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【「エンジニア生活」・技術人 Vol.20】IPTVで10年越しの「放送と通信の連携」を目指す――NTTコミュニケーションズ・松岡達雄氏
NTTコミュニケーションズ 先端IPアーキテクチャセンタ 端末・配信プロジェクト 担当部長の松岡達雄氏
「放送と通信の連携」というキャッチフレーズが話題を呼び始めてからすでに10年以上が経つ。ネットワークインフラや放送のデジタル化など、技術的には格段の進展があったが、肝心の“連携”を体感できるようなサービスは展開されてきたとはいいがたい。「やはり10年も関わっている分野ですから、『これぞ放送と通信の融合だ!』といえるようなものを出したいですよね」。NTTコミュニケーションズ 先端IPアーキテクチャセンタ 端末・配信プロジェクト 担当部長の松岡達雄氏はそう語る。
松岡氏は、映像のネット配信やB-CASの立ち上げなど、映像配信や通信・放送に関する事業に携わってきた人物だ。そんな氏が現在NTTグループの一員として関わっているのがIPTVの標準化だ。
さまざまな人々の注目を集めながら、なかなか本格普及できずにいたIPTVだが、NGNの整備進行を背景に、ついに国内でもその推進が加速し始めている。今年5月、通信事業者や家電メーカー、放送事業者らが参加する中間法人「IPTVフォーラム」が発足。この秋にはIPTVの標準技術仕様のバージョン1.0を公開する予定だ。
IPTVの規格標準化は、総務省が立ち上げた任意団体時代から、数百回に及ぶ会議を行ないながら進められてきた。現在正式版の発表に向けて調整を行なっている仕様書は、二千数百ページものボリュームとなっているという。「現在はすでに特許など権利関係の手続きに入っている段階です。参加各社が保有する特許などで必要なものがあれば、何らかの形で許諾を取って合意を固めていっています」。
この仕様書では大きく分けて4つの技術の標準化が図られる。「IP放送」、「VOD(Video On Demand)」、「地上デジタル放送のIP再送信」、「ダウンロードサービス」だ。ダウンロードサービスに関しては、まだ少し課題が残されているというが、そのほかの3つのサービスに関しては、テレビに搭載可能な形で技術仕様が決まり、世に送り出されるという。このうち、松岡氏が深く携わっているのは「地上デジタル放送のIP再送信」の分野だ。
■異なる既存のリソースをまとめ上げる
そもそも地デジ放送のIP再送信とはどういうことだろうか。テレビ局は番組データを電波に乗せて放送する。この放送データをアンテナで受信して、IP網に乗せて配信するのが「IP再送信」だ。ただし、再送信といっても、ここで流される放送はリアルタイムであり、2回3回と繰り返し流されるわけではない。ユーザー側から見ればIP網を使っての同時放送といってもいい。
だが、ユーザーにとっては通常の地デジ放送と変わらなくても、使用する技術はかなり異なる。地デジ放送では、MPEG2形式の映像データと音声データ、制御情報が同時に送信されている。IPTVで再送信を行なう場合、まず映像データを取り出して、H.264形式に変換する。そして、変更を加えたことを伝えるために制御情報の書き換えを行なう。また、地デジとIPTVでは著作権保護の方式も異なる。地デジ放送は不正コピーを防ぐためにB-CAS方式で保護がかけられている。そのため、通常の視聴の際は、ビーエス・コンディショナルアクセスシステムズが提供するB-CASカードで暗号化を解除する必要がある。これに対し、IPTVではMarlinという保護方式を採用している。Marlinは、もともと家電製品向けに開発が進められていたDRM方式で、メーカー各社が相互運用できる形を目指して策定されたものだ。IPTVで再送信する際には、この保護方式も変更する必要がある。再送信では、こうしたデータの変更を行なった上でIP網に流す必要があるのだ。
「こうしたトランスコードを行なうときに、その分放送の遅延が起こってしまいます。多少遅延が出てしまうのは仕方ないにしても、あまり遅れてしまうと問題になってしまう。放送局側からも『遅延は2.5秒以内に納めるように』といったように指定がくるわけです。遅延をそれだけ短い時間に納めるのは結構難しいんです」。もちろん音声と映像が完全に一致するようにといった条件も加わる。単独のサービスと異なり、再送信となるとさまざまなシビアな条件が求められるのだ。
また、困難なのは送信側の設備だけではない。テレビ側にも正しく受信して再生する機能が必要になる。ここで問題になったのは、各メーカーのリソースの違いだ。「家電メーカーにはそれぞれ今までの製品で使ってきたチップセットなどの既存のリソースがあります。あるメーカーでは実装できるが、別のメーカーでは実装できないというのでは困る。すべてのメーカーで使えるような仕様にするのが難しい点でした」。
■複雑な権利関係をどうクリアするか
さまざまなメーカーや放送事業者をまたいで行なわれる標準化は、一般的な技術開発とはまた違った難しさもある。松岡氏はその困難さについてこう語る。「自分たちだけでやっていて、技術的に完結してしまえばいいのであれば、技術の合理性だけで決めればいい。ですが、再送信のようにコンテンツがらみの事業の場合、著作権などの権利や法律上の制限などの問題も出てくる。もちろん技術的なハードルも高いですが、同時に単純に技術だけでは進められない面もあるんです」。
再送信に関していえば、権利上の問題によってインフラも特定のものに限定せざるを得ない状況にある。放送免許の問題だ。「地上放送というのは免許制で、さまざまな規定があります。たとえば東京の放送が、そのまま静岡や大阪といったほかの県に届いてはいけないことになっている。しかし、インターネットでサーバを立てて再送信するとなると、県外どころか世界中で視聴可能になってしまう。これでは再送信の許可が下りないんです」。世界中どこでも視聴可能というインターネットの利便性が、現行の国内法の条件下では逆に障害になってしまうのだ。そのため、IPTVによる再送信は、ほかの地域での視聴が可能とならないように、地域限定配信を行なうことのできるNGNネットワークがインフラとして必須になるという複雑な状況に置かれているのだ。
■普及への勝負はこの1〜2年
技術的ハードルや権利上のハードルなどを乗り越え、IPTVは普及に向けて第一歩を踏み出す段階に入った。しかし、松岡氏は、IPTVはまだCATVサービスと同じ舞台に立っていないと指摘する。CATVはIPTV同様、電波の届かないエリアに放送の再送信サービスを提供している。再送信の分野では直接的な競合先に当たる事業者だ。「IPTVはまだBSの再送信ができるようになっていません。特にCATVに対抗してサービス展開を行なっているわけではありませんが、現状では売り込みにいったとしても、BSが見られないとなると『ならCATVでいいよ』といわれてしまいかねない。BSの再送信ができるようになって、ようやくCATVとサービスメニューが同じになるんです」。
残された課題はそれだけではない。同一世帯内で見ることのできるチャンネル数も現時点ではまだ制約がある。「サービスの制約を解消して、まずはサービスレベルとしてもCATVと同等のところまで持っていかなければいけない。さらにそこから、今度はIPの特性を活かしてケーブル以上のサービスを展開していく必要があります」。
松岡氏はこうしたIPTVの課題のクリアと普及はここ1〜2年が勝負だと考えている。「再送信を含めたIPTVというサービスは、アナログ放送が終了する2011年までに、いかにテレビを買い換える人たちを取り込んでいけるかが重要だと思っています。ですから、勝負はここから1〜2年。3年はないと思っています。2011年にはおおかた決着が付いてしまうわけですからね。だから、それまでに何らかの手を打って、サービスそのものの魅力を上げていく必要があります」。
そのためのポイントの1つとして松岡氏が挙げるのが簡単さだ。簡単さは、技術仕様に盛り込まれる。IPTVフォーラムの仕様では、テレビをLANにつなげば、テレビ側が自動的に必要な情報を集め、設定を行なうように規定しているという。そして、IPTVならではの魅力として挙げているのがモバイルとの連携だ。「IPTVでずっと言われているのは、“トリプルプレー”という部分。光回線を1本引けば、電話もネットも、テレビを含めた映像コンテンツもすべて揃う。ネットに関しては我々に強みがあると思います。もちろん電話に関してもです。特に電話の場合は、今後さらにモバイルとの連携を取っていかなければ行けないと思います。これに関しては1〜3年程度、そう遠くないうちになんとかしたいと思っています」。
可能性と同時に課題も多いIPTVだが、ここ数年で着実に前進している。「それこそ10年くらい前は、放送局などもコンテンツのネット配信に対する警戒心が非常に強かった。『IP網で放送をするなんてとんでもない』という雰囲気がありました。それが今はフォーラムで一緒に話をしている。昔から考えるとビックリするくらいですね(笑)」。10年越しの“連携”が結実する日もいよいよ近づいているのかもしれない。
(小林聖@RBB 2008年8月30日 10:27)
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