日本でも根強い人気を誇るK-POP。
昨今はアイドルや音楽を超え、独特なファンカルチャーも大きな注目を集めている。
【写真】業者に直撃取材!BTS・JIMINへのトラックを発見
その中でも特徴的なのが「トラックデモ」だろう。巨大なLEDモニターを積んだトラックが芸能事務所の周辺を走り回り、メッセージを掲出する手法だ。
近年では、熱愛説が浮上したBTS・JUNG KOOKとaespa・ウィンターに対する批判や、ヒスン(現EVAN)のENHYPEN脱退発表時の抗議などが記憶に新しい。“怒りの”という枕詞で語られることも多いため、一部の過激なファンによる強硬手段といったイメージを持つ人も多いのではないだろうか。

日本の感覚からすると、「ファンがそこまでやるのか」「あまりにも過激ではないか」とネガティブな印象を抱かれがちだ。
しかし、その実態は本当に“アンチ行為”や“過激なバッシング”だけなのだろうか。真相を確かめるべく韓国へ飛び、実際に多くのトラックデモを請け負っている現地企業を訪ねた。
誕生と「愛の要請」への進化
取材に応じたのは、韓国でLED広告トラックのレンタルを手がける「POWER AD」のノ・スング代表とイ・ハナ課長だ。ソウル首都圏で多数の両面LEDトラックを保有する唯一の同社は、広告業界出身のノ代表が2018年に設立した。
そもそも、トラックデモはどのようにして始まったのだろうか。
「もともと韓国には、ファンが有志でお金を出し合い、街頭ビジョンや地下鉄の駅に“推し”の誕生日や記念日を祝う応援広告を出す文化がありました。ただ、これらは街行く人々へのアピールにはなっても、アーティスト本人や事務所の経営陣の目には届きにくいという弱点があったのです」(ノ代表)

転機となったのは2019年頃。当時、マンションのモデルハウスオープン告知などで、映像を流しながら走るトラック広告に目をつけたファンが利用し始めたのがきっかけだった。かつては政治デモで使われていた手法が、ファンカルチャーへと転用された瞬間である。
この動きは2020年のコロナ禍で一気に拡大し、2023年頃には完全に定着を見せた。しかし、初期のトラックデモに込められていたのは、過激なバッシングではなく「私たちが応援するアーティストにもっと投資してほしい」「ほかのグループと差別せず公平に扱ってほしい」「悪質なアンチからアーティストを守ってほしい」「サセン(私生活まで追い回す過激ファン)の暴走を放置しないでほしい」「アーティストは機械ではない。休ませてほしい」といった、所属事務所への切実なお願いだったという。
メディアで報じられる脱退要求などの過激な主張は、全体の一部に過ぎない。その根底にあるのは事務所への不満であり、「推しを守りたい」「もっと良い環境で活動してほしい」というファンの切実な叫びなのだ。
法の範囲で主張を届ける
韓国では「集会及びデモに関する法律(集示法)」に基づき、屋外集会やデモを行う場合、原則として開催の少なくとも48時間前までに所轄の警察署へ事前届出を行い、関連法規に従って実施しなければならない。表現の自由や集会・デモの自由が強く保障されている社会だからこそ、正規の手順を踏んで行われるデモに対し、事務所側も安易に排除することはできないのが実情だ。
「もちろん、事務所の前でデモをされるのは嫌でしょうから、『少し場所を動かしてほしい』と頼まれることはあります。しかし、法律上認められた権利に基づいて実施している行為ですので、基本的には撤去できません」(ノ代表)
ただ当然、事務所側も手をこまねいているわけではない。警察に通報し、「停車違反だ」「交通の妨げだ」とアピールして圧力をかけてくることもある。

「警察が来たら、私たちは一度その場を離れます。指示に従っていなくなったら、また戻る。まさに、いたちごっこです。警察も私たちの活動が合法だと理解しているので無理な取締りはしませんが、通報があれば現場に来ざるを得ないですからね」(イ課長)
そんなPOWER ADが何よりも徹底しているのは、「徹底的なファクトチェックとリーガルチェック」だ。
「依頼された文章は、まず当社で厳しくチェックします。虚偽の情報や名誉毀損に当たる表現がないか、弁護士と相談しながら徹底的に調べます。万が一、法的トラブルになれば、実際に掲載した当社も責任を問われますから」(ノ代表)
特に海外ファンからの依頼には細心の注意を払う。現在、同社への依頼の約70%は外国人ファン(最も多いのは中国、続いて東南アジア、欧米、日本など)が占めている。
海外ファンならではの難しさもある。「海外のファンが翻訳ツールを使って韓国語に直すと、言葉遣いが意図せず非常に攻撃的になってしまうことがあります。そうした場合は、韓国語の表現を柔らかく補正し、元の言語を小さく添えるなど、依頼者と話し合いながら調整します」(イ課長)

さらに、トラックを走らせた後も定期的に現場の写真や動画を撮影し、チャットアプリで依頼者に報告するなど、丁寧なアフターフォローも徹底しているそうだ。
髪型を変えて!多種多様な要望
わざわざトラックまで借りてデモを行う――。一見すると大げさに聞こえるが、現場には思わず首をかしげるようなユニークな依頼も届くという。
「実は、推しの髪型を変えてほしいという要望は本当に多いんです(笑)。第三者から見れば微笑ましい問題に思えますが、ファンにとっては本来の魅力が伝わっていないという一大事なんです。もちろん、私たちがそれを笑いごとにするわけにはいきません。ファンにとっては真剣そのものですから」(イ課長)
ほかにも「楽曲の作曲家を変えてほしい」「歌唱パートの割り当てを見直してほしい」といった、実質的なプロデュース領域に踏み込んだ要求も少なくない。
こうした表現やメッセージ内容に対し、同社をはじめとする業界全体で、隠語や伏字、過激な言葉、スラングに対するチェック体制が格段に強化されている。過激な表現はアーティストのイメージを損なうばかりか、法的トラブルに発展し、結果としてファン自身の首を絞めることにもなりかねないためだ。
「対立するファンの愛」と進化するデモの現場
ただ、トラックデモは単に「抗議」や「攻撃」のためだけに使われるわけではない。同じアーティストを応援するファンの間でも、期待や意見の違いによって多様なメッセージが発信されている。

例えば、SEVENTEENのディノの事例が挙げられる。彼のサブキャラクター「ピチョルイン(Picheolin)」名義のアルバムに対し、一部のファンは「中年男性のサブキャラはアイドルのイメージに合わない」「本来の音楽やパフォーマンスを見せてほしい」と不満を示し、事務所に説明を求めるトラックや抗議の弔花を送った。その一方で、別のファンたちは新たな挑戦や魅力を応援するため、支持を示すトラックや花輪を送ったという。
また、RIIZEの元メンバーであるスンハンのケースも象徴的だ。プライベート写真の流出を経て復帰が発表された際、一部のファンは「6人体制の維持」を訴えて復帰反対のトラックや弔花を送った。しかし同時に、彼を支持するファンたちは「プライバシー侵害の被害者であるアーティストを守るべきだ」と声を上げ、復帰を求めるトラックやオブジェ型の花輪、長期間にわたるオンラインキャンペーンを展開した。
誰かが「これがファンの総意だ」とトラックを出したとしても、そこには必ず対立するもう一つの愛が存在する。トラックや花輪は抗議だけでなく、アーティストへの支持や支援を伝える手段としても機能しているのだ。
さらに、俳優キム・スヒョンの人権保護を求めるデモのように、世界中のファンが一致団結し、裁判日程や記念日に合わせて長期的に何台ものトラックを走らせたケースもある。ファンの圧倒的な組織力と情熱が、タレントの権利を守る強力な支援ツールとして機能した象徴的な事例と言えるだろう。
さらに、トラックデモの活用範囲はエンターテインメント業界だけに留まらない。
動物保護・福祉の面では、アメリカの動物保護団体(Animal Wellness Actionなど)と連携し、闘鶏に使われる恐れのある鳥類の輸送停止を大手航空会社(大韓航空)に求めるキャンペーンを実施。さらに、ある小学校の安全対策を要求するデモを行うなど、同社への依頼は多岐にわたる。

政治デモから始まり、K-POPカルチャーで開花したトラックデモという手法は、今や労働者の権利保護、動物福祉、地域社会の安全保障といった多彩な意思表示として社会に浸透しているのだ。
そして、POWER ADのスタッフは日本のファンに向けてこうアドバイスを送る。
「トラックデモは、オンライン上に散らばったファン一人ひとりの大切な思いや変化を望む声をひとつにまとめ、事務所や一般の人々に直接目に見える形で届ける有効な手段です。ただ、必ずしも強い非難や荒い言葉を使う必要はありません。アーティストを応援し保護する温かい言葉や、事務所に責任ある対応を求める丁寧なメッセージこそが心を動かすのです。日本語でファンの真心を込め、そこに韓国語を併記すれば、日本のファンの思いは現地にもしっかりと伝わります。大好きなアーティストのために、より良い環境を願う情熱をぜひトラックを通じて届けてみてください。日本からの依頼も是非お待ちしております(笑)」
トラックが届けるのは「愛」か「暴力」か
現地での取材を終えて見えてきたのは、メディアで報じられるような“過激なバッシングツール”としての側面だけではない。そこにあったのは、巨大化したK-POPビジネスや現代社会の中で、自分の声が届かなくなった人々が模索した切実なコミュニケーションの形だった。
純粋な思いが、時には暴走し、過激なメッセージへと変貌してしまう危険性もある。だからこそ、仲介業者が厳格なルールを設け、過激な言葉を削ぎ落とし、合法的な意見へと翻訳する“フィルター”の役割を果たしているのだ。
K-POP界で独自の発展を遂げてきたこの表現文化は、不満を叫ぶだけの抗議を超え、「理不尽な環境を是正し、より良い社会や環境を作るための健全な意思表示」へと進化を遂げつつある。一人ひとりの声を可視化し、組織や社会に変化を促すプロセスは、エンターテインメントの枠を超えて多岐にわたるポジティブな影響を与え始めている。

街を走る1台のトラック。そこに映し出されたメッセージは、熱狂が生み出した「歪んだ愛」の象徴なのか、それとも社会を動かす「健全な意思表示」なのか。
事務所とファン、そして社会と個人が真摯に向き合える時代が来れば、あの賑やかなトラックたちは役割を終え、静かに街から姿を消していくのかもしれない。
(取材/文=スポーツソウル日本版編集部)



