【テクニカルレポート】高信頼・大量データの情報通信サービスを支えるブロードバンド光ネットワーク技術――日立評論~前編 | RBB TODAY
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【テクニカルレポート】高信頼・大量データの情報通信サービスを支えるブロードバンド光ネットワーク技術――日立評論~前編

ブロードバンド テクノロジー
図1:ブロードバンド光ネットワーク
  • 図1:ブロードバンド光ネットワーク
  • 図2:VPWSサービスネットワーク構成
  • 図3:VPLSサービスネットワーク構成
 近年の社会インフラとしての情報通信ネットワークには、信頼性と大容量通信が求められている。それを実現するブロードバンド光ネットワークには、MPLS-TPネットワークシステムと10G-EPONシステムがある。MPLS-TPネットワークシステムは、ネットワーク全体の経路や通信帯域などのリソースを一元管理し、通信品質の保証、障害範囲の特定および障害発生時の経路切り替えにより、通信を高信頼化する。10G-EPONシステムは従来の10倍の通信帯域を提供し、双方向高精細映像通信などを可能にする。日立グループは、標準化活動を通して最新動向を把握するとともに、両システムの開発を進め、新たな情報通信サービスの実現に寄与していく。

1.はじめに

 アナログ電話から始まった公衆通信網は、デジタル技術の導入に伴い高速データ通信が可能になり、IP(InternetProtocol)技術に基づくインターネットの爆発的普及で、今日の情報社会を支える社会インフラへと発展した。日立グループは、1930年代の電話機生産以降、クロスバ交換機、電子交換システム、同期伝送装置、ATM(AsynchronousTransfer Mode)交換機、ルータなど、その時代のニーズに応える製品開発を行い、社会インフラとしての情報通信ネットワークの高度化に携わっている。

 近年の情報通信ネットワークの利用は、証券取引やデータセンターサービスなど、より信頼性を必要とし、かつ大量データを扱う領域に広がっている。その実現のための研究開発がネットワーク分野でも進められており、ブロードバンド光ネットワークもその一つである(図1参照)。

 ブロードバンド光ネットワークは、ユーザーからのアクセス回線を集約するアクセスネットワークと、その上位に位置するメトロ/コアネットワークから成る。証券取引の例では、証券会社が証券取引所と通信できないと収入減に直結するため、ネットワークは高信頼であることが必須となる。また収入増のためには、より多くの売買注文を送信可能な大きな通信帯域が望まれる。高信頼VPN(VirtualPrivate Network)では、企業は基幹業務にデータセンターを利用し、複数事業所のLAN(Local Area Network)とデータセンターを接続する。VPN外からのパケットの混入を防ぐとともに、企業活動に対する通信障害の影響を最小限に抑える必要がある。また、事業所間の音声通信(IP電話)がデータ通信の影響を受けて音が途切れる、声が聞き取れないということがないように、音声通信の優先制御が求められる。高精細映像監視においては、安全・安心な社会のためのサービスを想定している。監視カメラと監視センター間の通信は、映像データを送るための大きな通信帯域と映像品質が維持されなければならない。

 日立グループは、これらの要求に対し、アクセスネットワーク技術として10G-EPON(10 Giga-bit Ethernet※)Passive Optical Network)システムを、メトロ/コアネットワーク技術としてMPLS-TP(Multi-protocol Label Switching-Transport Profile)ネットワークシステムを開発している。10G-EPONシステムは、ユーザーごとの通信帯域を従来システムから増大させることができる。MPLS-TPネットワークシステムは、ユーザーごとの通信品質を保証し、通信障害を検出して正常な通信経路に自動切り替えすることができる。

 ここでは、今後の情報通信サービスが必要とする高い信頼性と大容量通信を実現するブロードバンド光ネットワーク技術におけるMPLS-TPネットワークシステムと10G-EPONシステム、および標準化動向と日立グループの取り組みについて述べる。

2.MPLS-TPネットワークシステム

2.1 特長

 従来のルータ/スイッチは、パケットの転送経路を制御するための経路制御機能を持ち、隣接装置間で互いが知るネットワーク構成情報を交換して自律的・動的に転送経路を決定することで、ネットワークの構成変更や予期せぬ故障に柔軟に対応していた。しかし、この方式では、ネットワークを構成する各装置が独立に動作を決定するため、ネットワーク全体での経路や通信帯域の管理が困難であり、また一部の装置の経路制御機能の故障がネットワーク全体の通信障害に波及するといった課題点が指摘されていた。

 これらの課題を解決可能な伝送方式としてMPLS-TP方式があり、IETF(Th e Internet Engineering Task Force)、ITU-T(International Telecommunication Union-Telecommunication Standardization Sector)の両組織で標準化が進められている。この方式は従来のルータ/スイッチとは異なり、経路制御機能を個々のパケット転送装置から分離し、管理用ネットワーク上に集約するアーキテクチャをとることができる。これにより、ネットワーク全体の経路や帯域などのリソースを一元管理し、通信品質の保証や障害範囲の特定が容易になる。

 また、ATMネットワーク相当のきめ細かな保守管理を実現するために、ユーザーごとの仮想的な回線(論理回線)の接続性確認(確認用パケットの周期的な送受信)、論理回線障害時の経路上の各装置への障害通知、予備の論理回線への切り替え(プロテクション)といった各種のOAM(Operation、Administration and Maintenance)機能も規格化されている。

 日立グループは、パケットネットワークにおいて従来の専用線と同等品質である99.999%のエンドツーエンド区間稼動率を支えるMPLS-TPネットワークシステム「AMN1700シリーズ」を製品化、販売しており、現在は、新規格にも対応するAMN1710クロスコネクト装置の2010年度製品化をめざして開発している。

2.2 MPLS-TPを使用したサービス形態

 MPLS-TPを使用したサービス形態として、次の二つが挙げられる。

(1)VPWS(Virtual Private Wire Service)
VPWSは二つのユーザーネットワークをポイントツーポイントの論理回線PW(Pseudo Wire)で接続するサービスである(図2参照)。

 ユーザーネットワークのエッジにあるCE(Customer Edge)装置と通信事業者ネットワークのエッジにあるPE(Provider Edge)装置を接続し、2台のPE装置間をPWで接続する。PWにMPLS-TP方式を適用することで、高品質化、高信頼化が実現できる。具体的な手段としては、PWを構成する論理回線として、実際にユーザーのパケット転送に使用する論理回線(現用系論理回線)と予備の論理回線(予備系論理回線)を事前に設定する。それぞれの論理回線に対し、PE装置間で接続性確認用パケットを周期的に送受信する。現用系論理回線上で接続性確認用パケットの受信がとだえた場合、ユーザーのパケット転送に使用する回線をそれまでの現用系論理回線から予備系論理回線に切り替える。

(2)VPLS(Virtual Private LAN Service)

VPLSは複数のユーザーネットワークをマルチポイントツーマルチポイントで接続し、仮想的な単一LANを実現するサービスである(図3参照)。

 ユーザーネットワークを収容するPE装置間をPWでフルメッシュに接続する。PE装置がCE装置からユーザーパケットを受信した場合、パケットの宛(あて)先MAC(Media Access Control)アドレスがどのPE装置の収容するユーザーネットワーク内のアドレスであるか不明な場合は、すべてのPWにユーザーパケットをコピーして送信する。一方、他のPE装置からPW経由でユーザーパケットを受信した場合、PWとユーザーパケットに記された送信
元MACアドレスとの対応を学習し、以後、上記MACアドレス宛のユーザーパケットをCE装置から受信した場合は、対応するPWに対してのみユーザーパケットを送信する。VPWSと同様に、各PWにMPLS-TP方式を採用することで個々のPWを高品質化、高信頼化する。これによりVPLS全体の高品質化、高信頼化が可能となる。


■執筆者(敬省略)

・松本 謙尚
1992年日立製作所入社,情報・通信システム社 通信ネットワー
ク事業部 ネットワークシステム本部 パケットトランスポートプ
ロジェクト 所属
現在,パケット光トランスポートシステムの開発に従事
電子情報通信学会会員,情報処理学会会員

・西野 良祐
1996年日立製作所入社,情報・通信システム社 通信ネットワー
ク事業部 ネットワークシステム本部 パケットトランスポートプ
ロジェクト 所属
現在,パケット光トランスポートシステムの開発に従事
電子情報通信学会会員

・池田 博樹
1995年日立製作所入社,中央研究所 情報システム研究センタ
ネットワークシステム研究部 所属
現在,光アクセスネットワークの研究に従事
博士(工学)
電子情報通信学会会員,IEEE学会会員,通信方式研究会幹事

・遠藤 英樹
2004年日立製作所入社,中央研究所 情報システム研究センタ
ネットワークシステム研究部 所属
現在,パケット光トランスポートのシステム開発とその機能開発
に従事

※同記事は日立製作所の発行する「日立評論」の転載記事である
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