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【新連載・日高彰のスマートフォン事情】端末・回線を別に選ぶ時代は確実に到来

ブロードバンド 回線・サービス
iPhone 4発売記念イベントの様子。写真は開店直後ソフトバンクショップ
  • iPhone 4発売記念イベントの様子。写真は開店直後ソフトバンクショップ
  • talking b-microSIMプラチナサービス
  • iPhone 4
  • サービス概要
 日本通信は先週8月31日、NTTドコモのFOMA網を利用したiPhone 4向け携帯電話サービス「talking b-microSIM プラチナサービス」の受付を開始した。新聞紙上には「iPhoneでドコモ回線が利用可能に」などという見出しが躍り、通信業界の大きなニュースとして取り上げられたようだが、実際に市場に与える影響はどれほどのものなのか。

■使用には端末の輸入が必要

 この話題がなぜ大きく取り上げられたかと言えば、それまでソフトバンクモバイルのネットワークでしか使えなかったiPhoneが、NTTドコモのネットワークでも使えるように道を開いたからだ。ドコモと比べてソフトバンクは相対的に設備投資額が小さく、サービスエリアの充実度では一歩劣るため、特に地方や山間部ではつながりやすさに大きな差がある。iPhoneは日本市場においても2008年の登場以来ヒットを続けており、ドコモユーザーの間でもiPhoneを使いたいという一定の需要はあるようだが、サービスエリアに関する不安を理由にソフトバンクへの乗り換えをためらう声は根強く存在する。

 そこへ、ドコモのネットワークを利用した通信サービスを提供している日本通信が、iPhone 4専用の通信サービスとして発表したのが「talking b-microSIM プラチナサービス」である。iPhone 4で採用されている「マイクロSIM」カードを単体で販売、ユーザーはこれをiPhone 4に挿入することで、月額6,260円でドコモのネットワークを利用した音声通話およびデータ通信が可能になる。

 しかし、このサービスではiPhone 4本体はユーザー自身が用意する必要がある。しかも、多くの読者の方々はご存じだと思われるが、ソフトバンクが販売しているiPhoneは、同社の専用SIMカードしか受け付けない「SIMロック」仕様となっており、talking b-microSIMを差し込んでも通話やデータ通信は行えない。

 一方、香港やイギリスなどでアップルが販売しているiPhone 4は、どの通信事業者のSIMカードでも利用可能な「SIMフリー」仕様だ。つまり、今回のサービスは、これら一部の海外市場で販売されているiPhone 4を現地購入ないし何らかの方法で個人輸入したユーザーしか使えないもので、利用にあたってのハードルは相当高いと言えるだろう。これまでドコモショップでしか携帯電話を購入したことがないユーザーが、「ドコモでついにiPhoneが使える!」といった思い立ってもすぐに利用できるようなものではない。

 加えて言えば、ドコモのネットワークが使えると言っても、「@docomo.ne.jp」のメールアドレスをはじめとするドコモの各種付加サービスは提供されないので、従来の一般的な携帯電話ユーザーが乗り換えるにはなおさら向かないサービスである。

 冒頭のニュースの「iPhoneでドコモ回線が利用可能に」という見出しは、せめて「輸入iPhoneで」といった書き方にでもしない限り、消費者の期待を過剰に煽るミスリードにつながりかねないのではないか。

■「端末と回線を別に選ぶ時代」の到来は確実

 おそらく、talking b-microSIM プラチナサービスを利用する当面のユーザー数は、日本の全iPhoneユーザーのうち「0.xパーセント」程度の、大手通信事業者にとってはごくわずかの数にとどまるだろう。しかし、このサービスの登場が見逃せないニュースであることは確かだ。

 なぜなら、今後スマートフォンを中心に、世界市場で販売されている新たなタイプの携帯電話端末が日本市場でも数多く発売され、またマシンtoマシン(M2M)の通信需要が拡大することは確実だからだ。通信事業者が仕様決定に深く関与し、事業者のサービスと密接に結びついていた従来の日本の携帯電話と異なり、スマートフォンはアプリやインターネット上のいわゆるクラウドサービスによってさまざまな機能を実現しているので、どの事業者の回線を契約しても、利用できる機能・サービスに従来ほどの差はない。フォトフレームのような機器に関してはなおさらだ。このような利用形態においてサービス品質や料金体系に不満のあるユーザーは、自分のニーズに合致する別の事業者に従来よりも躊躇なく乗り換えるだろう。

 現在でも、SIMフリー仕様のiPhone 4をドコモのSIMカードで利用することは可能だが、月額最大10,395円のパケット通信料金が発生する。日本通信は今回、iPhoneのパケット通信の利用状況を事前に調査し、発生する通信のパターンに応じて、ユーザーに過度のストレスを与えない範囲で通信速度を制限することで、月額6,260円という価格を実現した。無線ネットワークとして同じFOMA網を使っていても、通信サービスとしてはこのように別のメニューを用意できるということは、ニーズはあったにもかかわらず、従来の通信事業者のサービスだけではそれらのユーザーをすくい取ることができていなかったということでもある。

 最近ではAndroidでもiPadのようなタブレット型の端末が多数アナウンスされているが、そのような端末では必ずしも音声通話が行える必要はない。音声通話などの機能を省く代わり、従来よりも安く通信サービスを提供してほしいという需要は大きいだろう。現状ソフトバンクはiPad専用でそのようなプランを提供しているが、端末の多様化がますます進む中、新しい通信機器が日本市場にも入ってきたとき、通信事業者は消費者のニーズに迅速に応えられるだろうか。従来のように自社が販売する端末専用の料金プランでない、新しいタイプの端末でも使いやすいサービスに対する需要は、今後確実に拡大していくだろう。

 その兆候は既に一部に見られる。例えば、NTTドコモはノートPC用の「定額データプラン」を提供しているが、従来はこのプランのアクセスポイントに対してドコモの対応端末以外から接続することはできなかった(接続後すぐに強制切断されていた)が、最近ではその制限を撤廃し、適切な設定を行えばSIMフリー端末からの接続も可能になっている。この対応は公式なものではなく、オフィシャルには現在もこのプランの利用には対応機種が必要となっているし、再び予告なく元の仕様に変更される可能性もある。しかし、現状最も多くの通信帯域を消費するノートPC向けに定額制サービスを提供している以上、それよりは通信量の少ないスマートフォン等まで排除するよりも、むしろ料金収入につなげたほうが良いという判断がある可能性も考えられる。

 いずれにしても、携帯端末と言えば電話機だった時代には端末と回線をセットで販売する形態が最も受け入れられやすかったが、通信機器や利用スタイルの多様化によって、少しずつではあるが端末と回線をユーザーがそれぞれ別に用意したほうが便利なケースが生まれ始めている。今回のiPhone 4用マイクロSIMカードの登場は、そのような市場の変化を象徴する出来事と言えるかもしれない。

 さて、端末の販売と回線契約の分離と言葉で述べるのはやさしいが、実際には上のiPhone 4の事例でも触れたように、端末がSIMフリー(かつ、日本国内の技術基準等に適合していること)でなければならないというハードルがある。SIMロック/フリーの是非については時として善悪論になりかねないが、冷静かつより広い視野からの議論が必要だと考えられる。

(次回に続く)
《日高彰》
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