「Stray Kidsの公演で、16歳のファンが亡くなった」
そんな印象を与える情報がSNSで大きく拡散している。
きっかけとなったのは、アルゼンチンで開催された音楽イベント「STRAYCITY」をめぐる投稿だ。
Stray Kidsの写真を大きく使い、「16歳の少女がコンサートで体調を崩し、病院で亡くなった」と伝えた投稿は、150万回以上表示された。
ところが、現地報道や主催者の発表をたどっていくと、SNSで広がった印象とは異なる事実関係が浮かび上がってくる。
本当の情報は、どこで違う“物語”に変わったのか。
「コンサートで倒れて死亡」150万表示
9月14日、アルゼンチン・ブエノスアイレス近郊のサン・イシドロ競馬場で「STRAYCITY」が開催された。

Stray Kidsがヘッドライナーを務め、NEXZ、K4OS、Cochoが出演するイベントだった。その日の夜、10代の少女が体調を崩し、病院へ搬送された後に亡くなった。
この出来事を伝えたSNS投稿では、Stray Kidsを大きく配置したイベントビジュアルとともに、「16歳、コンサートで体調を崩し、死亡」という趣旨の情報が拡散された。
これに対し、コメント欄では「なぜグループの写真を使うのか」「公演中に亡くなったように見える」「アーティストには関係ない」など、投稿の見せ方を疑問視する声が相次いだ。
実際、Stray Kidsはイベントの中心的な出演者であり、その写真を使うこと自体が不自然というわけではない。
問題は、画像そのものではなく、その画像と一緒に何が省かれて伝えられたかだ。
実際に倒れたのは「入場前」
アルゼンチン主要紙『Clarín』や現地メディア『AIRE』などは、亡くなったのは16歳の少女だったと報じている。
一方、主催者DF Entertainmentは声明で、年齢や性別には触れず、「9月14日午後7時ごろ、STRAYCITYフェスティバルに入場する前、サン・イシドロ競馬場周辺で1人が倒れた」と説明している。
続けて「救急スタッフが直ちに対応し、サン・イシドロ中央病院『Dr. Melchor Ángel Posse』へ搬送した。しかし残念ながら、蘇生措置にもかかわらず、その後まもなく亡くなった」と述べた。
つまり、少なくとも「Stray Kidsのステージ中に倒れた」という出来事ではない。
さらに重要なのは、そもそも「STRAYCITY」がStray Kids単独公演ではないことだ。彼らはヘッドライナーだが、複数のアーティストが出演するイベントだった。

現時点で確認できる主要な現地報道や主催者発表でも、亡くなった少女がStray Kidsを目的に来場していたのか、あるいは公式ファンダム「STAY」だったのかまでは確認されていない。
正確にいえるのは「STRAYCITYに入場しようとしていた10代の少女が、入場前に体調を崩し、その後亡くなった」というところまでだ。
ところがSNSでは、この出来事が次第に「Stray Kidsのコンサートでファンが亡くなった」という形で共有され始めた。
さらに「亡くなったSTAYを追悼」に
話はここで終わらなかった。
翌9月15日の公演前、会場の大型スクリーンには追悼メッセージが表示され、1分間の黙とうが呼びかけられた。
そこには英語で、「STRAYCITYフェスティバルのファンが、9月14日にフェスティバルへ入場する前、突然の医療緊急事態を経験した後、亡くなったことを知り、深く悲しんでいます」という趣旨の文章が表示されていた。
注目したいのは、「Stray Kidsのファン」ではなく、あくまで「STRAYCITYフェスティバルのファン」と表現されている点だ。
ところが、この画像を紹介した別のSNS投稿では、「Stray Kidsが、昨日亡くなったSTAYを追悼して黙とうを呼びかけた」と紹介された。
ここで「STRAYCITYフェスティバルのファン」が「STAY」に変わった。
Stray Kidsがヘッドライナーで、少女がSTRAYCITYを訪れており、翌日に会場で追悼が行われたという、一つひとつは事実だ。しかし、それらをつなぎ合わせる途中で、「少女はStray Kidsファンだった」「Stray Kidsのコンサート中に亡くなった」という、確認されていない情報まで補われていったことになる。
“嘘”はゼロから生まれるとは限らない
今回のケースが興味深いのは、完全な作り話が突然生まれたわけではないことだ。

「Stray Kidsが出演していた」「少女が亡くなった」「翌日の会場で黙とうが行われた」といった情報は、現地メディアや公式発表で確認できる事実だ。
だが、「入場前」という重要な情報が抜け、「STRAYCITY」が「Stray Kidsのコンサート」と言い換えられ、「来場者」が「STAY」へ変わった。完全な作り話が付け加えられたというより、確認されていない部分が、もっともらしい情報で少しずつ埋められていったのだ。
その結果、「Stray Kidsのファン=STAYが、Stray Kidsの公演中に倒れて亡くなった」という、確認されていない印象まで広がった。
確認できるのは、STRAYCITYに入場しようとしていた少女が入場前に体調を崩して亡くなり、翌日の会場で追悼が行われたというところまでだ。
SNS時代の誤情報は、必ずしも“ゼロから作られた嘘”とは限らない。本当の情報から何かを削り、確認されていない部分を補い、少し強い言葉に置き換える。その積み重ねだけでも、まったく違う印象は作られてしまう。
今回の一件は、その危うさを象徴している。
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