森保一とホン・ミョンボ。日本と韓国のA代表を率いる監督が特別対談を行ったというニュースは、すでに多くのサッカーファンたちの間で話題になっている。
「森保監督と洪明甫監督が初めて語り合った ドーハ、フランス大会予選、日韓共催…、サッカー日韓対談」「2026年W杯へ、森保監督と洪明甫監督が描く景色とチーム作り “仲間であり、ライバル”」とした日本メディアだけではなく、「洪明甫・森保一監督、3年ぶりの韓日戦を前に異例の対談」(一般紙『朝鮮日報』)、「ホン・ミョンボ-森保、韓日司令塔、初の特別対談を実施」(スポーツ紙『スポーツソウル』)など、お隣・韓国でも大きな話題になっているほどだ。
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現役の代表監督同士が対談するのは史上初
ただ、それも当然だろう。何しろ日韓の代表監督が初めて膝を突き合わせた対談だ。かれこれ30年近く日本と韓国のサッカーの現場を取材してきたが、日韓の代表監督、それも現役の代表監督が膝を突き合わせて語り合う記事も場面も見たことがない。まさに「歴史的な」対談だった。

このスペシャル対談を実施したのは共同通信。そして、ホン・ミョンボ監督とKFAに今回の企画を提案し、取材から来日全般をコーディネートしたのが筆者なのだが、なぜこのタイミングで日韓の代表監督が語り合うことになったのか。
それは今年が「日韓国交正常化60周年」ということが何よりも大きい。このメモリアルな出来事を祝い、日本と韓国の過去・現在・未来についてサッカーを媒体にして考え語り合ってみようという企画意図に、日韓の両監督が賛同したことによって実現したスペシャル対談なのだ。
ホン・ミョンボの日本への理解
それにしても、改めて驚かされたのは、ホン・ミョンボの日本文化への理解とリスペクトだ。空港に到着するなり出迎えたスタッフたちに一礼して労い、行きつけのラーメン屋では行列に並び、町を歩いて握手や記念写真を求められると嫌な顔ひとつせず、丁寧に応じていた。対談中は森保監督の言葉を日本語で聞き取り、すぐに受け答えする場面もあったほど。
「行列もファン対応も、私にとっては特別なことではないですよ。Jリーグ時代に学んだことです(笑)」
1997年7月に28歳でJリーグ進出。最初はベルマーレ平塚に所属し、1999年から2001年まで3シーズン在籍した柏レイソルでは韓国人選手として初めてJリーグのキャプテンを務め、レイソルのナビスコカップ優勝に大きく貢献した。
徹底した勝負根性と自己犠牲の精神を訴え続け、大事な試合前になるとチームメイトを行きつけの焼肉屋に集めて、自腹を切って決起集会を開くこともあったという。
本人は「割り勘文化に馴染めなかった」と謙遜していたが、ホン・ミョンボは韓国人Jリーガーがその存在感でチームに好影響をもたらすことを示した、最初の成功例でもあった。
そのJリーグを離れてかれこれ20年近くになるが、日本との繋がりが途切れることはなかったという。
Jリーグを離れ24年経っても続く「日本との縁」
引退後の2005年には井原正巳とともにEAFF(東アジアサッカー連盟)広報大使を務め、2009年からアンダー世代の韓国代表監督を務めるようになると、当時Jリーグで活躍していた韓国の若手選手たちを視察するために日本各地を飛び回った。
韓国代表初の日本人コーチングスタッフとして池田誠剛氏を参謀として迎え、2012年ロンドン五輪では関塚ジャパンとメダルマッチも戦っている。2014年ブラジルW杯での指揮を経て、2016年から4年間務めたKFA専務理事時代には東京で行われたシンポジウムに参加した。
2021年からKリーグの蔚山(ウルサン)HD監督に就任すると、天野純(2022年)、江坂任(2023年~2024年)といった日本人選手を積極起用。Kリーグ連覇も成し遂げ、ACLの舞台でJリーグ勢と好勝負を繰り広げた。
そんな途切れることない日本との縁もあり、今でも親交を深める友人たちも多い。1997年W杯最終予選でしのぎを削り合った岡田武史氏も、2001年Jリーグ・オールスターで意気投合して以来、今でも頻繁に連絡を取り合う仲だ。薩川了洋氏、渡辺毅氏といった柏レイソル時代のチームメイトたちとの関係も続いている。
今年2月にJリーグ視察のために来日した際には、レイソルでともに戦った西野朗氏と久々に再会して酒を飲み交わした。レイソル時代の思い出話に始まり、監督業のやり甲斐と難しさ、さらには指揮官としてW杯を戦った者同士だからこそ分かり合える苦悩とプレッシャーなども語るなど、話は尽きなかった。
それだけに森保一監督との対談も有意義な時間になるという確信はあったが、予想通りに話は弾み息も合った。
対談の模様を収録した動画を見ても感じ取れるはずだ。
ともに1968年生まれ。日本と韓国がしのぎを削り合ったW杯アジア最終予選の激闘やJリーグの熱狂、2002年W杯から今日まで続く日韓の切磋琢磨を、ときに選手として、ときには指導者として見てきただけはある。
まさに現場の最前線を知るふたり。ふたりが語った言葉には真実性があり、日韓サッカー交流の過去・現在・未来を語り合うには十分すぎる説得力だった。
そんなふたりが今度はピッチの上で対峙する。7月7日から韓国で開幕した『EAFF(東アジアサッカー連盟)E-1サッカー選手権2025決勝大会』。東アジアのナンバーワンを決める国際大会で雌雄を決する。

国際Aマッチデー開催ではないため、ともに欧州組の主力を欠いた布陣で臨むことになるが、双方ともにワールドカップを決めた今、E-1選手権は新戦力発掘のための貴重な機会にもなる。それだけに両監督も選手たちに期待を寄せている。
同じアジアの仲間であり、ライバルである国がすぐそばにいることで「成長できた」と語ったふたり。切磋琢磨できるライバルがすぐ隣にいる日本と韓国。この事実は、限りなく尊い。
文=慎 武宏
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