【仏教とIT】第14回 いま、10分法話バトルがアツい! | RBB TODAY
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【仏教とIT】第14回 いま、10分法話バトルがアツい!

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【仏教とIT】第14回 いま、10分法話バトルがアツい!
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●法話動画チャンネルの人気の裏側



 誤解を恐れずにいえば、「寺離れ」「仏教離れ」が叫ばれるなかで、どうしようもなく不人気だったのが、法話だと思う。お坊さんとしては法話を聴いてもらわないことには、仏教への入り口が開かれないから、しっかりと準備して法話に臨む。しかしながらこれが空回りで、伝統的なスタイルにのっとって正しく組み立てられた法話は、およそ1時間の構成。しかも、信心のない人にはとっつきにくい世界観。それを正座の足の痛みに耐え、じっと押し黙って聞き続けなければならないのだから、若い人々が寄り付かないのも無理はないのである。

 

 そんな逆風をものともせず、法話を配信し続ける若干32歳の僧侶がいる。真言宗須磨寺派大本山の須磨寺(兵庫県神戸市須磨区)で副住職をつとめる小池陽人(ようにん)さんだ。Youtubeチャンネル「須磨寺小池陽人の随想録」は、登録者数が4, 200人を超える人気チャンネル。美坊主と評判の小池さんの動く姿が見られるのも、このチャンネルの魅力のひとつだろう。「youtubeだと動画の尺が表示されるため、長い動画だと敬遠される」という気遣いにより、いずれの法話動画も長さ10分ぐらい。仏教の話がコンパクトにまとめられているから、聞いていて心地よい。人気が出るのもなるほどと思う。

 小池さんは、チャンネルを立ち上げて以来、人の居ないお堂でカメラを回して法話を撮ってきたが、この4月に配信された2本は初めて公開収録を行った。その法話がこちらである。



 注目すべきは最後の部分。収録に立ち会った人々に、「カメラが回り終わるまで拍手しないでください」などとあらかじめ注意を出していたにもかかわらず、法話が終わると拍手が起こり、ゆるやかな笑いに包まれて和やかに閉じられていく。「グズグズになっちゃいましたけど、皆さんと一緒になって収録を楽しめました」と小池さんは喜ぶ。

公開収録には300名が立ち会った。須磨寺書院にて
 

 なお、次回の公開収録は5月4日(土)午後1時30分より。参加費無料、予約不要なので、興味ある人はふらっと訪ねてみてはどうだろうか。


●法話頂上決戦、2日間でチケット完売!



 ところで、小池さんは、自らの法話を伝える試みに飽き足らず、多くの僧侶とともに法話の魅力を届けるプラットフォームづくりにも意欲を見せる。来る6月2日(日)に須磨寺で行われる「H1 法話グランプリ~エピソード・ZERO~」(小池さんが実行委員会長。以下、H1グランプリと略)では、漫才の腕を競う「M1グランプリ」さながらに、宗派を超えて7人のお坊さんが集って法話の腕を競う。一人あたりの持ち時間はやはり10分。入場料は1,500円だが、ネット上で評判を集めたことなども功を奏し、4月20日の発売開始からわずか2日で全418席が売り切れた。

 

 お坊さんの法話を聴衆なり審査員なりが評価するというのは、「法話は有難く拝聴するもの」という従来のスタイルとはまるで異なる。ただし、H1グランプリでは、M1グランプリと違って、聴衆が投票する先はあくまで「もう一度会いたいお坊さん」である。すなわち、来場者は入り口で投票権3枚をもらうのだが、「法話がうまかった」というよりも「キュンキュンした」お坊さんに投票する。3枚とも同じお坊さんに入れても、別々のお坊さんを選んでもかまわない。

 なお、H1グランプリは、今回が第4回目だが、過去3回は特定の宗派の青年僧侶の研修を目的として実施された。小池さんが企画に携わるのは前回大会に続き2回目で、今回初めて宗派を超えて法話を競う場になった。

 「H1グランプリに対しては賛否両論ありますけれど、投票システムがあることでお客さんとの一体感が生まれます。審査員のご講評を聴くことで法話の味わいを深められます。前回もプログラム全体で4時間でしたが、『あっという間でした』と楽しんでくださいました。そしてお坊さんも、法話バトルを制するために、目の色変えて勉強する人があったりします。うまく歯車がかみあっていると思いますね」と手ごたえを語る小池さん。「ゆくゆくは地方大会や全国大会などの仕組みや、オンライン配信して広く『いいね!』を募る仕組みなども作りたい」という。


●ネット社会と法話の形



 法話を伝えるために趣向を凝らすのはH1グランプリだけではない。「仏教井戸端トーク」という仏教団体では、お客さんから3つのお題を出してもらって落語をする「三題噺」さながらに、「お題法話」ときには「お題法話 仏教用語禁止編」を開催している。お客さんからのお題で即興的に法話をするだけでも難しいのに、仏教用語を使わずに平易に語るとなればなおさらハードルが高い。しかも、その全編がYoutubeで配信され、苦悶するお坊さんの姿が全世界にさらされるときもある。ひどい「お坊さんイジメ」企画であるが、悪意があるわけではない。「一般的に、お坊さんって高尚な人だと考えられています。雲の上の人のようなイメージです。そんなお坊さんもやはり生身の人間なので、難しいお題を前に困った顔をしたり、言葉に詰まったりする。これがお客さんの心をくすぐり、結果的に身近に感じてもらえるんです」と、主催者は思惑を教えてくれた。

「お題法話」バトルは教会で行われたことも。宗教さえも超えて布教の腕を競った
 

 「お題法話」も3~4人の僧侶が登壇。会場に居合わせたお坊さんが急きょ登壇させられたこともある。持ち時間は10分。投票こそないもののジャッジによる審査がある。やはりお客さんを飽きさせないための工夫に満ちている。

 もっとも、たかが10分の法話で本当に教えの核心を伝えられるのか、いささか疑念がないではない。私としては1時間の法話をしっかりと聞いていただいてこそ、伝わるものがあるだろうと思うし、多くの僧侶も同感だろう。しかし、「アマゾン」などの通販サイトでも、「食べログ」などのグルメサイトでも、いまやユーザーレビューは当たり前だし、紹介画像や動画が丁寧に載せられているとますます身近に感じる。そうであれば、お坊さんの法話と出会ってもらうためには、「レビュー」なり短編の「法話動画」なりが入り口として必須となる時代なのだろう。

 ただ、願わくは、H1グランプリなど法話への入り口――いずれも心憎いほどに絶妙にデザインされているが――に目を奪われるのではなく、入り口の向こう側にある世界に目を向けてほしい。そして、仏教の門をくぐって積極的に学びを深めようと志す人が増えてくれば、そのときにようやく法話が再び本当の輝きを放つだろう。


池口 龍法氏
池口 龍法氏

【著者】池口 龍法
1980年兵庫県生まれ。兵庫教区伊丹組西明寺に生まれ育ち、京都大学、同大学院ではインドおよびチベットの仏教学を研究。大学院中退後、2005年4月より知恩院に奉職し、現在は編集主幹をつとめる。2009年8月に超宗派の若手僧侶を中心に「フリースタイルな僧侶たち」を発足させて代表に就任し、フリーマガジンの発行など仏教と出合う縁の創出に取り組む(~2015年3月)。2014年6月より京都教区大宮組龍岸寺住職。著書に『お寺に行こう! 坊主が選んだ「寺」の処方箋』(講談社)、寄稿には京都新聞への連載(全50回)、キリスト新聞への連載(2017年7月~)など。
■龍岸寺ホームページ http://ryuganji.jp
■Twitter https://twitter.com/senrenja
《池口 龍法》
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