シリコンバレーの「PACT 2009」でファイナリストに——ネットオフ
今回は米国以外のベンチャーで、なおかつシリコンバレーを拠点にグローバル展開を狙う企業が対象。カナダ、中国、韓国、南米など10カ国から47社がエントリーした。ファイナリストは1〜3社と、毎回、投資家の評価により異なる。今回は3社が選ばれ、その1社がここで取り上げる「ネットオフ」という会社だ。なお、PACTはあくまで起業家と投資家のマッチングが目的で、企業の優劣や順位をつけるものではない。ファイナリストは選出されるが、それは、投資家からもっとも注目を集めた企業、起業家ということだ。エントリーは47社、各プレゼン時間は3分程度。ファイナリストに選ばれると、さらにプレゼンする機会を与えられる。決して長いとはいえない時間で、いかに投資家の注意を惹くかがカギとなる。売り込む側も並のビジネスモデルでは見向きもされない。
そのファイナリストになったネットオフには、会場で、そして帰国してからも投資家からのオファー、大企業とのアライアンスの問い合わせが続いているという。ネットオフはどのような点が評価されたのだろうか。同社の代表取締役社長 黒田武志氏に聞いた。
ネットオフという会社は、名前から想像できるかもしれないが「ブックオフ」のベンチャー制度によって10年前に起業された。ブックオフの店舗部分をすべてネット化し、古書をメインに中古品市場におけるC2B2Cを手掛けている。古書や中古ゲーム機などを売りたい人は、宅配便でネットオフの倉庫に送付する。ネットオフでは店舗はいっさい持たず、ウェブからの注文に応じてこれらの中古品を販売していく。
これだけでは、なんの変哲もない中古品ビジネスだ。店舗も倉庫も持たないネットオークションのほうが、ビジネスとしてはリスクが少なく効率もよいと感じるかもしれない。しかし、ユーザーにとってネットオークションは写真撮影、コメント作成、発送などの出品の手間や、落札の場合の個人情報や中古品質への不安など、出品者、落札者にとって手間とリスクがついてまわり、決してユーザーフレンドリーなサービスとは言えない。
じつは、ネットオフのモデルでは、上記の問題がほぼクリアになる。売り手は商品の査定が済めば宅配便で送るだけだし、買い手はネットオフという中古ECサイトから商品を購入するだけだ。ネットオークションのような手間は不要になる。運営コストにしても、物理的な倉庫を動かす必要があるが、独自のシステムによって100万冊/月という物流を効率よく回すことで十分な利益を確保しているという(これについては後述)。
米国の投資家が注目したのは、ネットオークションやECサイトのモデルは多数存在するが、倉庫を持ちつつ仮想店舗での中古品ビジネスを展開するという点だったそうだ。このようなモデルはじつは米国には存在しない。なにより、4年前に事業が黒字化して以来、着実に成長を続け、売上で3200万ドル/年、利益で200万ドル/年もの実績をあげていることも重要だ。現地では、何度も金額の単位は「円」ではないのか、と聞かれたそうだ。
商品の仕入れを古書や中古品で対応しネット販売するだけで、これだけの業績は可能なのかと疑問が湧くが、その質問に対して黒田氏は、独自の倉庫オペレーションシステムと「3R+Respect」という話をしてくれた。
独自の倉庫オペレーションとは、一般的なロジスティックスよりもメーカーのラインのような考え方で、倉庫業務のスペース効率だけでなく作業の「動線」を考えた最適化と各業務工程でのJIT(ジャストインタイム)方式の徹底にあるという。実は黒田氏はトヨタ出身だ。トヨタといえば「カイゼン」方式によるプロセス管理が有名だ。ネットオフの倉庫にはトヨタのカイゼンノウハウが生かされているという。一例を挙げるとすると、注文が多い日だからといってピックアップをいくら速く行っても検品や梱包が追い付かないと最終的なスループットは向上しない。局所最適ではなく全体最適によってオペレーションの無駄を極力省き、工程全体にJITを根付かせるというものだ。「はじめのころは今日は注文が多いから頑張ろうということで、ピックアップを一生懸命やった。見かけは皆忙しく動き回っているので頑張っている感じがするし活気があるようにも見える。しかし結局は後工程で作業が滞留してしまっている。これを全体最適化することで改善した」と黒田氏は話している。
もうひとつの「3R+Respect」だが、リサイクル運動における3RはReuse、Reduce、Recycleに「Respect」(尊敬、敬意)を追加したもので、いわゆる「もったいない」に通じるものとして一部では4Rなどと呼ばれることもある。単に節約するだけでなく、モノを物として扱うのではなく、きちんと敬意を払うということだろう。ネットオフでは、いわゆるプレミアムビジネスは考えてはいないそうだが、ブックオフなどが採用する外観だけの一律買い取りではなく、タイトルなどを考慮して買い取る価格、商品を決定している。「仕入れ」なので当然だが、ネットオフは100万タイトル以上の価格データベースを構築しており、各バイヤーが人気や在庫状況を判断し、日々更新している。そのため、本のきれいさではなく、商品の価値を反映した買取価格となっており、人気商品は高価買取、美本でも人気のない商品は価格を抑えている。いわば、商品に対する理解や愛情をもってビジネスを展開しているというわけだ。
仕入れや販売については、ネットによるメリットを活用しつつ、独自のオペレーションとポリシーで倉庫と商品というリアルなビジネスを効率化し、リーマンショック以降も確実に業績を伸ばしているネットオフは、倉庫のオペレーションなどリアルに依存しているので、スマートじゃないという見る向きもあるかもしれない。しかし、ネットやサービスありきの草食系ベンチャー企業が氾濫する中、同社のビジネスモデルは、目の肥えた米国の投資家にはむしろ新鮮であり、PACTのファイナリストに残ったというのも、黒字決算というまぎれもない事実を率直に評価した結果かもしれない。
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