クラウドめぐり日米5社がディスカッション……Cloud Computing World 2010 基調トークセッション(前編) | RBB TODAY
※本サイトはアフィリエイト広告を利用しています

クラウドめぐり日米5社がディスカッション……Cloud Computing World 2010 基調トークセッション(前編)

エンタープライズ ハードウェア
野村総合研究所 技術調査部 上級研究員 城田真琴氏
  • 野村総合研究所 技術調査部 上級研究員 城田真琴氏
  • グーグル エンタープライズ部門 エンジニア 泉篤彦氏
  • 日立製作所 クラウド事業統括本部 担当部長 小川秀樹氏
  • 日本IBM クラウド・コンピューティング事業 クラウド・ソリューション 理事 小池裕幸氏
  • 米国Amazon Web Service Senier Web Services Evangelist Jeff Barr氏
  • パネルディスカッション
  • マイクロソフト デヴェロッパー&プラットフォーム統括本部 部長 平野和順氏
 東京国際フォーラムにて開催された「Cloud Computing World 2010」の初日基調講演では、業界をリードするクラウドベンダーの担当者やエバンジェリストが集まりパネルディスカッションが行われた。そこでは各社が考えるユーザーメリット、プライベート・パブリッククラウドに対するアプローチ、ビジネスモデル、そしてキャズム越えに向けた今後の課題についての議論が展開された。

●各社にとってのクラウドとは

 モデレータである野村総合研究所 技術調査部 上級研究員 城田真琴氏は、「弊社の調査では、試験的なものも含めてクラウドを導入している企業の割合が12%という結果がでており、導入しない理由として、セキュリティやコンプライアンスの問題を挙げる企業が多い」と述べたうえで、今回のパネルディスカッションの目的を、各社のクラウドビジネスの取り組みと、ユーザー企業の懸念に対するソリューションを議論することとした。ちなみに各社にとってのクラウドとは以下のようなものとなる。

 グーグル エンタープライズ部門 エンジニア 泉篤彦氏は、グーグルにとってはサービスのすべてがクラウドであると述べ、クラウドのいちばんの特徴を「スケールするしくみ」であるとした。1万件のデータベースであろうと100万件のデータベースであろうと、クラウドサービスならば安定したパフォーマンスを素早く提供できるという。

 日立製作所 クラウド事業統括本部 担当部長 小川秀樹氏によれば、日立にとってのクラウドは経営に直接役立つものであるという認識のもと、パブリッククラウドとプライベートクラウドを効率よく、適材適所に使っていくものだという。そのうえで、コストダウンだけでなく環境配慮といった企業の社会的な使命を果たすものでもあるとした。

 日本IBM クラウド・コンピューティング事業 クラウド・ソリューション 理事 小池裕幸氏は、クラウドを支える技術には「仮想化」「標準化」「自動化」の3つがあるとし、これらはIBMが汎用機の時代から取り組んでいるものであり、クラウドもその延長にあると答えた。そして、クラウドの特徴として「IT調達の多様化」を挙げ、クラウドの活用によって、オンデマンドでスケーラブルに利用できるスキームが増えたことが、経営のスピード化やコストダウンにつながると主張した。

 米Amazon Web Service Senier Web Services EvangelistのJeff Barr氏は、アマゾンにとってクラウドとはテクノロジーというよりビジネスモデルであると述べ、ECサイトのビジネスから始まったサービスプロバイダならではの視点を披露した。そしてクラウドの特徴は、スケーラブルでスピードアップ経営につながるだけでなく、ユーザーやプロバイダーにオープンなプラットフォームや新しい標準を提供するものでもあると述べた。

 マイクロソフト デヴェロッパー&プラットフォーム統括本部 部長 平野和順氏は、マイクロソフトではAzureというプラットフォームによって、クラウドをベースとしたコンシューマテクノロジーやサービスを、エンタープライズソリューションとして提供することが同社のクラウドコンピューティングにおけるミッションであるとした。また一般ユーザーが行っているリモートアクセスや多様なデバイスの利用をエンタープライズソリューションにも展開することの意義を述べた。

●クラウドのユーザーメリット

 グーグルの泉氏は、ユーザーがパブリッククラウドを使うメリットをコストダウンであると話す。またその他のメリットとして、Google Docsのようなデータ共有サービスによって、ビジネスコミュニケーションが添付ファイルなしで行うことができることによるワークスタイルの変化を挙げた。システム開発や構築では、営業・開発の情報共有が進みRFP(提案依頼書)へのレスポンスが1週間程度で可能になった自社の例なども紹介した。

 「利用者の多い大企業や長期契約する場合はコストダウンにならないのではないか?」という質問に対して泉氏は、減価償却も考えた場合長期ではコストダウンにならないか可能性があるとしつつ、一度導入したシステムに縛られる戦略上のリスクを指摘した。また、オンプレミスやプライベートクラウドの場合のライセンスコスト(CAL)についても言及し、総合的なコストやメリットを考えるべきだと述べた。

 ライセンスコストの問題について、マイクロソフトの平野氏は、Exchange ServerをG-mailに切り替えてコストダウンを実現したという話を聞いたことがあるとしながら、メリットはユーザーの規模や経営ポリシーに依存するだろうとした。またサービスからソフトウェア(SaaS)への切り替えは段階的あるいは部分的に選択可能であることが、多様にニーズに応えることになると主張。そのためにライセンスメニューも柔軟に対応しているそうだ。さらに、クラウドを導入する場合、全体のビジネスの生産性を落とさないことも重要なポイントであるとし、ビジネスのさまざまなシチュエーションでは、添付やローカルサーバーという選択肢も必要だろうと述べた。

 企業によっては、パブリッククラウド、プライベートクラウド双方をバランスよく利用していると述べたのはIBMの小池氏だ。産業廃棄物のトレースシステムをパブリッククラウドで実現した例、大規模開発におけるテスト環境の調達にプライベートクラウドを活用した例、災害対策を含むBCP(事業継続性計画)のためデスクトップクラウドを活用し、ワークスタイルまで変えたという例などを紹介し、コスト要因だけでなく企業はさまざまな問題解決や課題克服のためにクラウドを利用し始めていることを強調した。

●米国ではリスク回避にクラウドを選択

 米国ではクラウドを導入する企業はコスト削減を第一の目的にしているのか、それとも別の理由で導入を進めているのだろうか。

 AmazonのJeff Barr氏は、コストダウンを目的にクラウド化を進める企業は多い一方で、経営リスクの軽減のために導入する企業も増えていると回答。この場合のリスクとは、おもに投資にかかわるものだ。製品開発においてリリース前、サービスイン前の先行投資の難しさ、ロードマッププロビジョニングの難しさから、投資戦略の最適化を図る目的でクラウドサービスを利用する企業の存在を示した。そして、製品リリース後、サービス開始後に発生するニーズやリクエストの「スパイク」に対応できるのもクラウドだとした。SNSやコミュニケーションの多様化により、突発的な需要に迅速に対応できないとビジネスとして大きな機会損失になるからだ。また、米国では連邦政府や州政府レベルでのクラウド活用も進んでいるとした。これは、クラウドプロバイダーがセキュリティ要件に対応するようになってきたからだという。

 またプレイベートクラウドのメリットとは何だろうか。

 日立の小川氏は、企業向けのプライベートクラウドのメリットは、企業経営を最適化することにあるとした。とくに日本企業の場合、現場の発言力が強く、部門ごとの独立性が高い、ボトムアップ的な経営が多いという特徴がある。これは、企業のエンタープライズシステムにおいては「縦割り」を生み、全体最適より部分最適が進み、いわゆるサイロ型システムの誘因となる。プライベートクラウドで情報やリソースを集約することで、経営の全体最適が実現しやすくるだろうということだ。シェアードサービスはコストダウンよりも、ノウハウや部門ごとの高度な情報をナレッジベース化することに意義があるといい、日立ではグループ横断のSNSを構築し、大規模な情報共有プラットフォームを実現しているとした。
《中尾真二》
【注目の記事】[PR]

関連ニュース

特集

page top