農商工連携と六次産業化、制度利用をビジネスに活かす/前編 | RBB TODAY
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農商工連携と六次産業化、制度利用をビジネスに活かす/前編

ビジネス 経営
ネロリの島カフェ/皮剥き作業の様子
  • ネロリの島カフェ/皮剥き作業の様子
  • ネロリの島カフェ/CAFE店内
  • ネロリの島カフェ/商品より「アロマオイル」
  • ネロリの島カフェ代表の矢頭真弓氏
  • 広島県のレモン生産量年間推移
  • 規格品レモン1kgあたりの取引単価
★広島県の瀬戸内沿岸エリアで始まった事例から学ぶべきこと

●前編(農商工連携):「ネロリの島カフェ」~コンサルティング会社が地域特産品で島をリニューアルする~
●後編(六次産業化):「とびしま柑橘工房」~農家との直取引のなかで農家の課題を解決する~


「六次産業化」と「農商工連携」。この2つの言葉の違いをご存知だろうか。六次産業とは、あくまでも農家が単独で生産→加工→販売まで一貫した事業を展開することであり、農商工連携とは、農家が専門の商工事業者と提携した共同事業の形でお互いのノウハウや特徴を生かした商品を開発・製造・販売することである。両者はそれぞれ「六次産業化法(農水省)」と「農商工連携促進法(農水省・経産省)」という制度の中で、補助金、助成金等などの支援を受けられる仕組みになっている。

 広島県中央部の瀬戸内に面した呉市安芸灘地区。この地域の特産である柑橘を手がける農家の所得増・生産性向上による地域活性という同じ目標に向かって活動する2つの事業体がある。農業の六次産業化を標榜する「株式会社とびしま柑橘工房」と、農商工連携による収益事業に取り組んでいる「株式会社HR(ネロリの島カフェ)」だ。特集「六次産業化と農商工連携、制度利用をビジネスに活かす」では前・後編の2回に分けて、具体的な手法や取り組みについて紹介する。

 まず、この地区の歴史と特徴を説明しておこう。

 広島県の瀬戸内沿岸エリアのほぼ中央に位置する呉市の島しょ部の東側4島=上蒲刈島、下蒲刈島、豊島、大崎下島は、江戸時代は海洋交通の要として賑わった。中でも大崎下島の御手洗は、潮待ち・風待ちで米北前船が停泊する商業港として大きな発展を遂げ、今でも江戸時代の町並みを残す御手洗地区は、歴史保存地区となって観光名所となり、島に移住して古民家をゲストハウスに改装・経営する若者も出てきている。

呉市島しょ部、とびしま海道の風景(提供:マイコンシェルジュ)


 この島しょ部の主要産業は、瀬戸内の温暖な気候と急な斜面を利用した陽当たりの良い段々畑で栽培される柑橘農業。中でもレモン栽培が盛んで、地名からとった「大長檸檬」は全国に知れたブランドである。広島県は国産レモンの約6割を生産する全国一のレモン生産県であり、その広島県の出荷の過半数がこの地区で生産されている。この地区のレモン栽培は100年以上の歴史があり、最盛期には1,000件を越すレモン農家が存在したが、昭和39年の輸入の自由化によって安価なカリフォルニアのレモンが大量に流通するうちに、国産レモンは取引価格が暴落してこの地区でも栽培をやめるレモン農家が続出した。

 2008年、島の活性化のために呉市川尻町から下蒲刈島ー上蒲刈島ー豊島ー大崎下島ー平維島ー中ノ島ー岡村島(愛媛県)を繋いだ安芸灘諸島連絡架橋(通称:とびしま7つ橋)が完成して、島は本土と橋で繋がる。近年では、瀬戸内海特有の多島美を眺めながらドライブやサイクリングができる「とびしま海道」を、尾道=今治を結ぶしまなみ海道に続く観光地にしようと行政も動き出してはいるが、大きな流れとしてはレモン栽培よりも収入の多い仕事に就こうとする若者が島から出て行く典型的なストロー現象に悩まされ、直近10年間でこの地区のレモン農家は約300件~400件と最盛期の約3分の1に減ってしまった。(ただしレモンの生産量はこの10年間で倍増している。その理由は後述する)

■「ネロリの島カフェ」~コンサルティング会社が地域特産品で島をリニューアルする~

 2012年春、呉市川尻町から安芸灘大橋で繋がる下蒲刈島から4つ目の島となる大崎下島と、大崎下島の小長港からフェリーで繋がる大崎上島。柑橘栽培が盛んなこの2島を中心に、「島のさまざまな資源を活用して、島を元気にする仕組みをつくりたい」という志を持つ地域おこしグループ「瀬戸内ネロリウム協議会」が発足した。この協議会では、地域の農商工連携事業の成功事例を目指して、柑橘の葉やつぼみで作ったハーブティーやアロマオイルなどの製造・販売を行なっている。協議会の代表である、角南正之氏(大崎上島で唯一の観光旅館「きのえ温泉 清風館」の代表取締役社長)から、本事業の効果的な運用方法を相談されたのが、同協議会のメンバーでもある株式会社H・Rの矢頭真弓代表である。


 矢頭氏は大学を卒業した数年後、広島市内で地元企業のPRやマーケティング支援を行う広告代理店を起業した。矢頭氏が個人的に懇意にしていた会社のひとつに広島県を拠点にしたアクト中食(株)という食品系の地域商社がある。アクトグループは広島県から県内の食品事業者の海外販路について相談されるうちに、同社初の海外拠点となる中国上海支社を立ち上げることになり、アクト中食の社長から矢頭氏に白羽の矢が立った。矢頭氏は経営する広告代理店をアクトグループに経営統合させる形で合流して上海に赴き、現地の販路拡大を目指して現地の流通業者と日々交渉する難易度の高い業務を遂行していた。

 2006年、上海から帰国した矢頭氏は、広島市内で地元企業に密着した財務や人事業務に関する助言や経営指南を行う「株式会社H・R」というコンサルティング会社を起業する。そして角南社長から相談された「ネロリの島協議会」の活動に取り組んでいくうちに、自らが描いた農商工連系事業の受け皿となる指定事業者として名乗りを上げることになる。

 矢頭氏に地域活性化事業に転じた理由を尋ねると「誰もやらないから手を挙げたら成り行きでこうなった」と笑って応えるが、筆者は「顧客の悩み事を自分ゴトで対応してきた生粋のコンサルタント魂」だと感じた。大崎上島は彼女が生まれ育った故郷ではないが、縁のあった大崎下島で地元の特産品を使って興した事業は、地元の農協や地域内外の事業者と連携しながら確実に地域に根付いた事業者となっている。

 2016年春、矢頭氏は大崎下島の小長港に直結した古い建物を呉市から借り受け、総務省の補助金を使ってその建物を改修して柑橘果実の蒸留オイルを製造する工場と、柑橘をテーマにした飲食店「ネロリの島カフェ」を開業した。創業初年度の年間売り上げは約3,000万円、収支は少し赤字だという。矢頭氏自身のキャリアで得た人脈を活かして販路開拓した結果、同社から精度の高い柑橘オイルを購入したいという取引業者からの依頼が集まり、需要にまだ生産が応じきれていない。今後は活動拠点を大崎下島に移し、「ネロリの島カフェ」事業を自社の中心事業に据え、事業目標値を「売上1億円/雇用スタッフ20名(アルバイト含む)」と掲げている。このように行政が推進する農商工事業者として事業の収益化に取り組みながら、「瀬戸内ネロリウム協議会」の志である“島の資源を活用して島を元気にする”活動に取り組んでいく。

 目下の課題は「人材の定着」。現在は8名(アルバイト含む)のスタッフを雇用している。年間で100t以上のレモンの皮を剥くのは技術を要する手作業だが、この作業が単純作業と思われるせいか、なかなか人が定着しないという。雇用が安定しないと生産が拡大できず、需要に応じられない。雇用問題を解決して生産を増やして得た収益を雇用に再投資していく、この好循環をいかに確立するか?が島の活性化のカギを握っている。


★(株)H・Rがこれまでに活用した補助金
(いずれの補助金も必要な資金の2/3或は1/2なので、補助金とほぼ同額の自己資金を注ぎ込んでいる)

◎小規模事業者活性化補助金
・目的:研究開発費として 
・平成25年度:交付決定額1,730,205円(確定額1,615,883円)

◎補正ものづくり・商業・サービス革新補助金
・目的:機械導入費として
・平成26年度:交付決定額5,990,000円(確定額5,138,208円)

◎地域経済循環創造事業 
・目的:工場およびカフェ開設費用として
・平成27年度:交付決定額23,448,000円(決定額23,448,000円)

◎小規模事業者持続化補助金
・目的:販路開拓費用として
・平成28年度:交付決定額571,036円(確定額466,666円)
《三浦 真/HANJO HANJO編集部》
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