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【CEDEC2006】「大学のゲーム教育・世界編」
9月1日
東京大学大学院情報学環教授 馬場章氏
■CEDEC レギュラーセッション

IDGA アカデミック(2)
大学のゲーム教育・世界編

東京大学大学院情報学環教授 馬場章氏
東京大学大学院情報学環教授 特任研究員 藤原正仁氏

 日本では「コンピュータゲームは玩具の延長」という捉え方が主流だ。したがって、コンピュータゲームは学問の対象とならず、高等教育機関においてもゲーム学は発生しにくかった。しかし海外では大学においてゲームの製作やマーケティングなどを教育するカリキュラムが誕生しており、大手ゲームメーカーとの産学協同やインターンシップも盛んだ。

 ゲーム産業でもっとも重要なファクターは人材であり、その意味でゲーム産業は労働集約型だと言える。日本のゲーム産業が国際市場に立ち向かう競争力を得るためには、優秀なクリエイターの育成が急務だ。そのためには、高等教育機関でクオリティの高い人材教育を行う必要がある。馬場氏はその手本として海外のゲーム教育の事例を紹介した。また、藤原氏は、米国の企業と大学とで盛んに行われているインターン制度がゲーム産業でも有効に機能している例を紹介した。

■ゲーム教育の位置づけ

海外でゲーム学のカリキュラムを持つ大学は、北米ではカーネギーメロン大学、マサチューセッツ州工科大学、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)など、日本でも著名な大学も多い。このほかにもヨーロッパ、中国、韓国、台湾、オーストラリアなどでゲーム教育が行われている。しかし、ゲーム学に対する考え方は地域ごとに違っているそうだ。欧米では技術と娯楽、あるいは技術と芸術を複合させた学問としてゲーム学が行われている。一方、アジアではIT教育のひとつ、またはデジタルコンテンツ制作者養成という位置づけになっている。

 ここまでの話を聞いて、日本の実情を振り返ってみた。日本では専門学校でプログラミングやデザインなど、即戦力系の技術を身につけるというスタイルが多い。大学にはゲーム学という学科はないので、プログラミングを学ぶなら工学部や理学部、シナリオを作るなら文学部の演劇科や美学科、というふうに既存の学部学科からゲームに使えそうな知識を身につけた。しかし、それぞれゲームのための学問ではないので、学部本来の、つまりゲームから距離を置いた教育を受けることになる。もっとも、これは学生の就職口となるゲームメーカーの意向とも一致していたように思う。ゲームの実務は会社で教えるので、ゲーム以外の幅広い知識をしっかり身につけた人材がほしい、そんな会社が多いのではないか。

 もちろんこれは日本と海外の大学に対する期待や目的の違いも考慮すべきだろう。日本の大学は、医学や法学、防衛学などの特殊な学部を除いて、学者になることを頂点とした教育を行っている。しかし、海外の大学は、優れた人材を卒業させることで社会に貢献するというポリシーがある。馬場氏はこうした状況をふまえて、欧米やアジアの物まねではなく、利用者のスタイルを批判的に学び、日本独自の教育組織を構想する必要があると語った。

■アメリカ並みの高等教育を目指すには?

 続いて、もっとも進んでいるとされるアメリカのゲーム教育について、カーネギー・メロン大学の大学院、Entertainment Technology Centerを紹介した。アメリカにおいて、高等教育におけるゲーム教育の必要性を最初に主張した人々は、大学の経営者や教授ではなく、ゲーム開発の現場にいる人々だった。国際ゲーム開発者協会(IGDA)は2003年にゲーム教育のための9のコアトピックスを提唱する。それは人文学的な「批判的ゲーム研究」、「ゲームと社会」、「ゲームデザイン」、技術学的な「ゲームプログラミング」、「ビジュアルデザイン」、「サウンドデザイン」、「インタラクティブストーリーテリング」、そして、経済学的な「ゲームプロデュース」「ゲームビジネス」であった。この提案は現在の高等教育のカリキュラム作りに、ほぼ原型のまま活かされている。

 カーネギー・メロン大学のETCは、芸術学とコンピュータテクノロジー学の重なり合った部分に生まれた新しいエンターテイメント学部として作られた。2年間のカリキュラムで、半年ごとにカリキュラムを選択。1年次と2年次の間の夏休み期間中にはインターンシップ(企業での実務研修)が行われ、さらに2年次には、拡張型インターンシップ(ほぼ就職した状態の研修教育)が実施される。この制度はゲーム業界最大手のエレクトロニック・アーツ社が協賛している。エレクトロニック・アーツ社は、ゲーム学を実施する複数の大学に協力しているほか、独自の企業内カリキュラム「EAアカデミー」を持っている。

 馬場氏は、こうした事例を紹介した後、海外のゲーム教育からなにを学ぶべきかをまとめた。ゲーム学の学位をどうするべきか、産学連携の方法、教育者の養成、教科書の不足など、アメリカと同レベルの教育を行うためには、日本では足りないものが多すぎる。教育者の養成という部分では、日本の大学制度そのものに対する限界もある。ゲーム産業で功績があり、指導力があったとしても、学位がなければ教授になれない。これは産学協同の大きな障壁になる。馬場氏はこうした問題をひとつずつ解決し、日本の高等ゲーム教育を実現させるべきだというメッセージで締めくくった。



■インターンシップの進化版「産学連携教育」

 次に、藤原氏からカーネギー・メロン大学のインターンシップが紹介された。日本でインターンシップがもっとも定着している学問は、医学や看護学、教育学の分野であろう。近年、他の学部でもインターンシップが行われるようになったが、日本では研修期間が短く、社会見学のレベルで終わることも多いようだ。これは、日本のインターンシップが大学側のプログラムであり、期間が短かったり、週のうち大学に3日、インターン先の企業に3日などと掛け持ち状態になりがちなことに原因がある。

 米国の場合、インターンシップのプログラムは企業側が運営する。企業は研修生を客として迎えるのではなく、新しい感性を持って入社するパートナー、あるいは低賃金の労働力だと考えている。会社に来たからには一日も早く一人前の仕事をして貰う、ということらしい。研修生や見学者ではなく、社員として迎えるのだ。

 さらに、インターンシップをもう一歩進めた「産学連携教育」も行われている。CO-OP(コーオプ)と呼ばれる制度で、大学、学生、企業が連携し、責任を分担して組織的な教育を行っている。CO-OPの基本は半年で、参加すると大学の選択科目の履修が免除される。また、フルタイムの求人に応募した場合は期間の延長が可能で、最長1年間に渡る。こうしたインターンシップやCO-OP制度は、企業の人材育成、雇用、活用制度の面で重視されている。

 一方で日本のゲーム業界ではインターンシップが活用されていない。その理由は、企業側に受け入れ態勢が整っていないこと、学生側の社会性が未熟で到底戦力にならないことが挙げられる。しかし、インターンシップは産学連携の出発点とも言える分野である。大学側、企業側の努力で日本版インターンシップを確立することが、人材育成面で重要なことだと思う。

 日本でも、古くから経営学部などビジネスマンを育成する分野があった。また、宮城県立大学の事業構想学部など、ビジネススクールを目指した新学部、新学科設立の動きも目立ってきた。大学側には独立行政法人化と少子化により、生き残るための戦略が求められている。日本の大学に新しい息吹を与えるなら今がチャンス。日本のゲーム学がいち早く確立されることを期待したい。

(左)東京大学大学院情報学環教授 特任研究員 藤原正仁氏

(杉山淳一@RBB)
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