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★ Slash Gamesは、2007年6月1日より「インサイド」になりました
Shoot it! - #11 ゲーマーが使うマウスパッドはここが違う!
12月13日
ソフトトレーディング社の最新作「SteelPad QcK mass」。日本市場を意識したサイズだ
 多くのパソコンユーザが、マウスパッドを「無いよりは在ったほうがマシ」なもの、あるいは「好みの絵柄を楽しむアクセサリー」と考えている。だから無料の景品でもいいし、買うにしても数百円から千円程度で済ませるだろう。ところが、マウスパッドに数千円を惜しまない人々がいる。Eスポーツのプレーヤーたちだ。数千円のマウスパッドとは、いったいどんな素材を使っているのだろうか。

 説明するまでもなく、マウスパッドはマウスの操作性を向上するためにデスクの上に敷くシートである。

 ボールタイプのマウスは、中にゴム製のボールが仕込まれている。マウスの移動によりボールが回転すると、ボールはマウス内部のふたつのローラーを回転させる。ふたつのローラーの回転をロータリーエンコーダと呼ばれるセンサーが検出、X軸とY軸の移動量をPCに伝える。つまり、マウスによる操作のきっかけはゴム製のボールである。しかし、マウスの設置面の素材によってはボールがすべり、腕の動きとマウスカーソルの動きが一致しない。そこで、ゴム製ボールがしっかり動くようなマウスパッドが考案された。

 その後、光学式マウスが登場する。光学式マウスはボールを持たず、設置面の色の変化を光学センサーが読み取る。レーザーマウスも同様だ。これらのマウスは透明な素材や真っ白な紙の上では使えないものの、基本的には設置面の材質に左右されない。光学センサーが読み取りやすいものは雑誌の表紙など、写真が印刷された紙だと言われていた。カラー印刷は4色の点で作られており、その点の連続はマウスの光学センサーと相性がよかった。もうマウスパッドはいらない、とさえ言われた。

 しかし、マウスパッドはなくならなかった。

 光学マウス時代に合わせて、よくすべり、スムーズにセンサに検知されるマウスパッドが求められたからだ。しかし、一般的な用途で求められるマウスパッドの条件はそこまでだろう。ほとんどの人はマウスパッドを表面の柄や形で選択しているのではないか。すこしこだわる人ならリストレスト付きを選ぶだろうし、まったくこだわらないなら薄っぺらいノベルティでも十分だと考えているはずだ。

 しかし、Eスポーツを楽しむ人々は安物のマウスパッドでは満足しない。ゴルファーがグローブ選びにこだわるように、彼らはマウスにもマウスパッドにもこだわっている。ゲーマー向けマウスパッドとは何だろうか。従来のマウスパッドにどんな工夫をしたらゲーマー向けと言えるのか。その答えをソフトトレーディング社のビンセント氏が教えてくれた。ソフトトレーディングはデンマークのPCアクセサリメーカーで、FPSゲームプレイヤーには有名なマウスパッド「Icemat」や「Steelpad」を手がけている。ビンセント氏は同社のアジア担当CEOで、日本での展開に力を入れるために来日していた。

「どうしてゲーマー向けのマウスパッドがないのか」 それが、ソフトトレーディングが「Icemat」を手がけるきっかけだった。ソフトトレーディングは文字通り、ソフトウェア関連の会社だった。そこにゲーマー向けのマウスパッドという企画と試作品が持ち込まれた。会社はその製品には満足しなかったけれど、ゲーマー向けのマウスパッドというアイデアに注目した。

 リサーチの結果、プロゲーマーをはじめ、Eスポーツと呼ばれる競技性の高い対戦ゲームに熱中する人は、毎月1枚のペースでマウスパッドを購入していることがわかった。その理由は単純なものだった。“マウスパッドが磨り減ってしまう”のだ。仕事で使うPCユーザよりも、ゲーマーのほうが作業量が多い。マウスを力任せに激しく動かす。激しい戦いになれば汗もかく。だから彼らのマウスパッドはすぐにボロボロになってしまう。プラスチック製のマウスは表面に細かな突起をつくり、素材の滑りやすさと突起の摩擦でマウス操作をサポートする。しかしプロゲーマーの激しい動きは小さな突起を削り取ってしまう。その結果、マウスパッドは使い物にならなくなる。

マイクロソフト社とコラボレーションしたsteel mouse。インテリマウス エクスプローラの表面素材を加工したもの
 とにかく磨り減らないマウスパッドがほしい。そんなゲーマーの声に応えるため、ソフトトレーディングがたどり着いた答えがガラスだった。表面が滑らかで磨耗せず、汗や手垢で汚れても簡単に掃除できる。唯一の欠点は衝撃に弱いこと。しかし、割れなければ一生モノ。こうして世に出た製品が世界初のガラス製マウスパッドであった。ちなみに、ガラスは分子構造的に言うと固体ではなく“固まった液体”である。衝撃に弱いが磨耗に強く、熱伝導性にも優れている。

 「Icemat」はゲーマーを意識した初めてのマウスパッドだ。そのアピールは世界のゲームプレイヤーにすぐに浸透した。いまや「Icemat」はヨーロッパや中国で、もっとも人気のあるマウスパッドのひとつだといわれている。日本でも販売されており、価格は6000円前後。マウスパッドに数千円は高い、と思われそうだが、1000円のマウスパッドが1か月で磨り減る人ならお得な買い物だと言えるだろう。

 面白いことに、デンマーク製の「Icemat」はゲーマー以外の人々にも売れている。デンマークはデザインにこだわりを持つ人が多い。それはソフトトレーディング社も例外ではなかった。既存のマウスパッドにガラス素材を使うだけではなく、無駄な柄を使わないシンプルなデザイン、控えめながら存在感のあるロゴを配した。それが身の回りのモノのデザインにこだわる人々に注目された。確かに「Icemat」は美しい。最新製品「Icemat 2nd Edition」は8色のカラーバリエーションを持つ。インテリア情報誌で紹介されても不思議じゃない。

 ソフトトレーディングは「Icemat」の成功で、ゲーマーに特化した製品作りに確信を持った。今度は同社のゲーマー用マウスパッド「SteelPad」ブランドの改良品を作るため、プロゲーマーのHeatoN選手とコラボレーションした。HeatoN選手はスウェーデンのプロチームSKに所属していた有名プレーヤーで、現在はNiP(Ninjas in Pyjamas)のキャプテンである。HeatoNとソフトトレーディング社の共同作業は気の遠くなるほど丁寧なものだった。なにしろ、開発のゴールは磨耗性、摩擦係数などの“数値”ではなく“HeatoNが満足するもの”だったからだ。

 ソフトトレーディングはマウスパッドの表面素材として200種類以上のサンプルを送り、HeatoNがそれでゲームをプレイし続けた。ようやく表面素材が特殊なプラスチックに決まると、次はマウスの裏面である。これは100種類のサンプルが試された。マウスパッド裏面は机の上の埃や汗などの油分で吸着力を失っていく。その素材にYES/NOを評価するだけでも時間がかかる。こうして作られたマウスパッドが「SteelPad S&S」だ。製品名のS&Sは“Soft Trading”と“SK Gaming”のイニシャルに由来する。

 現在、ゲーマー用と称されるマウスパッドはいくつかのメーカーが手がけており、日本のメーカーも参入している。「SteelPad S&S」は、それらの中でも世界のプロゲームチームが愛用するトップブランドだ。その開発ストーリーは野球のグローブ、サッカーのスパイクシューズなどと同じくらい奥が深くて面白い。ゲーマー向けというカテゴリーは日本のPCアクセサリー市場には無い新鮮なものだ。

 ビンセント氏に「MMORPG用マウスパッド、FPS用マウスパッド、RTS用マウスパッドなどが店頭に並んだら面白いね」と言ったら、一笑して却下されてしまった。「用途はプレイヤーが決めるんですよ」と。HeatoNがゴーサインを出したマウスパッドは“HeatoNのお気に入り”に過ぎず、FPSプレーヤーに最適かどうかはプレイヤー自身が決めることなのだ。だから“FPSマウスバッド”という製品はありえない。他のFPSプレーヤーと組んだら、また異なる製品ができるかもしれない。ゲーマー向け製品とは、なんと奥深いものだろうか。

 余談だが、私も数年前からゲーマー用マウスパッドを愛用している。ゲームの腕に反映されたかどうかは定かでは無いけれど、はっきりわかったことがある。右上腕部から肩にかけての負担がかなり軽減されて、肩こりが改善された。おそらくマウスのすべりがよくなったためだと思われる。ゲーマー用にこだわらずとも、PCユーザはマウスパッドにもう少しこだわったほうがよさそうだ。
(杉山淳一@RBB)
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