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【「エンジニア生活」・技術人 Vol.24】増殖するデジタルコンテンツを支えるHDD職人――日本シーゲイト・佐藤之彦氏

日本シーゲイト・フィールドアプリケーションエンジニアリング部シニアマネージャーの佐藤之彦氏
日本シーゲイト・フィールドアプリケーションエンジニアリング部シニアマネージャーの佐藤之彦氏
 「79年の設立から約30年かけて、今年ようやく10億台のHDDを出荷しました。そして、あと5年でもう10億台を達成する。それが我々のコミットメントです」と、日本シーゲイト・フィールドアプリケーションエンジニアリング部シニアマネージャーの佐藤之彦氏は熱く語る。

アメリカに本社を置く同社は、独立系では最古のHDDメーカーであり、HDD製品で世界最大のシェアを持つ。その内訳は、デスクトップPCやノートPC向けのパーソナルストレージ、基幹サーバやインターネットサーバ向けのエンタプライズストレージ、DVR、ゲーム機など家電向けのコンシューマ・エレクトロニクスストレージの3本柱で構成される。なかでも、テレビのハイビジョン化やビデオダウンロードの高速化で家庭内のデジタルストレージ需要が増大したことを背景に、コンシューマ・エレクトロニクスの分野は2000年以降急速な伸びをみせている。現在、デジタルデータの50%以上が家庭で作られるようになり、冒頭の「あと5年でもう10億台」の見込みもこの分野の成長に依るところが大きい。

「小型機器やモバイル分野ではフラッシュなど新しいテクノロジーも伸びていますが、デジタルワールドを支える根本的なデバイスとして、HDDは中核をキープし続ける。そういう確信を持って、日々仕事に専念しています」。大学を卒業後、日本コントロールデータ(1989年にシーゲイトが買収)に入社。以来27年間一貫してHDDに携わってきた佐藤氏はそう語る。氏が見てきたHDDの進化、そして現在のHDDに求められているものとはどんなものなのだろうか?

■顧客のニーズに応じた製品を作る
 佐藤氏が現在所属するフィールドアプリケーションエンジニアの部署は、米国本社で研究開発されたHDDを国内のメーカーに販売していくにあたり、顧客側の要望を米国のデザインセンターやアジアの生産工場にフィードバックするのが仕事だ。顧客にはPCや家電製品、サーバなどを手がける国内の大手企業が名を連ねる。15年ほど前までは、まずHDDメーカーが作った製品ありきで、各メーカーがそれに見合った製品を作るのが一般的だった。だが現在では、顧客のニーズを吸い上げ、それに対応したHDDを作ることが必要とされている。

 「例えば、新しいテクノロジーがブレイクスルーして容量が増やせるようになったときに、その技術をどう使うかは顧客のニーズ次第です。単純に1TBの製品を2TBにすることが必要な場合もありますが、場合によっては容量は1TBのままでサイズを半分にするのがベストな場合もあります。技術と顧客ニーズをてらしあわせながら、新技術を製品のどこに展開するかを考えなければいけません。必要のない機能はどんどんそぎ落とし、必要な機能に徹底的に技術を投入します。エンジニアとしての技術はもちろん、顧客のニーズをつかんで製品の提案を行う、気配りや話の仕方も重要です」と佐藤氏は語る。

 また、HDD単体で正常に動けばいいというわけではない。製品に組み込んだあとの性能や信頼性も重要になってくる。製品に組み込んでみたら不具合が出たときは、工場にフィードバックし、解決に向け調整を行う必要がある。場合によっては顧客をアメリカの本社に連れていったり、中国やタイ、シンガポールの製造工場にも同行する。製品の立ち上げ目前に障害があれば、ドライブを握ったままその日の夜の飛行機で生産工場に向かうということも日常的に行われている。

 「私が仕事を始めた1981年ごろの大型HDDは故障して当たり前、半年に1回は定期点検が必要な装置でしたが、現在は品質も非常に厳しい。1台100ドルくらいのものでも、もし障害が出て工場のラインが止まり、出荷時期がずれこむとなると甚大な影響を与えます。そういった深刻な問題が起きないよう、365日、24時間、常に問題解決できるまで努力します。HDDは物理装置ですから、いかに壊れないように作るか、維持するかが重要。工業製品とはいえ、お米を作るようにその日の気温、湿度も含めて厳しく管理していかないといいものができない。ありとあらゆるテクノロジーが集約された装置だと常に意識しながら、顧客に真摯な気持ちで対応したいと思っています」。

■HDDとともに歩んだ27年
 大学で工科系電気学を学んだ佐藤氏が、「海外の新しいテクノロジーに触れたい」とHDD業界に飛び込んでから、四半世紀以上が過ぎた。27年前のHDDについてたずねると、佐藤氏はおもむろに、LPレコード大の青いプラスチックケースをテーブルの上に出した。ケースの中には円盤が5枚入っている。

 「僕が入社して最初に扱った14インチのHDDです。全体は洗濯機くらいの大きさで、そのなかで多いものだと円盤が15枚くらい、ブルンブルンまわっていました。当時はエンジニアといっても、会社でつなぎの作業服に着替え、床にはいつくばってモーターを交換していた。その頃のHDDはAC交流モーターでまわしていたので、関東と関西で周波数が違うと回転速度が変わってしまう。だから顧客先でモーター、ベルトを替えたりと、原始的な時代でした。それが徐々に10インチ、5インチ、3.5、2.5、1.8となって、最後に1インチが出てくる。その変遷はとても感慨深いものがありますね。根本的な原理は変わっていないんですが」。

 HDDとともに歩んできた27年の仕事人生を「振り落とされないように、しっかりと握ってきた感じ」と振り返る。製品自体も小型化、大容量化と変化をとげたが、業界も、15年前には100社以上あったサプライヤーが現在では10数社に、メーカーは5社程度まで淘汰された。そんななかで第一線を走り続けてきた佐藤氏に、振り落とされないための秘訣をたずねると、「明日引っ越しといったときに、2時間で荷物をまとめられること」という意外な答えが返ってきた。それは、会社の吸収合併で人がどんどん増え、何度もビルを引越した経験からくる文字通り荷造りの技術であるのだが、さらにそのまま仕事への心構えの話でもあった。

入社して初めて扱った14インチHDDの円盤と、現在の2.5インチHDD
入社して初めて扱った14インチHDDの円盤と、現在の2.5インチHDD
 「フットワークを軽くしておきたいんです。27年というと、どうしてもねぐらを作ってしまいがちですから。もちろん、大切なものは20年でも30年でも残すけど、必要ないものは捨てる。キーワードや1枚の図面などエッセンスだけは残して、何かあったときには27年の経験から解答を導く。でも、それとて万能ではありません。未知のものを拒絶しないことです。一般ユーザーから電話があって、あるソフトをかけたら10分の1しか性能が出ないという。『まさか……』と思うけど、実験してみると言われたとおりの結果が出ることもある。それがきっかけで、ワールドワイドのお客さんにフィードバックできるかもしれないのですから」。

■異分野の空気を積極的に取り入れる
 この道一筋、押しも押されぬHDD職人である佐藤氏。だが実は、社内で有名なもう一つの顔があるという。それはなんと「ぶどう栽培の名人」だ。HDDとぶどう栽培――そのギャップがなんともユニークで、脱線を承知でつっこんでみると「今年は1房300gいきましたよ」と誇らしげに教えてくれた。手をかけただけ応じてくれるが、天候に左右され2〜3年不作のときもあれば、海外出張で収穫のタイミングを逃すこともある。その一筋縄でいかない感じがよいのだという。

 HDDに対して佐藤氏は「職人的なところも忘れたくない」「ノイジーなのかを耳で、熱いのか、振動しているのかを手で体感することが大事。エンジニアは五感をとぎすましていなければいけない」と語る。さらに「調子の悪いHDDには、『お前、どこか悪いのかい』という気持ちで、あるべき姿でいられるようにサポートし続ける」という。ぶどうに手をかけることと、HDDに手をかけることは、案外似ているのかもしれない。さらに、氏は続ける。

 「今、生命科学とか分子生物学とかバイオテクノロジーなどが非常にさかんになっていますが、そこにはエンジニアリング的な手法が取り入れられています。その分野をかじることよって、自分の専門分野にフィードバックがかかることもある。バイオにはノックアウトマウスといって、遺伝子のどこか1箇所を壊してどんな病気が発生するかを見る実験手法があります。私たちは未知の電子回路やプログラムを解析する際、丁寧に熟読して理解しようとしがちですが、場合によってはランダムにどこかを壊して、それによって発現した結果から個々の機能を理解した方が、数倍も効率がよいことがあります。今までのやり方を飛び越えて、見えてくるものがある。全く新しい分野へのアプローチや知識の導入で開けてくるものは、ゾクゾクするほど多いんです」。

 自分の得意なフィールドに閉じこもることなく、異分野の空気も吸ってしなやかに取り入れていく。佐藤氏ご自慢のぶどうのように、丹誠込めて世に送り出したHDDが、増殖し続けるデジタルコンテンツを今後も支えていく。
(RBB TODAY 2008年9月27日 14:45)
キーワード: エンジニア生活 シーゲイト ストレージ サーバ HDDレコーダー


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