グラミー賞に新設された部門が、スタート前から不思議な状況に陥っている。
「ベスト・アジアン・ポップ・ミュージック・パフォーマンス」部門だ。
BTSは第69回グラミー賞へのエントリーそのものを見送った。BLACKPINKは今回の作品では新部門の条件を満たしにくい。
そしてStray Kidsは、条件を満たし有力候補として名前まで挙がっていたにもかかわらず、作品をエントリーしなかった。
K-POPを代表する3組がそろって不在。しかも興味深いのは、その“不在の理由”がそれぞれ違うことだ。
そこを順番に見ていくと、グラミー賞が新たに作った「アジアン・ポップ」という枠と、すでに世界市場へ進出したK-POPとの間にある、少し奇妙なズレが見えてくる。
BTSは「出ない」――しかも最新曲は条件外
BTSは今年7月、第69回グラミー賞への作品エントリーを見送る意向を示した。

メンバーは「音楽が地域や言語によって区別されるのではなく、音楽そのものとして聴かれ、愛されることを願っている」という趣旨の考えを明らかにしている。
ただ、今回の新部門について考えると、もう一つ興味深い点がある。
復帰アルバム『ARIRANG』のタイトル曲『SWIM』は、歌詞がすべて英語で構成されているのだ。
新設されたアジアン・ポップ部門では、楽曲に一つ以上のアジア言語が「意味のある割合」で使われていることが条件となる。つまり、BTSが仮に今回グラミー賞へエントリーしていたとしても、『SWIM』はこの新部門の条件には該当しない。
しかも、『ARIRANG』で英語歌詞が増えた背景には、世界市場を意識した制作現場での議論があった。
Netflixのドキュメンタリー『BTS:THE RETURN』では、SUGAがアルバムについて「全体的に英語の歌詞が多すぎるので、もう少し韓国語を入れてほしい」と意見。J-HOPEやRMも韓国語を増やす方向を求めていた。
一方、所属事務所側からは、アルバムをよりグローバルなものにするためには英語歌詞で挑戦する必要があるという趣旨の意見が出ていた。最終的に、タイトル曲『SWIM』は全編英語となった。
世界市場を意識して英語を選んだ結果、韓国を代表するK-POPグループの最新タイトル曲が、グラミーの「アジアン・ポップ」には入れない。ここには何とも皮肉な構図がある。
BLACKPINKも「条件外」
この現象はBTSだけではない。BLACKPINKもまた、今回の新設部門には入りにくい。

今年2月にリリースした3rdミニアルバム『DEADLINE』は、『JUMP』を除く楽曲が英語で構成されている。
唯一、アジア言語の使用という条件を満たし得る『JUMP』も、2025年7月に先行公開され、すでに前回のグラミー賞にエントリーされているため、今回の対象にはならない。
つまりBLACKPINKも、英語曲中心の作品であるがゆえに、「アジアン・ポップ」という新部門から外れる形になる。
K-POPは長年、韓国語の音楽を世界へ広げてきた。その一方で、アメリカをはじめとする世界市場へさらに浸透するため、英語曲の比重も高まってきた。
BTSの『Dynamite』や『Butter』などは、その象徴的な例だろう。
ところが、K-POPが“韓国語の音楽”という枠を越えて、より広い世界のポップ市場へ進出した結果、今度は「アジア言語を使っていること」を条件とするグラミーの新部門から外れていく。
英語曲の比重を高めたトップK-POPほど、“アジア枠”から遠ざかるケースが生まれるわけだ。
Stray Kidsは「出られるのに出さない」
では、韓国語を含む楽曲を持つトップK-POPグループなら、この新部門に自然に収まるのか。そこで浮かぶのがStray Kidsだ。

JYPエンターテインメントは、Stray Kidsが第69回グラミー賞に作品をエントリーしていないことを認めている。
ただし、JYPはエントリーしなかった理由を明らかにしていない。新設されたアジアン・ポップ部門への抗議なのか、それとも別の事情なのかは不明で、「ボイコット」と断定することはできない。
それでも今回の不参加が大きく注目されるのは、Stray Kidsには新部門の条件を満たし得る楽曲があり、実際に有力候補として見られていたからだ。
米『ビルボード』は、『This & That』『Do It』も新部門の条件を満たすとしたうえで、特に3月に発表した『STAY』をグラミー賞への有力な候補として取り上げていた。さらに今年は、メンバー8人全員がレコーディング・アカデミーの投票会員に招待されたとも報じられている。
つまりStray Kidsは、グラミー賞と距離のある存在ではない。むしろ、初代アジアン・ポップ部門の受賞候補として名前が挙がるだけの条件と実績を持っていた。
それでも作品をエントリーしなかった。
BTSやBLACKPINKの場合は、世界市場を意識した英語曲という事情によって、新部門の条件そのものとのズレが見える。
一方、Stray Kidsは違う。“出られる有力候補”だったにもかかわらず、エントリーしなかった。その理由はわからないが、この事実が新部門に与えるインパクトは小さくない。

もちろん、新部門はK-POPだけのために作られたものではない。『ビルボード』は日本の米津玄師、中国語と英語を使う楽曲、フィリピンのSB19なども候補として紹介している。アジア各国の音楽に新たな受賞機会を作るという意味では、部門新設にも明確な意義がある。
米レコーディング・アカデミー側も、初年度ながら同部門にすでに多数の作品が出品されていると明かしている。
それでも疑問は残る。
グラミー賞が定義する“アジアン・ポップ”は、現在のアジア発ポップミュージックの実態をどこまで捉えられているのか。
出ないBTS。条件に入らないBLACKPINK。そして、条件を満たし、有力候補と見られながらエントリーしなかったStray Kids。3組の“不在”は、それぞれ理由が違う。
それでも並べてみると、グラミー賞が新たに用意した「アジアン・ポップ」という器が、世界へ進出した現在のトップK-POPを必ずしもきれいに収められるものではないことが見えてくる。
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