カン・ハヌルとチョン・ソミンの阿吽の呼吸に爆笑！韓国映画『ラブリセット　30日後、離婚します』

　スパイ夫婦が険悪な仲になり互いの命を狙うようになる米国ドラマ『Mr.＆Mrs.スミス』』然り、結婚前にタイムスリップした恐妻家の男性による新たな選択を描いた韓国ドラマ『知ってるワイフ』然り、夫婦の愛憎を描いた作品は漏れなく面白い。3月29日より公開される『ラブリセット　30日後、離婚します』（以下、ラブリセット）もその一つだ。

　本作に登場するのは、地方出身で知的なイケメン弁護士だがどんくさいジョンヨルと、名家出身でやり手な映画プロデューサーだが破天荒なナラ。2人は映画のような大恋愛を経て結婚するも、価値観の違いに耐え切れなくなり、裁判所の調停で熟慮期間を経た30日後に離婚することに。帰り道に仕方なしに同じ車で移動する最中、調停の続きと言わんばかりに口喧嘩をヒートアップさせていく2人。しかし突如交通事故に遭い、同時に記憶喪失になってしまう。家族や友人の存在、そして夫婦で紡いだ愛憎の軌跡を忘れた彼らは、記憶を取り戻すため一緒に過ごすことに。そんな2人の感情は、“リセット”されたことによって変化が生まれていくー。

『ラブリセット　30日後、離婚します』2024年3月29日（金）丸の内ピカデリーほか全国公開／提供：楽天／配給：松竹／映倫区分：G
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　ジョンヨルを演じたのは、ドラマ『椿の花咲く頃』や映画『ミッドナイト・ランナー』などのカン・ハヌル。『ミセン-未生-』や『麗＜レイ＞～花萌ゆる8人の皇子たち』、『セシボン』などで演じたちょっと嫌な奴の役も非常に上手いが、“美談製造機”と称されるプライベートの人となりが滲み出た『椿の花咲く頃』や『カーテンコール』のキャラクターもかなりのハマり役。『ラブリセット』はある意味、その相反する2タイプの演技をまとめて楽しむことができる。

　というのも、ジョンヨルは、困った人を見かけたら迷わず手を差し伸べるような優しく真面目な人間。しかし結婚後、弁護士資格取得のためにナラに養ってもらいながら勉学に勤しむことになり、自身がすねかじり状態で生活していることや酩酊して深夜帰宅を繰り返す妻の無神経さなどに苛立ちを募らせていき、卑屈な性格になっていくからだ。

　また、本作のハヌルは『椿の花咲く頃』や『ミッドナイト・ランナー』でもキラリと光っていたコメディエンヌっぷりを惜しみなく発揮。未来の義父に「娘をください」と直談判して銃を突きつけられた時のオーバーな振る舞いや、無駄に長く不気味な引き笑い、顔のパーツを最大限に活かしたキラースマイルなど、すべてが面白く、鑑賞後もその姿がふと頭に浮かんでしまうほど後を引く。

　本作を手がけたナム・デジュン監督は、公式インタビューでハヌルとの仕事を「友達と一緒に映画を撮っている感覚だった」と振り返っており、本作について「寝床に入ってからも、もう一度、思い出し笑いをする映画になる」と表現。筆者は、彼らの思惑通り完全にツボにハマってしまった。

　ナラを演じたのは、ドラマ『還魂』や映画『オオカミ狩り』などのチョン・ソミン。『イタズラなKiss～Playful Kiss』での明るくドジな主人公や、『パパとムスメの7日間』での中身が中年親父になった女子高生、そして『サウンド・オブ・ハート』でのちょっとズレているけれど愛嬌あるヒロインなど、定評あるコメディ演技はもちろん、『この恋は初めてだから』や『還魂』で見せた、何を考えているのかよく分からぬ真顔の演技も絶品の俳優だ。

　そんな“真顔”で、ジョンヨルの頭に当てようと野球ボールを投げる場面から、彼女の演じるナラというキャラクターがいかにぶっ飛んだ人間かが分かる。どこまでも器の小さなジョンヨルを言い負かそうと、漫画の登場人物のような黒い瞳をぐるぐると動かしながら啖呵を切る姿も凄まじい迫力。だからこそ、時折見せる色っぽい姿や思い悩む姿にギャップを感じ、ジョンヨルと同じく彼女にときめいてしまう。ソミンとは『色男ホ・セク』に続いて二度目のタッグとなったデジュン監督は、「シナリオの細部までとてもうまく表現してくれた。演出者として本当に満足」と、その多彩な表現力に太鼓判を押している。

　実はハヌルとソミンが共演するのは、映画『二十歳』から8年ぶり。同作は高校からの同級生3人組が20歳を迎え、将来の夢や恋愛、友情などに悩む青春ドラマなのだが、ソミンは3人全員の初恋相手役。ハヌルは真面目で奥手なキャラクターを演じており、2人だけのシーンでは特段はっちゃける展開はなし。また、作品を通しても、それぞれコメディの領域にはまだ手探りな印象を受ける。ハヌルとソミンは今回の再共演について、「俳優チョン・ソミンのコミカルな新たな魅力を発見した」（ハヌル）、「言葉を交わさなくても通じる呼吸があった」（ソミン）とコメント。一緒に組むのが二度目ということや、お互いにあらゆるジャンルの作品で経験値を重ねてきたことが、素晴らしい実を結んだのだろう。

　そのケミストリーを存分に見せてくれるのが、前半の裁判シーンだ。口達者なナラに対してモノマネで対抗するジョンヨル、という図式だけでも相当愉快で、掛け合いのテンポの良さに引き込まれる。また、2人の主張や話しぶりを聞けば聞くほど“どっちもどっち”と思わせる内容になっており、監督が述べた「客観的に見ても一つに肩を持つのが難しいほど、優越をつけがたい。野次馬的な面白さがある」という言葉が全てを物語っている。

　韓国では公開初日から22日間連続で興行収入1位、観客動員数200万人超を果たし、 2023年の韓国ラブコメ映画NO.1ヒットを記録したという本作。監督を務めたナム・デジュンは、余命僅かの友人のために奔走する高校生たちの青春（『偉大な願い』）や、朝鮮時代を舞台にした男妓生とお嬢様の報われぬ恋（『色男ホ・セク』）など、ちょっと切ない設定の作品を手がけてきた。しかしいずれも印象的だったのは、絶妙な塩梅でコメディ要素を散りばめ、悲壮感を軽減させていたところ。そんな監督にとっての3作目『ラブリセット』は、彼の持ち味を活かした爆笑コメディ作品となっている。

　互いの親族や友人との（面倒な）付き合いが発生し、交際時に可愛らしく思えた習慣がイライラの原因となり、恥じらいなんてものはどこかへ飛んでいく……。そんな、一番近い他人同士である夫婦が直面する地獄をオーバーに描き、笑いへと昇華。そして、歩み寄ることの大切さも教えてくれる温かいストーリーに仕立てている。些細な出来事や誤解の蓄積による仲違いや、夫婦間における阿吽の呼吸など、パートナーのいる／いた人にとって“あるある”と頷けるポイントが多数。鑑賞後、今日は相手に少し優しくしてみようかな、なんて思わされる。

　また、「ラブコメに登場するこの立場の人はこうだよね！」「ラブコメの類似シーンではこういう反応になるはず！」といった定説を裏切る展開など、メタ要素もちらほら。その点で注目してほしいのが、『偉大な願い』でも異彩を放ったチョン・ノミンが演じる病院長。一見してまともに見えるが、実は韓国ドラマの熱狂的ファンで時折言動がおかしい。終始一貫、そういった小ネタが次々と繰り広げられる、まさに抱腹絶倒な一作となっている。コメディ好きは必見！

■筆者プロフィール
山根由佳
編集者・写真家のマネージャーなど複数の草鞋を履くフリーライターであり、海外ドラマ＆映画の熱狂的ウォッチャー。観たい作品数に対して時間が圧倒的に足りないことが悩み。ホラー、コメディ、サスペンス、ヒューマンドラマが好き。X（Twitter）：@ymndayo

『ラブリセット　30日後、離婚します』2024年3月29日（金）丸の内ピカデリーほか全国公開

主演者：カン・ハヌル（「椿の花咲く頃」「イカゲーム２」『ミッドナイト・ランナー』）、チョン・ソミン（『オオカミ狩り』「還魂」）
監督：ナム・デジュン（『偉大な願い』『色男ホ・セク』）
韓国映画／カラー／ヴィスタサイズ／5.1chデジタル／119分
原題：『30일』英題：『LOVE RESET』
本国公開日：2023年10月3日
製作プロダクション：CINEMA WOOLLIM
翻訳：福留友子
提供：楽天
配給：松竹　
コピーライト：(c) CINEMA WOOLLIM, TH STORY AND MINDMARK
映倫区分：G
『ラブリセット　30日後、離婚します』公式ホームページ
https://www.rakuten-ipcontent.com/lovereset/