【「エンジニア生活」・技術人 Vol.7】サーバを止めないというミッション——APCジャパン・白坂健一郎氏
UPSは、容量の拡張が柔軟に行え、定格出力容量が40kVAまで拡張可能な「Symmetra PX」のようなサーバルーム、データセンターで使用される製品から、500VA程度の「APC ES 500」などコンシューマ向けの製品まで幅広くカバー。データセンター向けの冷却ソリューションは空冷式の「InfraStruXure InRow RP DX」や、冷水式の「InfraStruXure InRow RP CW」といったモジュール式の冷却システムをラインアップしている。また、ホットスワップ機能搭載の一体型ラック用電源タップ「Metered Rack-Mount PDU AP7833JP」なども同社の人気製品のひとつ。ネットワーク経由で電源の監視ができるほか、電源供給をしたままネットワーク部分の交換が可能な製品だ。
システム運用の自動化・簡素化が叫ばれて久しいが、サーバ、ストレージの仮想化が注目されるにつれ、その要望はますます高まっている。一方で、こうした新たなソリューションの高まりとともに、UPSにも顧客のシステム変化に対応した柔軟性が求められている。システムの規模も、設置スペースの広さも、あるいは室内の温度などの環境も、それぞれのケースによって大きく異なるなかで、顧客の要望は厳しくなっていく一方だ。
エーピーシー・ジャパン(APCジャパン)のセールスエンジニアリング部でサービスエンジニアとして働く白坂健一郎氏の仕事は、そうした顧客の環境ごとにベストなシステム構成を提案していくというものだ。
■空調まで考えるエンジニア
白坂氏にとって、APCジャパンは3つめの就職先にあたる。大学で熱工学を学び、卒業後最初に入った企業では営業、その後クレジットカードなどのカード発行機を含めたシステムの保守といった仕事をこなしてきた。転職のきっかけは「もっとエンドユーザーに近いところで働きたい」という気持ちだったという。「エンジニアという上からの目線ではなく、お客さんと同じ目線で仕事がしたいと思っていたんです」。
転職後は、OEMグループでOEM先の製品と自社製品の連携方法を検証する仕事にあたり、2年ほど前からサービスエンジニアリング部へ異動。最近ではITコンサルティング会社や設計事務所と連携しながら、外資系の証券会社や金融機関のサーバルーム向けの設備提案なども行っているという。顧客のニーズに合わせて提案を行っていくという、よりユーザーに近い仕事だ。だが、オフィスの規模やケースに合わせて、既存製品を選んで渡せばいいかというとそうではない。「単純に製品を渡すのではなく、それを具体的にどう使って顧客のニーズに合わせていくか、物理的にどのようにUPSをジェネレーターや発電機に噛ませていくかといったことを、技術的に提案していくのが仕事です」。
顧客の要望は様々だが、白坂氏の場合、もっとも頭を悩ませる課題は納期だという。2カ月半〜3カ月程度で納入しなければならないタイトな日程の仕事も少なくない。また、取引先に見せて進めていた提案が途中で覆されることもある。
実際に外資系金融機関の移転を手がけたときは、2カ月半程度でオフィス内にサーバルームを作ったという。ITコンサルタントと協力して導入するシステムの青写真を作り、その構成に見合う製品を手配、選択。そして、最終的にUPSなどと組み合わせて納品と、提案から納品までを短い時間で行う仕事だった。
そうした厳しい日程の中でより最適な提案を模索しなくてはならないのだ。こうしたときに求められるのは製品やシステムについての知識だけではない。極端にいえば、広い場所でも設置する製品が重すぎれば、床が抜けてしまうということもあり得る。そうした設置場所の環境も含めた知識が必要になるのだ。白坂氏は「将来的には(設置場所の)空調環境などを踏まえた冷却システムの提案などもできるようになりたい」と語る。
■日本企業の厳しい要求に応える
しかし、一番苦労するのはやはり技術面だ。日本企業の要求は本国アメリカ以上に厳しい面もあるのだという。「意外と欧米は細かいことを気にしなかったりするんですね。日本のお客さんの場合、『スクリプトをここで走らせて、次にアプリケーションを落として、それからシャットダウン』というようにシナリオを考えるように細かく作っていくのですが、アメリカの方ではそこまで気にしているのかどうか(笑)」。
また、日本が世界に先駆けて応えた要望もあった。VMwareが普及しはじめた頃に、UPSと仮想サーバの連携をとりたいという要望が顧客から出てきたのだが、当時はVMwareとUPSの連動は、アメリカでも情報が揃っていなかった。そのため、ノーサポートの状態でスタートし、仮想サーバの場合は停電時にどのプログラムからシャットダウンしていけばいいかなどを提案、検証しながら作っていった。このように日本で出た独自の要望をアメリカにフィードバックしていくというケースも珍しくはないという。
■変化し始めたサーバの課題
では、ユーザーや企業が現在サーバに望むものはどういうものなのだろうか。
「テスト的に導入されていたブレードサーバが、しだいにスタンダードになりつつあります。ラックの本数、つまり設置面積を減らしながら、CPUの数を増やすという動きですね。そうすると保守・保護する面積は小さくなるのですが、逆にUPSの容量は大きなものが求められます」。
ブレードサーバは設置スペースこそ小さくなるが、必要とする電力容量自体は大きいものだと10kVAにもなる。このクラスのサーバに必要なUPSを置くとなると、大型のラックが必要になってしまい、効率的にスペースを使えなくなってしまう。そこで現在白坂氏を含めてAPCジャパンが提案しているのが、サーバとUPSの分離だ。サーバの下にUPSを並べるのではなく、ラックにはサーバのみを入れて、その隣りに独立して大型のUPSを設置。そのUPS1台で複数のサーバを一括管理するという方法だ。「管理の簡素化を望むユーザーの声も大きいです。大量のUPSを管理するとなると、それだけの労力も必要ですから、数を減らしたいという人は多いですね」と白坂氏は語る。また、これまでは1台のサーバに対して当たり前に1台のUPSを設置していたが、システムを精査してみると、意外とそれほどたくさんのUPSがなくても問題ないことが判明するケースもあるという。CO2削減といった観点からも省消費電力化を求める企業も多い。巨大で大量、大容量というものから、コンパクトなシステムを集中管理するというトレンドがUPSでも進んでいる。
■「止めない」だけがミッションではない
白坂氏は要求されるシステムだけでなくユーザー側の意識も変わったと指摘する。「お客さんがただ『止めない』というのではなく、『止めるときにどう止めればいいか』を気にしてくれるようになりました」。
サーバの命題、APCの最大のミッションは「止めない」ということだ。しかし、一方で存在しているのが「正しく止める」というミッションだ。いざシステムが止まるときに、予定どおりの手順でシステムが止まっていき、大切なデータが損なわれないようにきちんと保護する。それも大事なミッションというわけだ。
白坂氏は今後、サーバの保護は止め方を含めて考え方が変わっていくのではないかと述べる。「まずシステム自体を小さくしていく、コンパクトにするという現在の流れがあります。それが今後、分散化していくのではないかと思います。つまり、離れた場所に同じシステムを複数置いて、片方が止まってしまった場合にも、サービス自体は止まらずにすむような仕組みです」。
白坂氏は仕事をしていて一番うれしい瞬間として「『うまく止まりました』という報告をお客さんから受けたとき」をあげる。「止まらない」はベストな回答だ。しかし、現実にサーバは止まる。そのときによりベターな回答を出していくのが、APCと白坂氏の重要なミッションなのだ。
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