
系統混雑緩和技術(GETs)とは
近年、生成AIの普及にともなうデータセンタや半導体工場の新増設により、長らく減少傾向にあった電力需要が増加へと転じています。IEA(国際エネルギー機関)は、世界のデータセンタの電力消費が2030年までに約945TWhへと倍増し、米国では2030年までの電力需要増加分のほぼ半分をデータセンタが占める見通しです(注1)。
注1:https://www.iea.org/reports/energy-and-ai/executive-summary
日本も同様に、2026年度以降はデータセンタ・半導体工場の新増設にともない、2035年度まで年平均0.4%の増加が続くと想定されています(注2)。さらに第7次エネルギー基本計画では再生可能エネルギーの大幅拡大が提示され(注3)、既存の電力網に対して、天候や気象条件によって発電出力が大きく変化する変動性電源の増加と、大規模需要の局地的集中という、二つの圧力が同時にかかる構図となっています。
注2:https://www.occto.or.jp/assets/iinkai/chousei_jukyu/117/chousei_117_01.pdf
注3:https://www.meti.go.jp/press/2024/02/20250218001/20250218001.html
このように、電力需給バランスが不安定化する懸念から、電力供給の増強が不可欠となります。しかし現実には、発電所や蓄電池などの電力供給設備に対し、送電線や変電所などの系統設備が不足する「系統接続制約」がボトルネックになっています。実際、米国では2025年末時点で2,060GWを超える設備が接続待ちとなり、2025年に運転開始した案件では、接続申込から運転開始までの期間の中央値が5年を超えています(注4)。
注4:https://emp.lbl.gov/queues
日本でも、資源エネルギー庁は、データセンタが集積する千葉県印西・白井地域において、「系統設備」への接続に長期間を要する事例や、将来の接続に備えて、あらかじめ設備の利用枠である「接続枠」を押さえる事例の発生を指摘しています。特に、土地取得などの前に接続申込をおこない確保した容量が実際には使われない「空押さえ」も起きており、真に必要な事業者への供給が遅れることが懸念されています(注5)。
注5:https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/saisei_kano/smart_power_grid_wg/pdf/003_03_00.pdf
こうした課題に対し、需要側では、供給開始の延期や契約電力の減少があった場合に、使われなくなった容量を他の需要家が利用できるようにする「容量開放」や「費用精算」の導入が議論されています。また、発電側では、系統用蓄電池を対象として保証金の増額などが検討されています。
制度面での対策と並行して系統増設も進められており、電力広域的運営推進機関 (Organization for Cross-regional Coordination of Transmission Operators: OCCTO)は、再エネポテンシャルの高い北海道・東北と大消費地を結ぶ「広域連系系統のマスタープラン」を2023年3月に策定し、北海道~東北~東京間に高圧直流送電(High Voltage Direct Current: HVDC)2GWを新設する構想が検討されています。しかし、東地域の系統整備の概算工事費は1.5兆~1.8兆円程度と試算されており、巨額の投資と長い工期が課題となっています。
制度面での対策や系統増設が進められる一方、増設には巨額の投資と長い工期が必要です。そこで、既存設備を活用しながら比較的短期間で送電能力を高める選択肢として注目されているのが、傾向混雑緩和技術(Grid Enhanced Technologies:GETs)です。GETsは、送電線を新設せず、既存設備がもつ潜在的な送電能力を引き出す技術群を指します。一例である動的線路定格(Dynamic Line Rating: DLR)は、気象条件や送電線の温度をモニタリングし、送電容量をリアルタイムで評価・調整する技術です。固定的な定格をもちいる場合と比べ、条件に応じて送電容量を増やせる可能性があります。実証例として、米国エネルギー省(DOE)によると、米国テキサス州を中心に送配電網を運営する電力会社Oncorでは、DLRセンサの導入により送電線容量が6~14%増加し、Duquesne Lightの実証では25%増加させたことが報告されています(注6)。このためGETsは、「系統増強は必要だが、完成までに時間を要する」という時間軸のギャップを埋める現実的な選択肢として注目されています。
注6:https://www.energy.gov/eere/wind/articles/smart-transmission-tools-modernize-americas-power-grid
本レポートでは、系統接続制約の緩和とGETsに関する取り組みについて、アスタミューゼ独自のデータベースをもとに、特許と研究プロジェクト(グラント)の直近10年の動向を分析します。
アスタミューゼでは、世界各国のグラント(研究開発予算)や特許、論文、スタートアップなど、イノベーションに関わる膨大なデータベースを保有しています。ここでは、GETs関連技術について、グラントと出願特許のデータをもちいて、現在の立ち位置と今後の展望について考察ます。GETsは、大きく(1)動的線路定格(DLR)、(2)電力フロー制御、(3)トポロジー最適化の3つの技術で構成されます。以下、それぞれの動向を見ていきます。
- 動的線路定格(DLR):気象条件や送電線の温度などをセンサでモニタリングし、送電線の容量をリアルタイムで評価・調整する技術
- 電力フロー制御:複数ある電力径路のインピーダンス(電流の流れにくさをあらわす量)などを随時制御し、送電線を流れる電力を調整する技術
- トポロジー最適化:複雑に構成された送配電網の経路や接続構成を最適化し、電力の流れを効率化する技術
GETs関連技術の特許・研究プロジェクトの分析
はじめに、GETsに関する特許をデータベースから抽出しました。図1は、2016年以降に出願されたGETs関連特許の出願件数推移です。なお、特許のデータは公開からデータベースへの格納までにタイムラグがあるため、直近の2025年の集計値は参考値です。

図1:GETs領域の特許出願推移(2016~2025年)
GETs関連特許では、電力フロー制御に関する出願がもっとも多く、トポロジー最適化が続いています。電力フロー制御とトポロジー最適化は、この10年間で年間の出願件数がそれぞれ約200件増加しています。一方、DLRの出願件数は2025年に増加しているものの、それ以前はおおむね横ばいで推移しています。
次に、GETsに関する研究プロジェクト(グラント)をデータベースから抽出しました。図2は、2016年以降に採択されたGETs関連プロジェクトの年ごとの研究資金配賦額です。なお、中国は2021年以降のグラントデータが非公開のため、集計から除外しています。

図2:技術別のグラント配賦額の年次推移(2016~2025年)
年度にばらつきはあるものの、電力フロー制御およびトポロジー最適化には一定の研究資金が投資される一方、DLRに対する投資は限定的です。特許の推移とあわせると、DLRは他の2分野に比べて商用化が進み、技術成熟度が比較的高いと考えられます。一方、電力フロー制御とトポロジー最適化は、GETsの中でも新たな研究開発が継続している分野といえます。また、本領域はいずれも10年を通して数十~数百件とグラントが少ない一方、巨額のプロジェクトが見られる点も特徴です。
グラントの国別配賦額の推移が図3です。

図3:国別のグラント配賦額の年次推移(2016~2025年)
国別の配賦額も年によってばらつきはあり、投資が集中する時期は国ごとに異なります。EUや英国では2016~2020年に配賦が集中し、2021年以降の投資はほとんど見られません。一方、日本では2019年に100万米ドル規模の投資がみられ、2021年以降に大きな投資が続いています。また、米国ではこの期間の投資はほとんど見られません。これは、2010年代前半にすでに投資がおこなわれているためです。これらの結果から、電力系統に関する投資時期は、欧米と比べて日本がやや遅い可能性が示唆されます。
(以降、系統混雑緩和技術(GETs)に関する特許、論文、グラントのキーワード分析、技術分類ごとの注目事例、それらをふまえた全体のまとめについては、弊社コーポレートサイトの該当ページでご確認ください)
著者:アスタミューゼ株式会社 田澤 俊介 博士(工学)
さらなる分析は……
アスタミューゼでは「系統混雑緩和技術(GETs)」に関する技術に限らず、様々な先端技術/先進領域における分析を日々おこない、さまざまな企業や投資家にご提供しております。
本レポートでは分析結果の一部を公表しました。分析にもちいるデータソースとしては、最新の政府動向から先端的な研究動向を掴むための各国の研究開発グラントデータをはじめ、最新のビジネスモデルを把握するためのスタートアップ/ベンチャーデータ、そういった最新トレンドを裏付けるための特許/論文データなどがあります。
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