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【「エンジニア生活」・技術人 Vol.11】「技術」を「便利」に変える手品師――日本アバイア・岩佐智宏氏
日本アバイア ソリューション企画担当部長・マネージングコンサルタント 岩佐智宏氏
きまじめな人――インタビューのためにびっしりと書き込んだメモ書きを用意してきた彼を見た第一印象だ。しかし、話をしていくうちに印象が変わった。「お客さんに『そんなこともできるんですか!』と驚いてもらえるのが快感なんです」。まるでいたずらっ子のように語る。日本アバイア ソリューション企画担当部長・マネージングコンサルタントの岩佐智宏氏は自分の仕事を「ある意味では手品をやっているようなもの」という。
米国ニュージャージー州に本社を置く米アバイアは、2000年に誕生した新しい会社だ。しかし、そのルーツは電話を発明したことで知られるグラハム・ベルが1877年に興したベル電話会社にまでさかのぼることができる。その後、WesternDigitalやAT&Tといった時代を経て、1996年にルーセントテクノロジー(現アルカテル・ルーセント)がAT&Tから独立。アバイアは、そこからさらに企業向けの電話やPBX(構内交換機)といった製品を扱う部門が分社する形で生まれた。日本の場合なら通販や金融会社のコールセンター、メーカーのサポートセンター向けのソリューションの開発、提供が主な業務だ。
岩佐氏の仕事は、技術自体の開発ではなく、いわゆる技術コンサルタントにあたる。社内のR&D(研究・開発)部門が開発したものや既存の技術を使い、その組み合わせによって顧客にマッチするシステムやソリューションを提案するというものだ。とはいえ、もちろんソリューションを提案して終わりではない。提案したシステムやソリューションを実際に組み上げるところまで日本アバイアの開発チームと共に岩佐氏が手がける。日本アバイアにおける技術コンサルタントチームを築き上げた経歴とともに、同時に現役のシステムエンジニアでもあるのだ。
そうした自身の仕事を岩佐氏は「コミュニケーションの仕組み作り」と表現している。しかし、めまぐるしく進化している携帯電話の機能やサービスはともかく、電話によるコミュニケーションは、ある意味では、ベルが発明した130年以上前から変わっていないともいえる。岩佐氏が作っていこうとしているコミュニケーションの仕組み作りとはどんなものなのだろうか。
■ウェブサービスとの有機的な結合
コールセンターへの問い合わせといって、多くの人がイメージするのは「○○のご用件は1を、××のご用件は2をプッシュしてください」といった機械音声などの読み上げだろう。音声認識などの技術が盛り込まれるといった変化はあるが、電話自体のインターフェースは基本的にプッシュボタンと通話口という2つで、これに大きな変化はない。コールセンターの対応システムもやはりそれほど革新的な変化が見られるものではない。普段あまりコールセンターの仕事に触れることがないユーザーにとって、電話サービスはそんなイメージなのではないだろうか。
しかし、岩佐氏は「電話という昔からあるありふれたものの本質的な役割は、人と人とをつなげることにあります。それは変わっていません。しかし、それを裏でコントロールする仕組みはどんどん変化しています」と述べる。その変化のひとつが「Avaya Voice Portal」だ。
かつては音声自動応答システム(IVR)などコールセンター向けのシステムは、IVR専用機など製品の中に組み込まれることが一般的であった。ハードウェア一体型のシステムであり、その中身はメーカー独自のAPIが組み込まれた一種のブラックボックスだった。そのため、機能拡張をしようとしても、基本的に開発したベンダーでなければできず、管理にも特殊な知識が要求された。これに対しAvaya Voice Portalが提供するのは、文字どおり新たなポータル(窓口)だ。それ自体にはコンテンツが組み込まれているわけではなく、電話からの音声や発信者番号といったデータをウェブアプリケーションサーバ用に変換するシステムだ。電話からのデータを通常のウェブアプリケーションサーバに送って、ウェブサービスや機能を使ってその情報を処理することができるというわけだ。いわば音声通話データ処理のオープン化といえる。
こうした技術革新により、音声はより簡単に多様なサービスを行える手段になっているという。たとえば、先に挙げた音声ナビゲーションも、よりダイレクトにユーザーが希望する部署へつなぐシステムも開発されている。発信者番号などからユーザーを特定し、ウェブサーバ経由でデータベースにアクセス。そのデータから担当者へ直接電話をつなぐといったシステムもある。また、ウェブの会員サービスへのログイン情報を参照して、ユーザーが見ていたウェブページのデータから、どの担当者へ優先的にナビゲーションするかを判断するといったパーソナライズされた音声システムも実現できる。
開発の手法も変わった。これまでは社内の研究開発の成果を受けて、何ができるかを考えていたのが、現在では機能を組み合わせる開発手法などに関しては、グーグルなどで社外の情報を検索して調べていくことの方が重要になってきたという。アバイア自身もハードウェアと一体の開発から方向性をシフトしており、ハード自体は他社製品を使いながら、そこに組み合わせるソフトウェアの開発に力を入れるようになっているという。
■オープン環境だからこそ活きる経験とアイディア
しかし、オープン環境になれば、当然サードベンダーも参入可能になる。アバイアの通信プラットフォームを導入しても、そこで使うソリューションは別のベンダーに発注するというように、競争相手が増えることも意味している。だが、岩佐氏は「だからこそ」と自信を見せる。「どんな技術をどう組み合わせるかというアイディアを提供する立場なのです。市場を開拓する役割であり、他社ベンダーの開発をサポートする立場でもあります。それは経験やノウハウの蓄積があるからこそできることですから」。特に日本のユーザーは、海外に比べてソリューションに対するこだわりが強いと氏は指摘する。海外では「使えればいい」というユーザーが多いが、日本のユーザーは細かい使い勝手やインターフェースの見た目などにもこだわりを持って選んでくる。そうした要求に応えていく独自の発想と、きめ細かなフォローが必要になるのだ。
たとえば、配送業など、外出先と社内の間の密接なコミュニケーションが必要な業務で、交通事情など予期しない状況による配送の遅れが発生することもある。そうした場合、通常であればドライバーは取引先の担当者の電話番号を調べて電話をするという方法をとることになる。しかし、音声ソリューションを活用すれば、いちいち相手の番号を調べなくても、状況などを伝えるだけで自動的に適切な相手に取り次いでくれ、社内関係者との電話会議を自動的に招集してくれるといった、ビジネスプロセスに組み込まれた音声システムの構築も可能だ。これらは既存のメールやウェブサイト活用に加え、音声によるコミュニケーションを有効活用する仕組みだ。もちろん効率的に必要なコミュニケーションを行うためには、機能だけでは不十分だ。ユーザーを混乱させない操作のシンプルさや判りやすいガイダンス、シンプルな音声認識と組み合わせたユーザーインタフェースのデザインがなければ、使われない機能ばかり増え、ほんとうの意味で有効活用されるソリューションにはなりえない。アバイアの通信プラットフォームの独自機能と並んで、経験やノウハウを活かしたこうした細部への配慮が、他社に対抗していく強みなのだ。
実際、開発に関しても、サードベンダーが開発不能に陥った案件を引き取って、2週間程度でシステムを納入したこともあるという。「できるだろうと思って返事をしたけど、意外と難しくて苦労するなんてこともありますけどね。そんなときは徹夜することもあります(笑)」。
■インフラという道路に何を走らせるか
「コミュニケーションの仕組みを作る」。岩佐氏はインタビューの中でたびたびこのフレーズを繰り返した。ここで岩佐氏がいう「仕組み」は単純な「技術」や「機能」ではない。技術や機能を使って、必要な人同士を適切に、より便利につないでいく。それが岩佐氏のいう「コミュニケーションの仕組み」だ。
「グーグルのようなモデルに興味を持っているんです。グーグルのサービスというのは、みんな『なんだかわからないけど、便利だから使っていた』という使われ方をしている。しかもその裏ではきちんとビジネスモデルも確立している。そういうモデルを私もいつか作ってみたいと思っています」。岩佐氏はそう語る。機能や技術という小難しい話はともかくとして、結果としてユーザーにとって便利なシステムやサービスが提供され、技術的な理解抜きに浸透する。岩佐氏がいう「仕組み」も同じことだ。
NGNに関しても同様だ。「NGNというのはプラットフォームであり、ものすごく広い道路のようなものです。そこでは今まで以上にいろいろな車が走れる可能性がありますが、その車のデザインができあがっているわけではない。ビジネス的な目的のために何をどのように走らせるかを考えるのが私たちの仕事なんです」。
手品には種も仕掛けもある。しかし、人々が手品に惹かれるのは、種や仕掛け自体が面白いからではないだろう。トリックをうまく使って、芸として披露されたとき、初めて手品は手品になる。常に新しい技術を学んでいくきまじめさと、人がおどろいたり感心したりするのを見る喜びを知る岩佐氏は、なるほど確かにエンジニアという名の手品師なのかもしれない。
(小林聖@RBB 2008年6月21日 03:20)
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