ついに開幕したFIFAクラブワールドカップ2025。レアル・マドリードやマンチェスター・シティなど世界的なビッグクラブが集い、日本から浦和レッズが参戦する同大会には、Kリーグ3連覇中の韓国王者・蔚山(ウルサン)HD FCも出場している。
その蔚山でアシスタントコーチを務めるのが、在日コリアン3世の趙光洙(チョ・グァンス)だ。KリーグとクラブW杯を並行し、“世代交代”の過渡期にあるチームの現在地を、現場の最前線に立つ趙光洙はどう見つめているのだろうか。
韓国王者を支える“右腕”
趙光洙は1981年生まれ、岐阜県出身の43歳。高校時代は2学年下に鄭大世(チョン・テセ)がおり、大阪体育大学ではサッカー部キャプテンを務めた。卒業後はJFLのデンソーや佐川印刷SC、韓国実業団リーグの天安(チョナン)市庁サッカー団などでプレーした。
その後、天安市庁サッカー団の戦力分析官として指導者キャリアをスタートすると、2011年にはホン・ミョンボ監督が率い、池田誠剛氏がフィジカルコーチを務めた韓国オリンピック代表のコーチングスタッフに通訳として合流。2012年ロンドン五輪で銅メダル獲得に貢献すると、2014年ブラジルW杯でも韓国代表のスタッフに名を連ねた。
そして、ジェフユナイテッド市原・千葉の強化部、オランダ・ユトレヒトでの指導者留学を経て、コーチとして山梨学院大学や杭州緑城(中国)、Kリーグの城南(ソンナム)FCと済州(チェジュ)ユナイテッドを渡り歩き、2021年から蔚山の一員に。現在は昨年7月から指揮を執るキム・パンゴン監督のもとでアシスタントコーチを務める。

「全体的なオーガナイズや監督の要求に対するサポート、コーチングスタッフのミーティングにおける取りまとめなどを担っています。また、セットプレーに関しても攻守両方で自分が任せてもらっています」
そもそも、趙光洙はホン・ミョンボ監督就任に併せて、池田氏らとともに蔚山のコーチングスタッフに加わった。ただ、昨年夏にホン・ミョンボ監督が韓国代表指揮官に就くと、池田氏も今季から浦和レッズのハイパフォーマンスコーディネーターに就任。キム・パンゴン監督は今季開幕前にコーチ陣を刷新したが、趙光洙は前体制から唯一残るコーチとして現場を支え続けている。
「ありがたいことに今季からアシスタントコーチという役職を任され、監督の右腕という形で指導にあたっています。取り組んでいる内容自体に大きな変化はありませんが、アシスタントコーチを務める分、責任感やプレッシャーが増したと感じています」
クラブW杯に向けた蔚山の現在地
蔚山はホン・ミョンボ前監督体制で2022年、2023年とKリーグを制覇。昨季も監督交代を経ながら、クラブ史上初となる3連覇を達成した。
しかし、今季はリーグ戦19試合を終えた時点ですでに6敗。昨季がシーズン通して8敗だったのと比較しても、4連覇へ苦戦を強いられている状況だ。クラブW杯前最後のリーグ戦では、ライバルの全北現代(チョンブク・ヒョンデ)モータースに1-3の逆転負けを喫した。
近年、選手の高齢化が懸念されていた蔚山は、今季に入り本格的な世代交代を敢行。昨季まで主力を担ったベテランが多く退団し、代わりに20代前半の若手が多く加わったが、「世代交代の過程で難しい点が多く、足踏みしているというのが現状」と趙光洙は言う。彼自身、チーム内で増えた若手に対しては意識的に指導を行っている。

「ベテランはワンポイントのアドバイスで済むことがあれば、伝えなくても彼ら自身が理解していることもあるので、あえて触れない場合もあります。ただ、若手はまだ成長過程にあるので常に目を光らせて、“ディテールにこだわる”という部分でアドバイスするようにしています。
蔚山の若手には、今より1つ2つ階段を上がればもっと怖い存在になる選手がたくさんいます。だからこそ現状で満足させず、もっと優れた選手にならなくてはならないという点で発破を掛けないといけない。彼ら自身もそういう意識で取り組んでいますし、1カ月や半年で変わる選手はたくさんいますからね」
一方で、チームに残るベテランの存在も欠かせない。イングランド・プレミアリーグ通算105試合出場の実績を持つMFイ・チョンヨンのほか、キャプテンのDFキム・ヨングォン(元FC東京、大宮アルディージャ、ガンバ大阪)はじめMFキム・ミヌ(元サガン鳥栖)、MFチョン・ウヨン(元京都サンガF.C、ジュビロ磐田、ヴィッセル神戸)といったJリーグ経験者など、年長者たちの献身ぶりも称える。


「チームが難しい状況で、キャプテンのキム・ヨングォンを中心にベテランが引っ張ってくれているのは常に感じています。なかには思うように試合に出られていない選手もいますが、それでもチーム全体をサポートしてくれており、コーチとしてありがたく思っています。彼らのことは2012年ロンドン五輪やそれ以前から知っていますが、やはり人間性が素晴らしい。どんな時も常にチームのために建設的な発言をしてくれるので、それを聞いて周囲も付いていかなければならないと感じるような、そんな影響をもたらしています」
蔚山はクラブW杯でボルシア・ドルトムント(ドイツ)、フルミネンセ(ブラジル)、マメロディ・サンダウンズ(南アフリカ)と同じグループFに入った。これまでオリンピックやワールドカップなどの国際舞台を経験した趙光洙としても、“4年に一度の祭典”に臨む意気込みは強い。
「自分は2021年にもクラブW杯を経験していますが、これだけ大規模な大会を戦える機会はそう多くありません。大会のフォーマット変更で4年に一度の開催になりましたし、そもそも出場するにはACLで優勝しなければならない。次にいつ出られるかわからない、簡単に出場のチャンスが与えられる大会ではないという意味でも、自分たちの持てる力を100%出し尽くしたいです」
グループステージの勝ち上がり次第では、決勝トーナメント1回戦で浦和と蔚山が激突する可能性もある。昨季まで蔚山で苦楽を共にした池田氏とは「今もよく連絡を取り合う」という趙光洙。クラブW杯の舞台で日韓コーチが再会——そんな巡り合わせにも注目しておきたい。(つづく)