【東コレ評vol.02】増田海治郎(ファッションジャーナリスト)「ショーに頼らないメンズ・ウィークの創設を」 | RBB TODAY
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【東コレ評vol.02】増田海治郎(ファッションジャーナリスト)「ショーに頼らないメンズ・ウィークの創設を」

エンタメ その他
「FASHION HEADLINE」では、2013年春夏東京コレクション評をジャーナリストやバイヤーの方々からお聞きしました。

第2回目は増田海治郎さんです。

回答者:
増田海治郎(ファッションジャーナリスト/クリエイティブディレクター)

Q1:よかったブランドとその理由
A:
・リトゥンアフターワーズ(writtenafterwards)
昭和の東北の閉鎖的な村の年1回のお祭りと、あらゆる時代、あらゆる国の服飾文化を飲み込んで再構築する日本のファッション文化への賛否をごちゃ混ぜにしたような、チープで荘厳な新興宗教の儀式のようなショーでした。現在の東京の若者が失いつつある編集文化を喜んでいるようにも悲しんでいるようにも見えたし、熱気があった昭和という時代への憧憬と、現在の日本をなんとなく覆っている閉塞感への憂いも感じました。全く表現方法は違いますが、ショーの数日後に見たブラックミーンズ(blackmeans)の展示会でも同じことを感じました。

相変わらず、着られる洋服はほぼありません。この点に関して、長く否定的でしたが、2008SSの「ヨーロッパで出会った新人たち」で日本での活動を開始していらい、山縣さんはちゃんと定期的にコレクションを発表し、食べていけているように見えます。「セレクトショップへの卸か直営店で洋服を販売する」というこれまでの常識を覆す、新しいファッションデザイナーの道を提示していると今では理解しています。

そんな彼ですが、2010AWで「罪と罰」と題した、リアルクローズのファッションショーを披露したことがあります。個人的にほぼ予想した通り、ロリータと戦前のヨーロッパ(農民より)と東京的なほっこりを混ぜ合わせたような服でした。このあたりの趣味は、元パートナーで現アシードンクラウドの玉井さんとすごく似ていて、一見では正反対に見える2人が一緒にやっていた理由が分かります。「このショーでスランプのような状態に陥った」とは山縣さんの弁ですが、今回で完結した「浦島アダム太郎物語」4部作の主人公であるアダムは、その混乱した状態の彼を投影した姿だったんだと思います。

晴れて“服の神様”となり成仏したアダムの鎧を脱ぎ去った山縣さんの次の提案が今から楽しみでなりません。いつになるか分かりませんが、次に彼が作るリアルクローズは罪と罰とは全く違うものになると思っています。

・エモモナキア(et momonakia)
テーマの中森明菜の名曲「TATTO」が発売されたのは1988年5月。まさにバブルの最盛期で、バブルと六本木を象徴するようなボディコンシャスな衣装も話題になりました。ショーは、明菜の最盛期の楽曲、ブランドの特徴であるエレガントさと独特の抜け感(攻撃性?)を併せ持ったドレス、六本木のメルセデスのディーラーという場所、会場にドンと鎮座するR230のSL63(65?)AMGが最高のハーモニーを奏で、完成度が高く、見て楽しめるショーになりました。

といっても、25年前の衣装をそのまま再現したわけではもちろんありません。演出こそバブル期の明菜のオンとオフを完璧なまでに再現していますが、それはあくまでパロディーであって、ちゃんとシーンごとにブランドの世界感を提示できていることに感心しました。TATOOの小花柄のドレスを、完全にボディに沿わせずに、少しの空間を作ることでエレガントさを表現したのは、その象徴と言えます。バブル時のような豪華絢爛さはありませんが、2012年の東京(2人のアトリエは関西ですが)のエレガンスがそこにありました。六本木という場所で、記憶の中のバブル(打ち上げ花火のように上がって消えていったDC世代のデザイナー)と今を対比し、文化の成熟を感じました。

・シセ(Sise)
マークスタイラー傘下になってから初めてのショーということで、心配と期待が交錯していましたが、シセらしいクリーンでミニマルな世界感はそのままにクオリティが1ランク上がった印象を受けました。途中でフェイドアウトするジャガードのチェック柄など、これまで不得手だった柄物も上手く取り入れていて、着実な進化が見て取れました。ただ、ひとつ気になったのが、テーラードジャケットの立体的な表情とショルダーラインです。シセは、エトセンス(ETHOSENS)と並ぶ“2大東京直線番長”で、直線的なパターンが特徴のひとつです。その武器があったからこそ、エディ・スリマンが退任して以降のディオールオム(Dior Homme)のファンを取り込めていたと個人的に思っています。今回展示会には行けてないので、詳細は確認できていませんが、クラシコ的な優美な曲線と少しだけコンケーブしたショルダーラインに少し違和感を覚えました。少年性はシセの最大の美点ですが、なんというか、ちょっと大人になっちゃった印象を受けたんです。これが松井君から自然に出てきたものなら否定しませんが…。

あと、ぼちぼちジャックパーセルから卒業する時期だと思います。シセなりのミニマルなホワイトスニーカーを次は見たいです。

・ジェニーファックス(Jenny Fax)
ジェンファンのショー・インスタレーションで、初めて理解できるものでした。家族の写真をTシャツにプリントしたり、妹をミューズにしたり、これまで坂部さん以上の変態っぷりを発揮してきたジェンファンですが、今回はバブル崩壊直後の日本のトレンディドラマの主題(愛はお金じゃないというバブル時代への批判)を通じて、最近忙しくてすれ違い気味というパートナーの坂部さんへの愛をストレートに伝えました。デザイナーと小説家は自分の内面をさらけ出してなんぼですが、今、一番堂々とはにかみつつそれができている人だと思います。

洋服に目を移すと、OLの制服的なものは難しいですが、だいぶ着られるものが多くなりました。パステルカラーや透け感のある素材を多用するのは坂部さんと似ていますが、キャラクターの配置の仕方が直截的で無造作なところがいいです。これを理詰めで配置したら着づらくなりますが、絶妙の手作り感というかストリート感がある。今の東京の若い女子にも似合うと思います。

・モトナリオノ(motonari ono)
第2次ヨーロッパ帰国組の中で、唯一継続的にショー形式で発表しているブランドです。当初は、ヨーロッパ的なエレガンスと秋葉原的なオタクカルチャーをミックスした露出度の高いキャラクターの衣装的風情でしたが、シーズン毎にオタク臭が抜けてエレガンスの方向へ邁進しております。今シーズンは、衣装を着せたボディをモデルが持って歩き、ステージ場に設置するという演出も見事でしたが、オタク臭が完全に消え、モトナリオノのエレガンスが完成した印象を受けました。また、ショー後の挨拶に毎回同じ衣装で登場していた小野さんですが、数シーズン前からテーマと連動した衣装を身に着けるようになり、メタボだった身体もマッチョに変身しつつあります。その本人の変化がコレクションに現れているような気がして、あらためて「洋服にはデザイナーの性格や生活の変化が無意識のうちに現れる」との思いを強くしています。

ただ、ファッション・ウィークではメインブランドのひとつになった感もありますが、作風とセレクトショップとの相性が悪く、卸先はまだヒト桁に留まっているのが現状です。ラブレスなんかでは芸能人に大人気みたいなので、卸に頼らないビジネスモデルの構築にクリエーションと並行して取り組んでほしいと思います。

Q2:今後期待できる注目ブランドとその理由
A:
・バルブドス(Barbudos)
演出、音響、スタイリスト、プレスなどを全てデザイナーの友人関係で作ったショー(本人はインスタレーションといっていましたが…)は、ショーのプロの手が介在していないがゆえにとても幼くアマチュア的でした。股間のふくらみが目立ってしまう5ポケットパンツをはじめ、アイテム自体の完成度の低さも散見し、印象に残るようなピース、ルックも正直ありませんでした。音の小ささ、ただ白い布を引いただけのランウェイ、2往復する演出と、資金の少なさがそのまま悪い形で見えてしまった。2012AWであれだけの世界感が作れたのに、本当に残念でした。

けれど、依然として自分の中の評価は変わりません。これほどまでに個性的で不完全で危うい魅力を持ったデザイナーは近年いなかったし、彼が過去に在籍したネペンテス、ナンバーナイン出身者が持つ共通のセンス(ビートニクとかパープルとかオンブレーチェックとか)を超える何かを持っているような気がしてならないんです。「自分の好きなモノを全部表現したら売れないから、今は3割程度におさえている」とは2シーズン目の展示会でのデザイナーの言葉ですが、無責任かもしれないかもしれないけど、80%くらい出しちゃっていいと思います。これだけドメスティック市場が狭まり、若い世代の洋服好きが減る中で、今、真の洋服好きに求められているのは圧倒的に個性的な服です。次、期待してます!

Q3:ほしいアイテム、オーダーしたもの。
A:
・欲しいモノ
ホワイトマウンテニアリング(White Mountaineering)のブルーのギンガムチェックゴアテックスパーカー
フェノメノン(PHENOMENON)のグリーンのペイズリー柄ブルゾン
シセ(Sise)のビッグサイズのプルオーバーシャツ、グラデーションチェックコート

・オーダーしたもの
エムズブラック(m's braque):サファリ風半袖ジャケットとなにか…
サカイ(sacai):デニムシャツとストライプイージーパンツ
パスカルドンキーノ(PASCAL DONQUINO):ハワイアンプリントのカーディガン
メイプル(maple):ハワイアンプリントのM65と同素材の半袖シャツ
トーキングアバウトジアブストラクション(TALKING ABOUT THE ABSTRACTION):転写プリントのクラッチバッグ、傘
ハトラ(hatra):デニムシャツコート
ティラック(tilak):半袖プルオーバーシャツ

自分的定番ブランドばかりですが、ハトラは初オーダーです。派手な柄物とベージュ&グリーンな気分で、来春はビンテージ(70?80年代のバナリパ、アバクロ、ウィリス&ガイガー)と現代を組み合わせたサファリスタイルに挑戦したいです。

Q4:今季のコレクション全体の感想
A:最後のシブフェスが盛り上がったので、気持ちよく約10日間を終えることができました。低調だった2012AWと違い、力のある人たちがちゃんと力を見せたシーズンだったと思います。今回から主会場になった渋谷ヒカリエ(9階)は、会場のキャパ、設備はいいのかもしれませんが、想像以上に一般の人の目に触れない場所で、ここでやるメリットが感じられませんでした。宮下公園にテントを作って、シブフェス的なノリが1週間続けば、世界に類のない個性的なファッション・ウィークになると思うのですが…。

Q5:東コレについて思うこと
A:世界と同様にショーを主体にファッション・ウィークを構成するのが本当に東京に合っているのかどうか、改めて検討する時期に来ていると思います。売り上げがファッションの全てではありませんが、「日本のファッションを世界へ」という題目を掲げている以上、「東コレを代表するブランドが卸先10件以下」みたいな状況は放置すべきではないと思います。「世界に対して東京ファッションの強みは何か?」ということを、現場を熟知した人間を交えて真剣に議論し、その強みに合わせた構成に再構築すべきです。個人的には、メンズの展示会ベースのブランドに強みがあると思うので、展示会の日程のみを合わせたショーに頼らないメンズ・ウィークの創設を願っています。

それと、運営側に大手セレクトショップの人材を入れるべきだと思います。ピッティ・ウォモ、NY、アジアと海外での発信は着実に形になりつつありますが、肝心の日本が放置されたままです。買う側の大手セレクトショップと東コレの乖離は今に始まった話ではありませんが、一部の人気ブランドを除き、大手セレクトショップのバイヤーの姿がほとんど見られない今の状況は明らかに異常です。今は透明な的に向かって矢を放っているようなもので、ショーと商が連動していません。ショーにかけた投資にリターンを求める時代ではないのかもしれませんが、それでもまずはちゃんとバイヤーに見てもらえるような環境を整備すべきです。また、地方セレクトショップの状況は年々厳しくなってきていますが、それでも膨大なショップ数があるので、地方バイヤーの招致(ここに補助金を使ってもいいと思います)なども検討すべきだと思います。

最後に。日本ファッション・ウィーク推進機構は、日本のファッション振興を目的に、川上から川下までの日本の繊維産業が大同連携し、2005年に誕生した組織です。コレクション事業に関しては、TSIホールディングスの三宅正彦会長兼社長をはじめ、大手アパレルの方々が運営に携わっています。JFWが始まってから7年の月日が経過しましたが、大手アパレルが自ら公式スケジュールのショーに参加したのは、サンエー・インターインターナショナル傘下のユニット&ゲストからデビューしたゼチア(今は独立)しか記憶がありません。自分たちでたくさんブランドを持っているのに、なぜ自ら参加しないのでしょうか。適したブランドがないなら、なぜ優秀なブランドを中に引き入れることをしないのでしょうか。この疑問をずっと持ち続けています。
《編集部》
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