【連載・日高彰のスマートフォン事情】徹底した戦略で「アメリカ版ガラパゴス」を脱するMotorola……日本勢は周回遅れ | RBB TODAY

【連載・日高彰のスマートフォン事情】徹底した戦略で「アメリカ版ガラパゴス」を脱するMotorola……日本勢は周回遅れ

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HTC Droid Incredible
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 日本はかつてPDC方式を採用していたために海外進出が遅れた、といった言われ方をすることがあるが、2000年ごろの端末メーカーの世界シェアを見ると、Nokiaが断トツなのは今と共通だが、同社に続く有力メーカーとしてMotorola、Ericsson、Siemensらがあり、その次の勢力にはパナソニックなど国内メーカーの名前が挙がることも多かった。トップ5まで食い込むことは難しかったが、海外の市場においても一定のシェアを確保していたことは間違いない。

 むしろ、通信方式が世界共通になった3G導入以降のほうが苦戦している。日本同様に2GでGSM方式を採用していなかった韓国のメーカーがその後大きく躍進したことからも、通信方式の違いが海外での不振の元凶という説明は必ずしも正しくない。

 同様に、かつての勢力を大きく失ったメーカーとして挙げられるのがMotorolaだ。特に米国市場で強い同社は、かつてはNokiaに続く世界第2位が「指定席」で、世界シェアの2割を取ることもあったが、2006年をピークとして急激に失速。その後現在に至るまでシェアは1ケタ台に低迷している。折りたたみ式の薄型携帯「RAZR」シリーズの大ヒットでシェアを伸ばしたが、その後RAZR以外のヒット商品を出せなかったこと、RAZRシリーズの中でも売れ筋が低価格帯モデルにシフトしていったことが失速の原因として指摘されている。

 名門通信機器ベンダーのMotorolaも、携帯電話部門の不振が会社全体の業績に与える影響が深刻なものになったため、他の歴史ある総合通信機器メーカー同様、端末事業を売却するのではないかといった見方が広がっていった。一部の経済誌上では、日本で好調なシャープが海外本格展開のためにMotorolaの端末事業を取得するのではないかといった説まで躍っていたほどだ。

 しかし、ここ1年のMotorolaは、台数ベースでの世界シェアこそ依然数%台にとどまるものの、市場における存在感と収益性という点では確かな改善が見られる。その理由は明らかで、思い切ってAndroidスマートフォンへとかじを切ったことにある。

 2009年秋に発売された世界初のAndroid 2.0搭載端末「Droid」は、ハードウェアキーボードをはじめとしてiPhoneに欠けている点を徹底的に突く戦略が、独占販売する携帯電話事業者・Verizon Wirelessの積極的なマーケティング施策とあいまって、米国の年末商戦における大ヒット商品になった。スマートフォン全体のOSシェアの推移を見ると、昨年末にAndroidの割合が急増しているが、増分のほとんどはDroidのヒットによるものと見られる。

 MotorolaはSymbianベースのアプリケーションプラットフォームであるUIQを長らく手がけていたが、そのようなオープンプラットフォームを利用したスマートフォンには主力と言えるほどのボリュームはなく、ビジネスの中心は依然として独自プラットフォームを利用して作られるRAZRタイプの端末だった。

 また、当初から決してAndroidへの傾注が強かったわけではなく、オープンプラットフォームではむしろ前述のSymbianへのコミットが強かったし、Linuxベースのプラットフォームを推進するLiMo Foundationにも創設メンバーとして加わっていた。しかし、次に大きく伸びるのがAndroidだと見るとこれを最優先にし、現在はLiMoの中心メンバーからは退いている。

 Droid自体はVerizon専用モデルで通信方式はCDMA2000だが、W-CDMA版にあたる「Milestore」は欧州の複数の事業者にも供給しており、Droidをベースにカスタマイズを加えたAndroidスマートフォンを世界各国に向けて出荷している。

 AppleやBlackBerryのResearch in Motionなどの躍進により、台数シェアで見るとMotorolaの順位は芳しくない。しかし、ハイエンド機であるAndroidスマートフォンがヒットしたことにより、普及機しか売れない低迷時期に比べると売上は大きく向上した。ハイエンドAndroid機のカテゴリにおいてはHTCと並ぶ「2強」の地位につけており、Android市場が急速に拡大する今、そのアドバンテージは大きい。

 日本の状況にそのまま当てはめて考えるのは早計かもしれないが、もともと国内市場に強みがあり、独自プラットフォームによるフィーチャーフォンを主力にしていたという意味では、日本の端末メーカーとも共通している部分がある。Motorolaは、Androidへのフォーカスという経営判断によって、いわば「アメリカ版ガラパゴス」に相当する状況から脱し、再び世界の携帯電話市場で戦う力を得つつあると言えるだろう。

 加えて言えば、同社のAndroidスマートフォンの成功は、DroidにおけるVerizonとの緊密な協力関係があって得られたものであり、日本でもしばしば見られる「通信事業者の意向が強かったりSIMロックがあったりすると端末メーカーの競争力が育たない」という主張も当てはまらないことになる。

 今月に入ってKDDIがシャープ製Android機の新製品「IS03」を発表し、これを皮切りに今期は国内メーカー製のスマートフォンがいくつか登場してくると考えられる。しかし、Androidスマートフォンの分野ではMotorolaやHTCが既に大きなプレゼンスを示しており、技術やノウハウも蓄積している。そしてSony EricssonやSamsungもAndroidにはかなり力を入れており、一方ではDellやAcerといったPC系の世界上位メーカーも相次いでAndroidスマートフォンを発売するなど、グローバルで見れば、早くも有力プレイヤーの座席は埋まりつつある。Androidで今後は世界へ、という戦略自体はともかく、そのスピードに関して言えば1年~1年半ほどの”周回遅れ”であり、巻き返しには相当の困難を乗り換える必要があると言えるだろう。(※)。

 さらに言えば、Android端末を出すだけならどのメーカーもたやすいだろうが、ユーザーの琴線に触れるUIの開発や、次々登場するクラウドサービスとの連携など、本当に魅力的な製品を提供するためには避けて通れない課題は山積している。おそらく重要なのは、「スマートフォンだ」「Androidだ」ということではなく、時代の変化を読んで大局的な経営判断を行うことができるかということだろう。積み上げ型の商品だけでは、スマートフォンにおいても早晩袋小路に入り込むことになりかねない。

※もちろん「スマートフォンなんていらない、むしろ従来型の端末がいい」「通話とメールができて、携帯サイトが見られれば十分」というユーザーは国内外を問わず今後も多く存在するだろうし、それがいけないなどというつもりは毛頭ない。ただし、少なくとも日本の端末メーカーについて言えば、そのようなニーズに向けた端末だけではもはや事業の存続自体が難しくなっているという意味である。
《日高彰》

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