
2025年9月6日・国際学術誌Journal of Exercise Science & Fitnessに掲載
株式会社 明治(代表取締役社長:八尾 文二郎)と日本体育大学(学長:石井 隆憲)岡本孝信教授(体育学部)の研究グループは、高強度のレジスタンス運動(筋力トレーニング)前に高カカオチョコレートを摂取することで運動により増加する動脈スティフネス※1(動脈の硬さ)が速やかに低下することを明らかにしました。
本研究成果は、2025年9月6日に国際学術誌Journal of Exercise Science & Fitnessに掲載されました。(Hata U, Hashimoto Y, Natsume M, Okamoto T., J Exerc Sci Fit. (2025)23:409–415; https://doi.org/10.1016/j.jesf.2025.08.005)
※1 動脈スティフネス:動脈壁の硬化にともない、動脈が伸展性を失い硬くなること
研究成果の概要
高強度レジスタンス運動直後には動脈スティフネスが有意に増加しました。
運動前に高カカオチョコレートを摂取した場合、運動により増加した「上腕‐足首間脈波伝播速度(baPWV)」※2が30分後には、ホワイトチョコレートを摂取した場合と比較して有意に低下することがわかりました。
高カカオチョコレートを摂取した場合、「上腕‐足首間脈波伝播速度(baPWV)」は摂取前と有意差がない程度にまで、回復が認められました。一方、ホワイトチョコレートを摂取した場合は、運動60分後でも摂取前と比較して有意に高い値を示し、回復していませんでした。
※2 上腕‐足首間脈波伝播速度(baPWV):心臓の拍動で生じた脈波が、上腕と足首に伝わる速さのこと。動脈スティフネスの評価指標の一つで、中心動脈と末梢血管を併せた全身の動脈スティフネスを評価できる。動脈がやわらかいと脈波の伝わりが遅く、baPWV値は低くなる。
研究成果の活用
レジスタンス運動は、サルコペニアなどの予防に有効な方法として推奨されています。しかし、特に高強度のレジスタンス運動では動脈スティフネスが増加し、心臓や血管への負担となることが知られています。したがって、運動により増加した動脈スティフネスを速やかに低下させることは、血管への負担を軽減し、運動の恩恵を受けることにつながります。今後、高カカオチョコレートによる血管機能改善の研究を通じて、お客さまのこころとからだの健康に貢献してまいります。
研究の目的
高カカオチョコレートはカカオポリフェノールを多く含み、これらが血管機能を改善することが知られています。本研究では、カカオポリフェノールを含む高カカオチョコレートと、含まないホワイトチョコレートを摂取した場合に、健康な若年男性が高強度レジスタンス運動後に示す動脈スティフネスの変化を比較調査しました。高カカオチョコレートの摂取が運動後に増加する動脈スティフネスを速やかに低下できる可能性があると考え、本研究を実施しました。
論文内容
タイトル
高強度レジスタンス運動前のダークチョコレート摂取が動脈スティフネスに及ぼす急性効果
Acute effect of dark chocolate intake before high-intensity resistance exercise on arterial stiffness in healthy young men
方法
12人の健康な若年男性(平均年齢23歳)が参加し、ランダムな別日に高カカオチョコレート50gまたはホワイトチョコレート50gを摂取しました。なお、高カカオチョコレートにはカカオポリフェノールが1,285mg含まれ、ホワイトチョコレートには含まれていませんでした。
それぞれのチョコレートを摂取後、全員がベンチプレス(1回最大挙上重量の80%の重さで5回×5セット)とアームカール(1回最大挙上重量の70%の重さで10回×5セット)の運動を行いました。
チョコレートを食べる前(基準値)、摂取60分後(運動前)、運動直後、そして運動終了後30分と60分に、動脈の硬化度を測定するため、「上腕‐足首間脈波伝播速度(baPWV)」や動脈の柔軟性指標(動脈コンプライアンス)※3、動脈硬化度指標(β-スティフネス)※4などを測定しました。
※3 動脈コンプライアンス:動脈が血圧変化に応じてどれだけ伸び縮みできるかを示す性質(柔軟性・伸展性)。主に頸動脈で測定する。動脈が硬くなると血圧が上がっても血管が広がらず、コンプライアンス値は低下する。
※4 βスティフネス:動脈硬化度を示す指標で、主に頸動脈の血圧変化に対する血管径の変化率を表す。値が大きいほど動脈硬化度が増加していることを示す。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202511269891-O4-z6SV0BV0】 図1 試験タイムスケジュール 黒色矢印のタイミングで、脈波伝播速度(baPWV)などを測定
結果
動脈スティフネスの指標である「上腕‐足首間脈波伝播速度(baPWV)」は、運動前と比較して有意な増加が認められ、高カカオチョコレート摂取群では運動後30分で、ホワイトチョコレート摂取群よりも有意に低下しました(図2)。
中心動脈(頸動脈など)における動脈の柔軟性指標(動脈コンプライアンス)や動脈硬化度指標(β-スティフネス)については、高カカオチョコレート摂取による有意な改善効果は認められませんでした。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202511269891-O5-oR9hnIA3】 図2 「上腕‐足首間脈波伝播速度(baPWV)」の測定値の推移 高カカオチョコレート vs. ホワイトチョコレート P<0.05 †† 高カカオチョコレート:摂取前 vs. 各測定ポイント P<0.01 # ホワイトカカオチョコレート:摂取前 vs. 各測定ポイント P<0.01 ●高カカオチョコレート ○ホワイトチョコレート
考察
(1)高強度レジスタンス運動前に高カカオチョコレートを摂取すると、運動後に増加した動脈スティフネスの指標である「上腕‐足首間脈波伝播速度(baPWV)」が速やかに低下することが確認できました。
(2)中心動脈(頸動脈など)の柔軟性および硬化度指標(動脈コンプライアンスやβ-スティフネス)には有意な変化は認められませんでした。このことから、高カカオチョコレートの摂取効果は主に末梢動脈に現れ、中心動脈には影響しなかったと考えられます。

