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中小企業でもできる法のグレーゾーン解決

ビジネス その他
経済産業省商務情報政策局情報経済課課長補佐 小林正孝氏
  • 経済産業省商務情報政策局情報経済課課長補佐 小林正孝氏
  • Liquidのシステムによって、宿泊施設側はパスポートのコピーをとる必要がなくなり、個人情報の管理負担を減らすことができる
 テクノロジーの進化が、フィンテックやエイチアールテックなどの革新を生んでいる。しかし、関連したビジネスを立ち上げるにあたって、時に問題になるのが法規制だ。規制事項が時代の変化に対応しきれていなかったり、想定してなかった事態に法律が迅速に対応できないことが、いわゆるグレーゾーン問題を生んでいる。これを民間の一企業が解決したいと考えたときに、その相談窓口の一つとなっているのが、IoT関連のプロジェクトについて企業連携や資金、規制の面から支援を行うIoT推進ラボだ。16年7月にはIoTを活用したプロジェクトの選考会議「IoT Lab Selection」を、経済産業省とともに開催している。

 「IoT Lab Selection」は今年が2回目の開催となる。昨年にはLiquid社がグランプリを受賞。プロジェクトをサービスとして商業ベースに乗せるにあたり、グレーゾーン問題の解決が行われたのだが、それを支援したのが同イベントを主催した経済産業省とIoT推進ラボだった。

 では、一企業のプロジェクトをサービス化するにあたり、どのようにしてグレーゾーン問題を解決したのか? 同案件を担当し、IoT推進ラボの業務にも関わる経済産業省商務情報政策局情報経済課課長補佐の小林正孝氏に話を伺った。

■各省庁が法のグレーゾーン問題解決に動き出している

――経済産業省やIoT推進ラボは、グレーゾーン問題の解決にどのように関わっているのでしょうか?

小林 IoTラボでは先進的なモデル事業を創出するために、規制改革などの環境整備を行っています。中でも重要なのが、規制・制度に関する政府提言を行う活動です。関連する省庁と連携して省庁にまたがるようなルールや通達を出すこともあり、必要があれば大臣名での通達も迅速に出すように働きかけます。公的な通達をよりどころにすれば、企業は新製品やサービスを投入しやすくなるでしょう。法律を変えるのは難しく時間がかかりますが、通達が出せれば、法改正を伴わずグレーゾーン解消につながります。

 例えば、介護機器の開発にあたっては、経済産業省だけでなく、厚生労働省も関連する業法を管轄しています。通信が発生すれば総務省も関係するでしょう。以前はガイドラインを定め、通達を出すためのハードルは並大抵のものではありませんでした。しかし、今ではIoT推進ラボだけでなく、他省庁もグレーゾーン問題解決のための取り組みを行っており、窓口や枠組みを持っています。担当大臣への報告ラインもできているので、別の省の大臣からの通達を依頼するような、機動的な調整も不可能ではありません。


――大臣からの通達でグレーゾーン問題を解決するのですね。既に、動いている事例もありそうです。

小林 15年のIoT Lab Selectionでグランプリを受賞したLiquidが、グレーゾーン問題を解決した事例になるかと思います。同社は指紋認識の技術を持ち、読み取り精度とスピードに突出した技術を持っています。これを、訪日観光客を対象にホテルでの本人確認、店舗での決済に応用できないかと考え、IoT推進ラボに相談にきました。

 現行の旅館業法では、外国人の宿泊客にはパスポートの提示を義務付けています。ただし、現物での確認が必要かどうかは、明確に規定していません。そのため、現物パスポートと同等な真正性が担保できるものがあれば、宿泊客の本人確認に使ってもよいのですが、現実にはパスポートの現物を提示してもらいコピーを保管する運用が行われています。

 そこで、IoT推進ラボは同社の技術を検証し、信頼性とセキュリティの観点から、パスポートのICチップと指紋データを結びつけることで本人確認を行うようにアドバイスしました。そして、旅館業法の監督官庁である厚生労働省とも議論し、パスポート確認を電子的に行うことのコンセンサスをとりました。厚生労働省にもグレーゾーン問題解決のための枠組みがあるので、大臣への働きかけも行い、議論開始から2か月で大臣名による「真正性が確保されれば電子的な確認で良い」という通達を出すことに成功しました。

■グレーゾーン問題を解決するのは革新的なビジネスモデル

――Liquidの事例以外でもグレーゾーン問題が解決された事例はあるのでしょうか? 潜在的には解決に向けてのニーズはまだまだあるかと思います。

小林 やはり15年の事例ですが、タクシーメーターの電子的な封印を認めることで、スマートフォンを利用したタクシーメーターアプリや運行管理システムを実現した例があります。タクシーメーターは、料金の不正ができないように機械に封印がされています。しかし、これも法律では電子的な封印などは想定しておらず、グレーゾーンとなっていました。同件でもIoT推進ラボのスキームで国交省から通達が出たことで、タクシーメーターアプリが実現しています。

 また、通達ではなく省令の改正まで踏み込んだ例もあります。プロジェクターの照度に関する規制は、消費生活用製品安全法に記されていますが、これがJISの基準と一致しておらず、製品開発が制限されている現状があります。技術的にはもっと明るいプロジェクターを安全に開発することができるのに、制限がかかっているわけです。これは照度の数値などが条文に記載されているので、省令の一部改正で対応しようとしています。相談のあった企業は、法律が改正されればレーザー方式のディプレイを商品化する計画です。

――様々な事例があるのですね。どのような状況であれば、グレーゾーン問題が解決されるのでしょうか?

小林 大事なのはビジネスモデルです。単に規制があるからではなく、製品、サービスのビジョンが見えており、ビジネスモデルの精査がされていること。その上で障害となっているグレーゾーン問題が浮き彫りになり、相談したい事柄が明確になると思います。IoT推進ラボの活動の主旨は、新しいビジネスを創出することであり、産業競争力を高めることです。そこを明確にしたうえで、規制やグレーゾーン問題についてご相談いただければと思います。

<Profile>
小林正孝(こばやしまさたか)さん
2000年に経済産業省(当時通商産業省)に入省。製造産業局、資源エネルギー庁、産業技術環境局などを経て、14年7月に商務情報政策局情報経済課に着任。現在、IoT推進ラボ全体の運営を担当。

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《中尾真二/HANJO HANJO編集部》
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