見るときは、株価だけでなく、分母となる長期利益がどのように変化しているかを理解する必要があります。
■通常PERとShiller PERはどちらが正しいのか
通常PERとShiller PERは、どちらか一方だけが正しい指標ではありません。
見ている時間軸と目的が異なります。
通常PERは、直近利益または今後の予想利益に対して、現在の株価が何倍まで評価されているかを示します。
企業の足元の業績や、今後1年間程度の利益予想を確認する場合に役立ちます。
Shiller PERは、過去10年間の実質利益平均を使います。
短期的な景気変動をならし、市場全体の長期的な評価水準を確認する場合に適しています。
通常PERが低く、Shiller PERが高い場合は、直近の企業利益が景気循環上の高水準にある可能性があります。
通常PERが高く、Shiller PERが低下している場合は、景気後退によって直近利益が急減している一方、長期的な価格評価は改善している可能性があります。
通常PERで足元の業績評価を確認し、Shiller PERで長期的な割高感を確認する。
両方を組み合わせることで、一つの指標だけでは見えない市場環境を把握できます。
■計算方法を理解すると誤った空売りを避けられる
Shiller PERが40倍を超えているという理由だけで、S&P500を空売りすることは危険です。
Shiller PERは長期的なバリュエーションを示しますが、短期的な価格トレンドを予測する指標ではありません。
企業利益が成長し、資金流入が続き、価格が高値を更新している間は、高いShiller PERが維持されたまま株価が上昇する可能性があります。
また、Shiller PERに絶対的な上限はありません。
現在値40.64から、過去最高値44.19を超えて上昇する可能性もあります。
空売りを検討する場合は、Shiller PERだけでなく、高値更新の失敗、直近安値の割り込み、重要な支持線割れ、VIX上昇など、価格が実際に弱気へ変化した証拠を確認する必要があります。
Shiller PERは売りの直接的なエントリーシグナルではありません。
下落トレンドが発生したとき、その背景に長期的な割高感があるかを確認するための環境認識として使うことが重要です。
■高いShiller PERを投資量へ反映する
Shiller PERの計算結果は、売買方向よりも、ポジションサイズを調整する際に活用できます。
長期平均付近の市場と、平均の2倍を超えている市場では、同じ買いポジションでも潜在的なリスクが異なります。
現在のような高バリュエーション局面では、新規投資を一度に行わず、複数回へ分ける方法があります。
すでに大きな含み益がある場合は、保有数量の一部を利益確定し、残りへトレーリングストップを設定することもできます。
長期積立では、投資を完全に停止するのではなく、積立額を抑えて待機資金を増やす方法があります。
CFDや信用取引では、通常よりロットを落とし、損切りまでの値幅から許容損失額を逆算します。
Shiller PER40.64が示す歴史的な割高感を、恐怖や予言へ変えるのではありません。
投資量、買い余力、利益確定、レバレッジの調整へ変えることが重要です。
■複雑なデータ収集をせずに長期推移を確認
Shiller PERを厳密に算出するには、S&P500の株価指数、長期の企業利益、物価指数などのデータが必要です。
さらに、各データの時点や計算基準を統一し、定期的に更新しなければなりません。
投資家が毎回すべてのデータを収集し、手作業で計算することは容易ではありません。
Phoenix ConnectのShiller PER・CAPEレシオ長期チャートでは、1871年2月から現在までの推移を確認できます。
現在値、前回比、全期間平均、過去最高値、過去最低値、高低差を掲載しています。
全期間、100年、50年、25年、10年、5年、1年の期間切り替えに対応し、日付と数値による履歴検索も可能です。
計算式を理解したうえで長期推移を確認することで、単に数字が高いか低いかではなく、株価と長期利益の関係がどのように変化しているかを読み取りやすくなります。
【Shiller PER・CAPEレシオ長期チャート】
https://www.phoenixconnect.jp/shiller_per
※本記事は情報提供を目的としており、特定の投資行動を推奨するものではありません。最終的な投資判断はご自身の責任で行ってください。

配信元企業:株式会社PhoenixConnect
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