株式会社パブリカが運営しているものづくり新聞(代表:伊藤宗寿)は、世界の製造業DX事例を継続的に収集・分類している「製造業DX事例データベース」をもとに、リアルな課題と解決策を紐解くレポートを配信しています。このデータベースは、ものづくり新聞が日本と世界のニュース記事やプレスリリースなどを毎日自動取得しデータベースに蓄積する仕組みで、製造業向け情報発信を目的として構築した仕組みです。
2026年7月現在、同データベースには約4,000件の製造業DX関連事例を蓄積しています。今回の分析では、製造業DX事例データベースの整理データ3,815件を対象に、設計・開発、製造、品質、保全、調達・SCM、営業・顧客接点、経営・全社基盤の7部門に分け、各部門でどのようなDXテーマが広がっているかを整理しました。
分析の結果、製造業DXは生産現場だけの取り組みではなく、設計、品質、保全、調達、営業、経営まで広がっていることが見えてきました。部門ごとにDXテーマは異なりますが、共通しているのは、部門内の業務改善にとどまらず、データを通じて他部門とつながる方向へ進んでいる点です。
調査の背景
製造業DXというと、スマートファクトリーやAI検査、ロボット、自動化など、製造現場を中心とした取り組みが想起されがちです。しかし、実際の公開事例を見ると、DXは設計・開発、品質、保全、調達・SCM、営業、経営管理など、製造業のあらゆる部門に広がっています。一方で、製造業の実務担当者からは、「自部門では何からDXに取り組めばよいのか」「他部門とどのようにつながればよいのか」「部門別に参考になる事例を知りたい」といった声も多く聞かれます。
そこで、ものづくり新聞では、製造業DX事例データベースをもとに、部門別にDXテーマを整理し、各部門でどのような取り組みが進んでいるかを事例とともにまとめました。
部門別に見た製造業DXテーマ

※関連事例数は、公開事例の分類・タイトル・要約情報をもとにした重複ありの抽出件数です。市場規模や実際の導入件数を示すものではありません。
以下、部門ごとの事例をご紹介します。
設計・開発:PLM、CAE、生成AI、CAD/3Dデータ、BOM、デジタルスレッド
代表事例
・ヴァレオ(海外)「ダッソー・システムズ3DEXPERIENCEプラットフォーム導入による研究開発全面デジタル化」
15,000ユーザー規模で、3DEXPERIENCEによりR&D・購買・製造を統合。生成AIで設計複雑性を管理・イノベーションを加速。 このような取り組みから、設計・開発のDXでは、個別業務の効率化だけでなく、データを他部門と共有し、業務全体の判断や改善につなげる視点が重要であることが分かります。
・RICOS(日本)「自動車・製造業で実証進むCAE×AI、RICOSのCEO「設計の妥協なくす」
物理学知見に基づくAIによるCAE技術で、スズキ・マツダなど自動車メーカーが設計効率化を実証。このような取り組みから、設計・開発のDXでは、個別業務の効率化だけでなく、データを他部門と共有し、業務全体の判断や改善につなげる視点が重要であることが分かります。
・トヨタシステムズ(日本)「CAE×AIシミュレーション|トヨタシステムズの高速AI性能予測システム」事例では、30年以上のCAE技術を基盤に、AIによる性能予測・最適設計・結果判定を統合したCAE×AIシミュレーション。このような取り組みから、設計・開発のDXでは、個別業務の効率化だけでなく、データを他部門と共有し、業務全体の判断や改善につなげる視点が重要であることが分かります。
製造:MES、IoT、ロボット、自動化、設備データ、現場見える化
代表事例
・株式会社ニチレイ(日本)「スマートファクトリーでAI画像認識による自動検品を実現」
ニチレイフーズのキューレイ新工場で、従来は人が行っていたチャーハンの焦げ除去をAIとロボットに置き換え、自動化を実現。このような取り組みから、製造のDXでは、個別業務の効率化だけでなく、データを他部門と共有し、業務全体の判断や改善につなげる視点が重要であることが分かります。
・現代自動車(韓国)「HMGICS(Hyundai Motor Group Innovation Center Singapore)の開設 - メタファクトリーの構築」
AI・ロボティクス・IoTを統合したスマート都市型工場をシンガポールに開設。デジタルツイン技術により仮想空間と現実世界を連携させ、柔軟な生産システムを実現。 このような取り組みから、製造のDXでは、個別業務の効率化だけでなく、データを他部門と共有し、業務全体の判断や改善につなげる視点が重要であることが分かります。
・美的集団(中国)「荊州洗濯機工場AI Agent Factory:"Factory Brain" による完全自律運用」
事例では、AI "Factory Brain" が14のスマートエージェントを統制。従来数時間の手作業を秒単位で完了。効率80%向上、スケジューリング応答90%高速化。このような取り組みから、製造のDXでは、個別業務の効率化だけでなく、データを他部門と共有し、業務全体の判断や改善につなげる視点が重要であることが分かります。
品質:AI検査、品質データ、異常検知、画像認識、トレーサビリティ
代表事例
・制御機器部品メーカー企業名非公開(日本)「2025年製造業における画像認識AI導入事例と効果【国内外の成功事例を徹底解説】」
制御機器部品メーカーがAI Fine Matching技術で外観検査を自動化、微細傷判定精度向上と調整工数を1/10に削減。 このような取り組みから、品質のDXでは、個別業務の効率化だけでなく、データを他部門と共有し、業務全体の判断や改善につなげる視点が重要であることが分かります。
・マルハニチロ株式会社(日本)「カット野菜用AI外観検査装置「TESRAY Gシリーズ」の導入 - 大江工場での本格稼働開始」
2025年4月、ロビット社とカット野菜のAIモデルを共同開発。AI外観検査装置「TESRAY Gシリーズ」を大江工場に導入。選別作業の省人化と品質基準の統一を実現。グループ全体への展開を検討。 このような取り組みから、品質のDXでは、個別業務の効率化だけでなく、データを他部門と共有し、業務全体の判断や改善につなげる視点が重要であることが分かります。
・フレックス(メキシコ/グローバル)「Flex、AI/ML活用による電子製品検査・テストプロセス最適化」
Guadalajara工場でAI/MLを活用した自動テスト手順最適化を実装。北米サイト展開により20-25%のテスト時間短縮、35%の日次スループット向上を実現。 このような取り組みから、品質のDXでは、個別業務の効率化だけでなく、データを他部門と共有し、業務全体の判断や改善につなげる視点が重要であることが分かります。
保全:予兆保全、設備監視、保全履歴、点検支援、遠隔監視
代表事例
・日立製作所(日本)「日立系やシーメンスが工場で時系列基盤モデル、ダウンタイム発生件数を半減」
Hitachi Digital Servicesが時系列基盤モデルを工場の予知保全に適用したところ、機械1台当たりのダウンタイム発生件数が4件から2件へと半減。年間のダウンタイムを2000時間削減。 このような取り組みから、保全のDXでは、個別業務の効率化だけでなく、データを他部門と共有し、業務全体の判断や改善につなげる視点が重要であることが分かります。
・セラミックタイル製造企業(企業名非公開)「Agentic AI in Smart Manufacturing - セラミックタイル製造での人間中心的予知保全エコシステム」
セラミックタイル製造でのマルチエージェント系による予知保全システムが、94%の予測精度と43%のダウンタイム削減を実現。 このような取り組みから、保全のDXでは、個別業務の効率化だけでなく、データを他部門と共有し、業務全体の判断や改善につなげる視点が重要であることが分かります。
・BlueScope Steel(オーストラリア)「BlueScope saves ~2,000 hours with predictive maintenance」
オーストラリアの鋼材大手BlueScope SteelがSiemensのSenseye予知保全ソリューションを2022年に導入し、3年間で約2,000時間のダウンタイムを回避。AIベースの振動・圧力監視により反応的から予知的保全へ転換。 このような取り組みから、保全のDXでは、個別業務の効率化だけでなく、データを他部門と共有し、業務全体の判断や改善につなげる視点が重要であることが分かります。
調達・SCM:需要予測、在庫、物流、調達DX、サプライチェーン可視化
代表事例
・Albertsons(米国)「Albertsons、AfreshのAI駆動型フレッシュ補充・インベントリソリューションを全国2,200店以上に展開」
全米2,200店以上のAlbertsons各ブランドで、Afreshの特許取得済みAI・データモデリングを活用したフレッシュ部門(ベーカリー・デリ・肉・魚・青果)の補充・インベントリソリューションを全社展開。需要と注文・販売データの整合性向上。 このような取り組みから、調達・SCMのDXでは、個別業務の効率化だけでなく、データを他部門と共有し、業務全体の判断や改善につなげる視点が重要であることが分かります。
・ヴァレオ(グローバル)「o9デジタルブレイン・プラットフォームによるグローバルサプライチェーン変革」
o9との7年契約で、170以上の拠点・29カ国のSIOP・MPS統一化を実現。リアルタイム意思決定を強化。 このような取り組みから、調達・SCMのDXでは、個別業務の効率化だけでなく、データを他部門と共有し、業務全体の判断や改善につなげる視点が重要であることが分かります。
・コカ・コーラ(北米)「北米サプライチェーン デジタル化 - ロボティクス・AI活用」
事例では、Coke One North America(CONA)ERPで12ボトラー統合、倉庫ロボ、AI需要予測を導入。納期99%達成、処理時間50日→7日に短縮。 このような取り組みから、調達・SCMのDXでは、個別業務の効率化だけでなく、データを他部門と共有し、業務全体の判断や改善につなげる視点が重要であることが分かります。
営業・顧客接点:CRM、生成AI、顧客データ、問い合わせ対応、デジタル販売
代表事例
・株式会社トプコン(日本)「グローバルERP・CRM統合による営業・マーケティングDX (SAP S/4HANA・Commerce Cloud)」
SAP S/4HANA CloudおよびSAP Commerce Cloudを導入し、グローバル営業・マーケティング基盤をデジタル統合。B2B e-コマースの大幅拡充。 このような取り組みから、営業・顧客接点のDXでは、個別業務の効率化だけでなく、データを他部門と共有し、業務全体の判断や改善につなげる視点が重要であることが分かります。
・タタ・スチール(インド)「営業DX戦略:AASHIYANA(B2C)、COMPASS(B2B)、DigECA(B2ECA)プラットフォーム展開」
3つの異なる市場セグメント向けにデジタル・プラットフォームを展開。AASHIYANA(B2C e-commerce)で100億ドル以上の追加収益と30億ドル以上のEBITDA向上を初年度に達成。 このような取り組みから、営業・顧客接点のDXでは、個別業務の効率化だけでなく、データを他部門と共有し、業務全体の判断や改善につなげる視点が重要であることが分かります。
・キリンホールディングス(日本)「「KIRIN BuddyAI Project」始動。従業員向け生成AIツール「BuddyAI」の開発と展開」
社内向けカスタマイズ生成AIツール「BuddyAI」を開発。マーケティング部門での先行導入で約39,000時間の削減効果を確認。2025年5月に全従業員1万5000人に本格展開。 このような取り組みから、営業・顧客接点のDXでは、個別業務の効率化だけでなく、データを他部門と共有し、業務全体の判断や改善につなげる視点が重要であることが分かります。
経営・全社基盤:ERP、BI、データ基盤、クラウド、経営ダッシュボード、全社標準化
代表事例
・原田伸銅所(日本)「国産パッケージから中堅・中小企業向けSAP S/4HANA Cloudへ移行、海外売上高の拡大を目指す」
りん青銅専業メーカーが7年使用した国産ERPから、SAP S/4HANA Cloud(GROW with SAP)へ移行し、データ一元管理とリアルタイム経営情報の可視化を実現。 このような取り組みから、経営・全社基盤のDXでは、個別業務の効率化だけでなく、データを他部門と共有し、業務全体の判断や改善につなげる視点が重要であることが分かります。
・BASF(ドイツ)「SAP S/4HANA Cloud Private Editionへの戦略的移行(2025年発表)」
BASFはSAP S/4HANA Cloud Private Editionへの移行を開始。ハイブリッド戦略でAI・サステナビリティ機能を活用。 このような取り組みから、経営・全社基盤のDXでは、個別業務の効率化だけでなく、データを他部門と共有し、業務全体の判断や改善につなげる視点が重要であることが分かります。
・三菱電機(日本)「Amazon Web Services(AWS)との戦略的協業MOU締結」
Serendieプラットフォームへの生成AI・クラウド技術統合、データ分析基盤強化、デジタル人材育成でAWSと協業。 このような取り組みから、経営・全社基盤のDXでは、個別業務の効率化だけでなく、データを他部門と共有し、業務全体の判断や改善につなげる視点が重要であることが分かります。
分析から見えた3つの示唆
1. 製造業DXは「製造現場」だけではなく、全部門に広がっている公開事例では、製造現場のIoT、ロボット、自動化だけでなく、設計のPLM・CAE、品質のAI検査、保全の予兆保全、調達・SCMの需要予測、営業のCRM・生成AI、経営のERP・BI・データ基盤など、部門ごとに異なるDXテーマが進んでいます。
2. 部門別DXは、最終的にはデータでつながる
設計データ、製造データ、品質データ、設備データ、調達・在庫データ、顧客データ、経営データは、部門ごとに閉じているだけでは十分な価値を生みません。事例からは、これらのデータを部門横断で活用することで、製造業DXの効果が高まることが見えてきます。
3. 部門ごとの課題を理解できるDX人材が重要になる
部門別DXを進めるには、ツールや技術の知識だけでなく、各部門の業務課題を理解し、関係者を巻き込みながら、データと業務プロセスをつなぐ力が必要です。設計、製造、品質、保全、調達、営業、経営の間を橋渡しできる人材が、製造業DX推進の鍵になります。

今後の展開
ものづくり新聞では、製造業DX事例データベースを活用し、AI外観検査、品質データ分析、トレーサビリティ、予兆保全、スマートファクトリー、MES、PLM、生成AI活用など、製造業DXの主要テーマについて継続的に分析・発信していきます。
また、製造業向けDX教育事業「Innovation Maker Academy」やコンサルティング活動においても、実際の公開事例をもとに、企業ごとの課題に即した情報提供や学習コンテンツの拡充を進めていきます。
株式会社パブリカ
製造業を中心としたコンサルティングサービス(プロジェクトマネージメント、DXコンサルティング)を軸に、製造業向けウェブメディア事業(ものづくり新聞)、製造業向けDX人材育成プログラム(Innovation Maker Academy)などを手掛けています。私たちの夢は、ものづくりを通して好奇心と喜びでワクワクし続ける社会の実現です。目には見えない「作る人の想い」と変革の力を掛け合わせ、ものづくり企業と共に心躍る未来をつくり続けます。
HP:株式会社パブリカ
ものづくり新聞について
ものづくり新聞は、「ものづくりを通して好奇心と喜びでワクワクし続ける社会の実現」を目指すウェブメディアです。中小製造業や工芸職人のインタビュー記事や、製造業のDX・業務改革に関する情報を発信するメディアです。
この活動の一環として、国内外の製造業DX事例を継続的に収集し、業種、地域、技術、業務領域、活用テーマごとに分類・分析することで、製造業の実務者が自社の取り組みに活用できる情報提供を目指しています。
ウェブサイトはこちらから→makingthingsnews.com
製造業向けDX人材育成プログラム「Innovation Maker Academy」
ものづくり新聞による取材やコンサルティング活動により得た知見をもとに、製造業向けDX教育事業「Innovation Maker Academy」を展開しています。デジタル活用やDX推進課題に対して専門講師が講義やワークショップを実施いたします。「ものをつくる人から、変革を動かす人へ」をコンセプトに掲げ、ツール導入ありきではない教育プログラムをご提供しています。
ホームページはこちらから→imacademy.jp
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本件に関するお問い合わせ
ものづくり新聞 編集部(製造DX担当)
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Webサイト:makingthingsnews.com
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